第42話  『時』へ

四十二 『時』へ



「ママ。パパ。良かった、、、良かった、、、良かった、、、」


瑠璃は、玻璃と暁の手を握りしめます。

動かなく、固くなっていた手に温かさが戻り、いつもの瑠璃の頬を優しく包んでくれるあの柔らかく、大きな手。玻璃と暁の手を自分の頬に当てると


「良かった、元のままだ。私の大好きなパパとママの手。」


玻璃と暁も愛おしそうに瑠璃の頬を撫でて、


「あぁ、、、ママの大〜好きな、柔らかいぷにぷにの瑠璃のほっぺ。」

「こうして、瑠璃のほっぺが、またパパの手の中にあるなんて、、、」

「うん。うん。ママ、パパ、、、」


瑠璃は、テリーゼが二人にカギをかけてくれたこと、そしてオルゴールに戻ってしまったことを話しました。


「そうか。テリーゼが、、、」

「自分の夢よりも、私たちの事を一番に思ってくれたのね、、、」


三人がオルゴールに戻って動かなくなったテリーゼに


「あなたの夢を また、私がじゃましたのね、、、ごめんなさい テリーゼ。」

「テリーゼ、君のおかげでまた瑠璃と一緒にいる事ができる。本当にありがとう。」


そう声をかけると、テリーゼが微笑んでいるように見えました。


「さあ、十一夜が明けます。『時』に戻る時間です。」


刻の執事が、三人に声をかけると玻璃が、


「待って、少し待って。」


そう言って、自分がつけているネックレスを外し、赤いアミュレットグラスを取り外して胸ポケットにしまうと、


「瑠璃、瑠璃もネックレスを。」


瑠璃も急いでネックレスを外しアミュレットグラスをポケットに入れると、


「あ、わかった。テリーゼとラウムにね!」

「そうよ、さすが我が子!」


玻璃と瑠璃は、二人のネックレスの留め金の反対側どうしを繋いで長い金の輪を作るとテリーゼとラウムの所に走って行き


「ありがと、テリーゼ。あなたが私たち家族にしてくれた事、決して忘れない。」

「いつか、二人で夢を叶えられますように。」


テリーゼとラウムが次の十一夜まで心が通じあっていますように、と願いを込めてネックレスをテリーゼとラウムの手が繋がるようにかけました。


女神が、瑠璃と玻璃に向かい


「瑠璃。玻璃。十一夜の祝いは、その夜明けと共に終わります。さあ『時』へ」


ゴーン ゴーン


深く重たい音が再び鳴りはじめ、刻の執事と暁の元に瑠璃と玻璃が、走って戻ってくると


「良いですか。『時』に帰りますよ!」


刻の執事がそう言って四人が手を繋ぐと、始まりの刻に瑠璃達を運んでくれたあの光の粒が降り注ぎ始めます。

光の粒はどんどん多くなり、あまりにも眩しすぎて瑠璃は思わず目を閉じると、降り注ぐ光の中で


「ありがとう。瑠璃」


女神の優しい声がそう言ったように聞こえ、そして光の中に全てが包まれていきました。


どれくらい時間が流れたのでしょう。


瑠璃は青い光の中で、体がゆっくりと揺らいで眠りから覚めていくように意識が戻ってきました。

遠くには波の音。

懐かしく心地いの良い揺らぎの中で目を開けると、光の中に玻璃と暁が立っています。


(ママ、パパ、、、誰と話しているの?)


