【完結】異世界帰りの高校生、銀髪美少女と同居~そんなことより充実した青春を過ごしたい~

松本ショウメン

第1章 始まり

第1話 17歳、高校1年生

 俺、伊月いつきみのるには夢がある。


 それは、充実した青春を過ごすことだ。


 人生で一度きりの高校生活。

 制服に身を包み、クラスメイトと授業を受けて。

 昼は屋上でご飯を食べて。放課後は街へ遊びに出かけて。


 そんな毎日を過ごしていく中で、好きな子なんかできたりして。

 文化祭や体育祭みたいなビッグイベントでその子との距離を一気に詰めて、告白して付き合って。


 平日も休日も、友人や彼女と遊びまくる。たまには一人の時間も作ってね。

 そうやって高校三年間を過ごす。


 それが、俺が考える充実した青春であり、絶対に叶えたい夢だ。


 そして今日は、そんな充実した青春の1ページ目、入学式。

 新入生にとって入学式という日は、自分のクラスやクラスメイト、担任。さらには、自分の第一印象が決まる重要な日である。


 ……今日この日だけは一切ミスが許されない。

 なぜなら、高校生活での自分の立ち位置は第一印象で決まると言っても過言ではないからだ。


 容姿、清潔感、立ち振る舞い。

 そのどれか1つでもミスったら最後、スクールカースト三軍入り確定、ひいては充実した青春から遠ざかってしまう。


 それだけは絶対に避けたい。

 だから俺は見た目や清潔感に気を遣い、高校デビューで失敗しない立ち振る舞いをネットで見まくった。

 もうすでに自己紹介まで考えてある。


 入学式に行って帰って来るまでの俺の作戦は完璧。

 脳内シミュレーションもして、全てが順調にいくはずだったのに……。


「みのる、忘れ物ないかちゃんと確認した?」


 靴を履き終え、あとは出かけるだけの俺に母さんがそう訊いてくる。


「うん確認したけどさ――」

「ならよし。本当は母さんも一緒に付いて学校に行きたいんだけど……それはみのるが嫌なのよね……。まぁでも、式はお父さんとバッチリ見させてもらうからね! 頑張ってよ! それじゃアリシアちゃん、みのるをお願いね」

「ふぁーい」

「――ちょっと待ってくれ。なんでアリシアが付いてくんだよっ!」


 俺の隣であくびをしながら返事をした美少女、アリシア。


 サラサラとした銀髪のロングストレートで、大きく綺麗な青色の瞳。

 毛穴一つ見えない透き通った肌に桃色の唇。

 160センチ超えの身長に、出過ぎてない完璧なスタイルは、モデルのスカウトが来そうなレベル。


 そんな容姿をした美少女兼居候ニートのアリシアが、なぜか学校まで付いて来ることになっていた。


「なんでって……母さん、またみのるが前みたいな事にならないか心配だからよ」

「それとアリシアに何の関係が?」

「アリシアちゃんがいれば安心じゃない?」


 母さんのアリシアに対するその信頼はどこからきてんだ。

 こいつがいても絶対に何かやらかすだけだぞ。 


「心配しなくても俺一人で大丈夫だって。それに、アリシアだってまだ寝てたいだろうし――」


 だが。ふと横を見ると、アリシアが「任せてください」と言わんばかりに腕を組んでドヤ顔をしていた。


 こいつめっちゃ目、覚めてる……。

 まじで付いて来る気か……。


「とにかく、そういう事だからね。もたもたしてると入学式に遅れるわよ。ほら行った行った。――それじゃ二人とも気を付けて行ってらっしゃい!」


 抗議する暇もなく、家から強制的に追い出された。


 ガチャン。


 鍵もかけられた。


「はやく行きましょうよ」

「お、おう……」


 仕方なく学校に向かって歩き出す。


 …………まずい。このままだと俺の完璧な作戦がパーになる。


 行って帰って来るまでスクールカースト二軍でいること。目立ち過ぎず、目立たなさ過ぎずの行動。

 あくまで普通、容姿も言動も平均的な男子高校生。二軍な立ち振る舞いをするだけの超簡単で完璧な作戦が、アリシアが付いて来ることで全てパーになる。


 理由は単純、アリシアが容姿だけは美少女だからだ。

 街に出れば男女関係なくすれ違う人に二度見され、一人になるとすぐナンパされる。それ程に目立つ美少女。

 そんなアリシアと学校に行ったら、隣にいる俺も確実に目立つ。

 その時点でアウト。一軍の素質がない俺が目立てば二軍未満、三軍認定される可能性がある。


 だが問題はそれ以上に、目立ったあとにアリシアと俺が比較されてしまうことだ。


 学生なんてのは、誰がイケメンで誰がカワイイ、誰がフツメンで誰がブサイクかって他人の容姿を評価することが大好きな生き物。

 学校じゃ他人の立ち位置を推し量るのに、容姿が簡単な指標になるから仕方ないことではあるんだけど。


 比較されれば恐らく、いや確実に。俺はブス判定されるっ!!!


 これは別に自虐なんかじゃない。

 俺は自分の容姿を100点満点中の55点くらいだと思っているしな。

 ただ、一人でいる55点と、隣に90点越えの容姿をしたやつがいる55点じゃ訳が違う。


 このままアリシアと学校に向かえば、容姿選別で俺の三軍入りは可能性から確定へと変わる。

 この状況、早くなんとかしないと!!!


