第41話  二つのカギ

四十一   二つのカギ


「瑠璃さん、何を言ってるんですか!」


ますぐに女神を見つめる瑠璃に刻の執事が、その両腕をグッと掴んで


「あなたも刻の間に残るなんて、そんな事を言ってはいけない!」

「じゃあ、どうしたらいいの!大切な人と一緒に過ごす時間がどんなに素敵なことか、十一夜に来て、みんなと過ごして、もっともっとわかったんだよ!私は、もっと家族で、三人で一緒にいたいの!」

「でも、瑠璃。オルゴールになるなんて、、、」


テリーゼは、瑠璃の申し出があまりにとんでもない事で言葉を失ってしまいます。


「女神様。私は父と母と同じ時間をもっと過ごしたいです。『時』にある家は大好きだけど、それは、父と母と三人で暮らしていたからです。

一人で『時』に帰ってあの家に戻っても何にもありません。なんの意味もないんです。

オルゴールになったら、毎日は会えないかもしれないけど、十一夜が始まる度に会うことが出来ます。ですから、私をオルゴールにしてください。ここに三人で居させてください。」


瑠璃の目にはもう涙はありません。瑠璃は立ちあがると、玻璃と暁が立つ台座に上がり、二人が瑠璃を抱き寄せ動かなくなったその腕の中に身を置きました。 女神は瑠璃を見つめ


「困りましたね。瑠璃、なりたいと言ってオルゴールになれる事はないのですよ。」

「では、このままここにいます。『時』に返さないでください。」


刻の執事が慌てて


「瑠璃さん。何を言ってるんですか。ここには、刻の間には何もないんですよ。食べる物も何もない。生きていられません。」

「それでも良い。」

「瑠璃さん、、、」

「ここに、ママもパパも置いていきたくないの。一人になりたくない。どうしてわかってくれないの。」


瑠璃がオルゴールになってまでも残りたい、刻の執事も瑠璃の切ない気持ちは痛いほどよくわかります。

最後に玻璃が、 瑠璃を守って なぜそう自分に託したのかも瑠璃の行動を見てよくわかりました。


(玻璃さんは、わかっていたんだ。瑠璃さんがオルゴールになって残るって言い出すことが。だんだんと動けなくなっていく恐怖の中でも最後まで我が子の事を思って、、、)


ですから、どんなに瑠璃が残りたいと言っても刻の執事は、瑠璃だけは『時』に連れて帰らねばと決意しました。


「瑠璃さん、行きましょう。『時』に戻りましょう。それを玻璃さんも暁さんも願っています。」


刻の執事に首をふり、玻璃と暁に瑠璃がしがみつきます。


「瑠璃さん。玻璃さんと約束したんです。あなたを守ると。刻が明けます。さあ、瑠璃さん。」


刻の執事が瑠璃に手を伸ばしていると、テリーゼが刻の執事の横を走って通り過ぎ


「女神様。私がカギをもらわなくても瑠璃も玻璃も『時』に帰れますか?」


テリーゼは女神の前に立ち、玻璃の十一夜と同じようにそう尋ねます。


「瑠璃も玻璃も、ちゃんと自分の夢を見つけられたので帰れます。」


女神は優しく微笑んでそう伝えますが


「ただし帰れるのは瑠璃だけです。動くことのできないものは、『時』には帰れないのですよ。」

「わかりました、女神様。」


テリーゼも微笑んでそう答えると、玻璃と暁の前に立ち自分の持っているカギを二人に掛けようと手を伸ばします。


「待って。待って。テリーゼ、何してるの?」

「カギを玻璃と玻璃の執事、、、えっと瑠璃のパパ、暁にかけるのよ。」

「そんなことしたら、テリーゼが、『時』に行けなくなっちゃう。」

「大丈夫よ。心配しないで。私は、ずーっとここにいるのよ。また、十一夜になって、私と同じ夢を持った子が現れてカギを渡してくれたら『時』に行けるわ。」


テリーゼは、微笑みながらそう言って玻璃にカギをかけようとします。 瑠璃は、その手を押さえて、


「待って。テリーゼがママとパパにカギをかけてくれて、『時』に帰れるなら、ラウムにそのカギの一つを渡したら、二人で『時』行けるんじゃないの?」

「そうかもね」

「だったら。カギが二つ揃うなんてこれから先もう、ないかもしれないんだよ。」


瑠璃の必死な顔にテリーゼは微笑んで


「あるかもしれない。」

「でも、今この十一夜なら二人で確実に『時』行ける。ママも願いが叶うといいねって言ってたよ。だから、、、」

「瑠璃、ラウムの夢を忘れちゃったの?」

「えっ。」

「ラウムは、悲しいことのない世界を作りたいのよ。泣いている瑠璃や玻璃、そして瑠璃のパパの暁を十一夜に残して『時』に行きたいと思う?私がラウムにカギを渡したら喜んで受け取ってくれる?」

「それは、、、」

「ラウムは、絶対にカギを受け取らない。ラウムにカギを渡す私にすごくがっかりするはずよ。」


瑠璃もラウムならきっとそうすると思いました。


「私も悲しみのない世界に暮らしたいの。

王様と女王様がまた出会えたあの瞬間のように、幸せに包まれた世界が広がってほしい。心からそう願ってる。

もしもラウムがカギを受け取っていたら、きっと私と同じことを喜んでする。ね、瑠璃もそう思うでしょ。」

「テリーゼ、、、」

「私は、オルゴールに戻るから、瑠璃が私たちの事をラウムと私のことを覚えていて欲しいの。約束よ。」

「うん。絶対に忘れない。絶対に、絶対に!ありがとうテリーゼ。」


テリーゼは、瑠璃の手をギュッと握って、二人は抱き合いました。

そしてニッコリと微笑んで、手に持っていたカギを一つは玻璃に、もう一つは暁にかけると、瑠璃に笑顔で手を振って踊るように自分の台座に戻り、手をラウムを求めるように伸ばしてオルゴールに戻っていきました。


テリーゼがオルゴールに戻ると、まもなく玻璃と暁のカギから水があふれ出すように光がこぼれ出して二人を包んでいきます。

光が渦を巻き二人の周りをくるくると回ると霧が晴れるように消えていき。

大きく息を吸い込んだ玻璃と暁が、目を覚ますように動き出しました。


「パパ!ママ!」

「ハッ。瑠璃? ああ、、、瑠璃、瑠璃、瑠璃〜。」

「瑠璃、また瑠璃がこの腕の中に、、、瑠璃、、、」


幸せの涙を流してかたく抱き合い再会を喜ぶ三人の歓喜の声が、十一夜の刻の狭間に響きます。

三人から広がっていく温かい光が十一夜に満ちていきました。

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