まだ、頭がぼんやりとしていて、


(神父様?神父様と話しているの? ああ、ここは教会なんだ、、、私、どうして教会にいるんだっけ、、、)


瑠璃は、礼拝堂の椅子に横になっていました。

まだふらついていたけれどなんとか立ち上がり、教会の外で話している三人の所に向かいます。


「おはよう。瑠璃、まだお誕生日のケーキを食べていないそうですね。」

「えっ。あ、はい。」

「朝早くに礼拝に来てくれてありがとう。また来週、日曜礼拝で会いましょう。今日は帰って、玻璃さん手作りのお祝いのケーキを食べてください。お誕生日おめでとう。」

「はい。」


瑠璃は、まだぼーっとしたまま両親と星刻教会の坂を下りました。

振り返ると、いつものように神父様が手を振っています。

教会の坂の下にはいつもの駄菓子屋があり、駄菓子屋と坂の間を覗いてみるとその先には、星刻の海がキラキラと朝日に照らされて輝いていました。


(ガラスの野原は無いんだ、、、)


三人で手を繋いで家へ帰る道もいつものクネクネとした坂道。

空を見上げても白く輝く小さな粒が作った光の橋もそこにはありませんでした。

ただ、手を繋いでいる玻璃と暁の首のあたりがキラキラと光り、その中心に透き通った何かが揺らいでいるように見えます。


(十一夜って本当にあったのかな?やっぱり夢、、、かな。)


家に着いて自分の部屋に入り、ふと首元を触ると


(あれ、ネックレスがない!)


慌ててお気に入りの窓べに置いた金糸銀糸の小さな巾着の中を覗きましたが、アミュレットグラスはありません。

瑠璃がハッとしてポケットに手を入れると、そこには宝石のように赤く輝くアミュレットグラスが。


(あった。ポケットにアミュレットグラス。ああ、すごくきれい。ママのアミュレットグラスと同じくらいキラキラしてる。

不思議、こんなにキラキラしてたっけ。ふふ。良かった、本当に十一夜に行けたんだ。夢じゃなかったんだ)


瑠璃は、さらに輝きを増して宝石のように赤く光るアミュレットグラスを大切に巾着にしまいました。


月曜日の朝、玄関を出ると紬が立っていて


「おっはよ。アミュレットグラス何色だった?」


なんの屈託もなく聞いてきます。


(そうだった、答えを用意してなかった。どうしよう、紬の誕生日はまだ先だし、、、)


紬にだけは、本当の事を伝えて良いのか、答えに困っていると。


「その顔は、怖くて見てないんでしょ。」

「う、うん。」

「わかった。そんな事だろうと思ってたよ。大丈夫。学校のことは私に任せて。」


そう言って、走って行ってしまいました。


(ごめん、紬。いつかきっとちゃんと話すからね。)


学校に着くと、誰も瑠璃にアミュレットグラスの色を聞いてきませんし、刻の執事も話題になりませんでした。


(やっぱり、紬は優しいな)


瑠璃は、相変わらず教室の窓から海を眺めて空想の中にいましたが、


(テリーゼとラルム、どうしてるかな?チムニーに会いたいな。王様と女王様、仲良くしてるかな〜。女王様強いから、もうケンカしてたりして。)


以前とは少し違う空想の世界にニヤニヤしていると、前の席に座っている紬が振り返って


「瑠璃、瑠璃ったら。」

「えっ」

「転校生だって。瑠璃の隣の席が空いてるから、瑠璃が転校生のお世話係だってさ。」

「あ、ごめん。ぼーっとしちゃった。」

「もー、しっかりしてよ。」


紬にそう言われて、隣の席に座った転校生を見て


「よろしくね。私、る、、、り、、、。へっ」

「よろしくお願いします。晨(しん)です。」

「えっ、あっ、えっえ。」

「晨って漢字にはね、暁さんと同じ、夜明け っていう意味があるんだよ。」

「えっあっ、あっ、あー。ホントに!本物!」


瑠璃の隣の席には、ニッコリと微笑んでいる刻の執事が座っていました。




「十一夜の刻の執事」を最後まで読んでいただきありがとうございまた。

物語はこれで終わりですが、皆様の中に瑠璃やオルゴール達の思いが少しでも残っていてくれたら嬉しいです。

ありがとうございました。

          彩 夏香

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

十一夜の刻の執事 @irdorintuka08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