第25話  覚悟

二十五 覚悟


「そうでしょ。」


マリの口から出た言葉に、ラルムと白髭の執事は驚き声を失います。

刻の執事もマリになっている玻璃から鏡の話が出るなど思いもよらず動け無くなっていました。

チムニーと紬とするような友達の楽しい話をしていた瑠璃がみんなのおかしな様子に気がつき


「なに?どうしたの?」


そう尋ねても誰も動こうとしない


「ねえ。どうしたのよ。鏡って言ってた?なんだっけ、さっき、なんて言って、、あっ確か ヘラの」


そう言いかけると、チムニーが瑠璃の口をものすごい勢いで塞ぎます。 瑠璃は、驚いたのと、苦しいので、手を離してともがきますが、チムニーはいっそう強く抑え


「手を離すけど、お願いだから喋らないで。約束して。一言も喋らないって。質問もしないって。」


その怖いくらいの真剣さは、瑠璃にもしっかりと伝わり わかった と頷きます。

そっと手をどかすチムニーの顔は、瑠璃の不安を大きくするほど怖い顔でした。


「マリさん。そのことをどうして知っているのですか?十一夜に来たものしか、いや来たものでも知らないはずです。なぜ?」


白髭の執事はマリに鼻が付きそうなくらい近づいて小さな声で尋ねます。

刻の狭間に来てから、刻の執事よりも自然に助け舟を出していた暁もすぐに言葉が出せない。マリは、


「私のおばあちゃんが教えてくれたの、鏡の事。私だけに。誰にも話したらいけないよ。 話したら、女神様に会えなくなるよって。だから、誰にも話さなかった。」

「そうですか。」


白髭の執事は、やはりそうなのかと もう女王の涙を止めるすべがないのだと膝から崩れ落ちていきます。


「もう会えたから話したのね」


そう明るい声で話す瑠璃の口をチムニーはまた塞ぎ、瑠璃はそうだったと、塞がれている口の上から人差し指を当てて しー と、もう喋らないからと合図を送ってみますが、チムニーの手はもうそのまま。

マリは続けます。


「おばあちゃんはこんな風に教えてくれたわ。 昔、昔。刻にいた女神達は、オルゴールたちをとてもとても愛していました。

十一夜を迎えた子供達がやって来ると女神達が愛し、大切にしているオルゴールたちを動かして、十一夜を華やかに彩ってお祝いしていました。

ところがある年。そのオルゴールの一つが、女神様よりも十一夜の子と仲良くなって、その子が『時』にオルゴールを連れて行きたいと言い出します。

困った女神は、そのオルゴールに あなたも『時』に行きたいのかと尋ねます。

オルゴールは刻に残りたいと、その答えにホッとした女神でしたが、 そのオルゴールが刻に残りたいのは、ずっと一緒にいたいオルゴールがいるからだと知り、 嫉妬した女神は 満月の夜、鏡に姿を変えて自分の中にそのオルゴールを閉じ込めてしまいました。」


聞いてはいけない話、そう思いながらも静かに聞いていたオルゴール達は、マリの話が終わると驚いたようにお互いの顔を見て


「そのおばあさまの話は本当?」


マリは強く頷くと


「おばあちゃんもおばあちゃんから聞いたって。私は本当にそうだと信じてる。」


マリの話に戸惑うオルゴール達は、


「マリのおばあさまの話通りなら、、、女神様達って、、、」

「でも、本当にそうなのかわからないわ。」

「そうでございますね。聞いた話と言うだけでは、、、」


マリは


「おばあちゃんの話は、まだ続きがあるのよ。

刻の女神様達は、姉妹でした。お二人はとても仲がよくオルゴール達をお二人で大切にしていました。

それなのにお一人は嫉妬に心が支配され、鏡になってオルゴールを閉じ込めてしまった。

残された女神様はその日から泣きつずけて、金色に輝く瞳はいつしか赤くなり、涙がその瞳を宝石のように輝かせている。

その刻から、女神様は満月の日に赤いアミュレットグラスを神父様から受け取った子だけを十一夜に迎えるようになりました。」


話を聞き終わると


「女神様は、二人いらした、、、」

「私たちの刻の女神様とは別の女神様が、、、まさか、、、」

「そうなら、女王様の願いも、、、、」


マリの話が終わる頃には、チムニーの手も瑠璃の口から離れていて、瑠璃は思わず


「確かに女神様の瞳、宝石のように、、、赤いアミュレットグラスのように赤く輝いていた。」


チムニーが驚いて瑠璃を見て


「本当に?本当に刻の女神様の瞳は赤いの?」

「チムニー、知らないの?女神様の瞳見たこと無いの?」


瑠璃はそう言うと、ほら と天井を指さしますがそこには、あんなに輝いていた光はありませんでした。

女神の姿は始まりにいたそこにはもう無かったのです。


「あれ、女神様が、、、」

「瑠璃さん。大丈夫です。十一夜が明ける頃、またいらしゃいます。」


マリの話に動くことができないでいた刻の執事もやっと口を開きました。そして暁に


「マリさんのおばあさまのお話は、本当のようですね。」

「ええ、私も驚きました、、、鏡の事は知っていたが、、、」


声が出せずにいた暁もそう絞り出すように言うと、刻の執事は驚いて


「えっ、あなたも知らなかったのですか。」

「ああ。誰にも話すなと言われたら、誰にも話さない。彼女はそう言う人なんだよ。大好きなおばあさんと約束したのだからね。それに、話せばどんな迷惑がかかるか心配だったんだろう。」

「でも、話した。瑠璃さんの言うように、刻の女神様に会えたからでしょうか?」


刻の執事の問いに、暁は


「そうじゃない。覚悟を決めたんだ。深い悲しみに沈む女王を二度も放っておくことはできない、、、とね」

「えっ。」


暁の言葉に刻の執事は全てが繋がり、心の中で抱いていた疑問の糸が解けていくのを感じていました。

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