「おいアリシア。今からお前、ブサイクになれるか?」

「急に何言ってんの? まさか私が可愛すぎて隣を歩くの緊張しちゃう? これだから童貞は」

「うるせーよ。できるのかできないのか聞いてんだよ俺は」

「そんな事できるわけないじゃない」

「あっそう」


 少ない可能性にかけたが、まあ無理か。


 何か他の方法は……。


 あれ。

 てか俺たちって他の生徒からどう見られるんだろうか。

 容姿は完全に似てないし、年齢は同じだから義理の親だとか保護者って見た目でもないし。

 幼なじみ、もしくはカップルって勘違いされる可能性あるか……?


 もしそうだとしたら最悪だ!

 女がいるって勘違いされるだけで俺の彼女作りは難易度爆上がりするし、そもそも入学式に女連れてくるとか印象悪すぎる!

 そんなの、スクールカースト以前の問題!


 だめだ、これは本気でだめだ。

 母さんの心配を無下にするみたいで、なんとなく気が引けてたが、普通にアリシアには帰ってもらおう。

 俺の高校人生に関わってくるからな。


「アリシア、いちいち学校まで付いてくるのダルいだろ? だからもう帰っていいぞ」


 俺は足を止めてアリシアに言う。しかしアリシアは止まらず。


「えー。けど、かおりさんに頼まれちゃったし帰れないよー」


 そう言ってきた。


 ちっ、なんだよそれ。いつもならこういう事めんどくさがるくせに。

 お前そういう性格じゃないだろ。


「それにね、こっちの学校すごく気になるし見てみたいっ」

「――そっちが本音か!」


 やばいやばい。

 アリシアのやつ、目をキラキラさせてやがる。

 何か余計な事をしようと考えてる時の目だ、絶対!

 マジでこいつを帰らせないと俺の高校人生が!


「タロウちゃん! 待って!!!」

「ワンッ!」


 突然。うしろから大きな声が聞こえてきたと思ったら、続いて俺の横を犬が爆速で駆けていった。


「犬……。んっ、そっちは――!」


 犬は急に方向を変えて、道路に飛び出していった。

 その少し先には車。


「身体能力強化魔法――フルフィジック」


 俺は、周りの人に聞こえないレベルの声でそう早く呟いて。

 全速力で犬の元へ走った。

 そして。


「すまんっ」


 少し強引だが、リードを引っ張って犬を勢いよく歩道側に寄せた。

 そのすぐ後に車が横切る。


「あっぶな……」


 間一髪。

 犬は轢かれる事なく無事。


「タロウちゃんっ!」

「ワンっ!!」


 犬は俺から離れ、ダッシュで飼い主の元へ。

 飼い主は犬が怪我をしてない事を確認した後、俺のところにきた。


「迷惑かけてすみません! ほんと、本当にすみません!」

「いやいや全然。それより、リード強引に引っ張っちゃったんですけど大丈夫ですか」

「あっいやもうそんな、ハーネスなんで気にしなくて大丈夫ですよ。――ほんと、命が助かっただけでも全然」

「それは良かったです。じゃあ、そろそろ俺は行きますね」

「あっはい!」


 その場を後にする。

 少し離れてアリシアが口を開く。


「こっちに来てから思ってたんだけど、ここの人達って何かして貰った時よく『ありがとう』じゃなくて『すみません』って言うわよね。素直に『ありがとう』って言えばいいのに」

「おお、アリシアにしては珍しくなんか良い事言ってるな」

「珍しくってなによ、バカにしてんの? ――ていうかそんな事より、外じゃ魔法は使っちゃダメなんじゃないの?」

「しっ! お前声がデカい。……さっきのは、緊急だったから良いんだよ」

「とか言って、緊急じゃなくても色々言い訳して学校で使う気でしょ」

「当たり前だろ。だって学校は校内、建物の中であって外じゃないからな。それに俺が言ったのは、『魔法を使うなら、外では気をつけろ』だったはずだけどな」

「えーそうは言ってなかったと思うけど……。あっ、あそこ。人がいっぱいいるところ。もしかして、あれがみのるの学校?」

「ん、そうそう――ってもう着いたのか!?」


 犬の件でなんか頭から抜けてた、そうだった。

 アリシアを帰らせないといけなかったんだ!


「アリシアっ、もう、ここまでで大丈夫だから。見送りありがとうな、それじゃ」


 俺はアリシアの歩みを止めるように肩を強く握ったが、全く止められない。


「いやいや、校門までしっかり付いていってあげるわよ。優しい私に感謝して?」

「いやいやいや、そんな気を遣わなくていいから。な? な?」

「いやいやいやいや、そんな遠慮しなくていいわよ。私、優しいから」


 くっ、ダメだ。こいつ力が強い!

 こんな強情になるって事は何か企んでいるに違いないが、今の俺には止める術がない。


 考えろ考えろ。

 ……んークソッ!!

 何も思いつかない、諦めるしかない!

 せめて、こいつと容姿を比べられる事だけでも避ける!


 そう思い立った俺は、アリシアを置いて一気に校門まで駆け抜けた。


「はぁはぁ、普通に最初からこうすれば良かったんだな」


 結局、アリシアの隣を歩かなければいいだけ。

 そして校内に入ったあとはアリシアを無視して他人のフリをする。

 そうすれば校門で立っている先生が、関係者以外立ち入り禁止って言ってアリシアを止めてくれるだろう。


「難しく考えすぎたな」


 アリシアの企みは気になるが、あとの事は全部先生に任せよう。


 俺は、自分の事に集中すればいいだけ。夢のために。


「矢見咲高校……」


 ――この学校で俺は、充実した青春を必ず過ごす。


 ――異世界で手に入れた魔法で、高校生活を無双(青春)する!



 うしろを振り返ると、アリシアの姿はなかった。




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