第20話 刻 と 時

二十 刻 と 時


さあっとラルムが笑顔で瑠璃を誘うように手を差し出しましたが、


「でも、私が選んで、カギを渡したら、私の、、、その、、、『時』?に来るのでしょ」

「そこが気になるの?」


ラルムは困ったねと瑠璃を見ます。


「なるよ。とっても気になる。みんなが、オルゴールから人になるんでしょ。」


瑠璃にラルムも刻の執事も話しかけようとしますが


「みんなの中から私の『時』に来たとしても、女王様は、女王にはなれないと思うの。だって国ってもう決まってるから。 だからね王様がいる国に行って王子様と結婚しないと女王にはなれないと思うのよ。あ、結婚してもお妃様になるから女王にはなれないわね。

それから煙突のあるうちもそんなに多くないと思う。私の家にはないし。だから仕事がないと思うの。だからきっと人間になっても困ると」


ラルムは、待って待ってと手で瑠璃を止めるような仕草をして


「瑠璃は空想が好きなのに、ずいぶん現実的なこと考えるんだね」


本当にびっくりとマリになっている玻璃も、執事になっている暁も顔を見合わせます。


「だって、私が選んで『時』に連れていく事になるなら、ちゃんとその先も考えていかなくちゃでしょ」


なんてしっかりしてるのかしらとマリは、頼もしくも思います。


「そう考えるとテリーゼか、ラルムから選ぶって事よね」


執事になっている暁は、なんとも悲しい選び方だねと、自分が気が付かないうちに娘が遠くに言ってしまったように思いました。

そんな瑠璃に、白髭の執事が、咳払いをして


「瑠璃様。申し訳ありませんが、よろしいでしょうか。」

「あ、ごめんなさい。あなたの女王様を選ばないなんて。」


瑠璃は、ごめんなさいとペコリと頭を下げます。


「瑠璃様、そこではありません。」

「えっ」


落ち着いてくださいっと言った表情で


「瑠璃様。先ほども申し上げましたが。たぶん でございます。」

「たぶん?」


そういえばそんなこと言ってたかもと思っていると


「そうでございます。た、ぶ、ん、でございます。そもそも女王様もお話されたように、私達オルゴールは、カギを回していただいて始まるのです。 つまり、十一夜のごとに始まるので、ここにいるオルゴール達の事しか存じません。今、この刻だけでございます。」

「えっ。どう言うこと?」

「あそこに台座がたくさんあるので、他にもオルゴールがいたのではないかと女王様は、思われただけなのでございます。」

「へーーー」


なんともきの抜けたような声を出した瑠璃。女王は付け足すように


「それだけでわなくてよ。私の台座にもよ。」

「女王様の台座にもって?」


女王は瑠璃を自分がいたスポットライトに照らされている台座に連れていくと


「ごらんなさい。私、執事、二人の衛兵。なのにもう一人いたように思えないかしら。」


瑠璃がのぞいて見ると、確かに台座には五つの何かを刺すような四角い穴があいていました。


「本当だ、穴が五つある」


でも、瑠璃は女王の顔を見て素朴な疑問を言いました。


「女王様は、自分の家族のことを覚えてないの?」

「ん?それは、何かしら?」

「ここに五つ穴があいていて、一つ一つに女王様や執事さん衛兵さんがいたとして、もう一つにも誰かいたのなら、それが誰だったのか女王様が一番わかっているんじゃないの?」


女王も、執事も確かにそうかもと思います。


「ずーっとここにいて。しかも同じ台座にいたなら、家族でしょ。」


まっすぐな瑠璃の言葉に女王と執事は、お互いの顔を見て


「家族、、、」


そう呟くとなんだかくすぐったい気持ちになりました。が、すぐに女王は瑠璃を見て


「その、家族とやらは何かしら?」

「女王様は、家族を知らないの」

「ええ、もちろん」


そんなに胸を張って言うことかしらと瑠璃は思いましたが


「私の家族は、パパとママ。一番大切で、一番大好きなの。」


そう言いながら、玻璃と暁を見て微笑みます。刻の執事があわてて、玻璃と暁の前に立ち軽く咳払いをすると、瑠璃は、あっと気がついたよう急いで目を女王の方に戻します。


「紬の家とも仲良し。私と紬は同級生で親友なの。紬のママと、私のママも同級生で親友。だからすんごく仲良しで、家族みたいなの。

それから、星刻の人たちもみんな仲良しで、私を大切にしてくれるから星刻町の人たちみんなが大きな家族。」


女王は、不思議そうな顔をして


「つまり、そばにいる人の事を家族というのかしら?」

「そばにいなくても家族よ。魚屋のゲンちゃんは、今、お母さんと暮らしてるの。お兄ちゃんは隣町で、お父さんは遠くの海で漁をしているの。四人は、今一緒にはいないけど、家族なのよ。」


女王は、もっと不思議そうな顔になり


「で、つまり、どう言うことかしら?」


瑠璃は胸を張って


「つまり、お互いを大切に思ってる人たちの事を家族って言うのよ」


玻璃も暁も我が子が、家族をそんな風に思っていたのかと、優しい気持ちを持った人に育ってくれているのだと嬉しくて、思わず目に涙が浮かびます。

しかし、女王は、


「家族とは、そう言う事なのね。でも、十一夜が始まったばかりだし。ここにはいないのだから、私にはわからなくてよ」


当然のようにそう言いきります。


「青薔薇の事は、覚えているのに?」


白髭の執事が、お答えしますと小さく咳払いをして


「自分の事ですのでわかっております。私は執事でありますので。女王様も女王であること。衛兵も女王様をお守りする事をわかっております。」


瑠璃は、なんだか不思議だけどそうなんだと思うことにします。


「ね、『時』に行くのか、どうなるのかわからないでしょ。だから、瑠璃が自分の十一夜を楽しんでカギを同じ夢と思う誰かに渡してくれたらいいんだよ。」


ラルムは、やっとわかってくれたかなと。 瑠璃も十一歳の笑顔に戻り


「うん、わかった。じゃあ、みんなともっと話さないとね。そうじゃないと船長さんがいないんだもの選べないわ」


あんなに現実的に、合理的に考えているよに思えた瑠璃のなんとも子供らしい答えに、暁と玻璃はまだまだ可愛いことを言う、とお互いを見て微笑んでいました。

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