第37話  見つけた夢

三十七  見つけた夢


瑠璃と玻璃の頭上に現れた刻の女神は、刻の始まりの姿そのままに、美しい光に包まれていました。

光の中にいる女神は、見つめられると声も出せないほど、威厳のある美しさを放っている。そんな女神が、二人に静かに語りかけます。


「二人とも、十一夜の祝いの刻を過ごしましたか。」

「はい。女神様、とても、とても素敵な刻でした。こんな素敵な誕生日は、生まれて始めてです。オルゴールみんなと友達になりました。約束もしました。私、この十一夜を忘れません。女神様、十一夜をありがとうございました。」


瑠璃は、心のままを女神に伝えます。玻璃は瑠璃の幸せいっぱいの声を嬉しそうに聞いて、


「女神様、十一夜をありがとうございました。」


女神に一言お礼を言いました。


「それは、良かった。」


微笑む女神は、なお一層美しく瑠璃は心を奪われます。女神が瑠璃に


「瑠璃、私との約束を覚えていますか?」

「あ、はい。」


女神に見とれていた瑠璃は、少し慌てて返事をします。


「では、瑠璃。あなたの鍵を同じ夢のオルゴールに。」

「はい。」


瑠璃は、斜めがけにしていたカギを手に取ります。金色の鎖の先にあるカギは、星刻の海のように透き通って美しい。


(ラウムの頬の涙も同じくらい透き通ってキラキラしていたな)


ほんの少し前までそばにいたオルゴールのみんなの事が、なんだかもう懐かしく思えていました。

瑠璃は、台座に戻り動かなくなったオルゴールに向かって歩き出しますが、ふと、止まって。


「女神様。あの、、、鍵を渡したオルゴールは私の『時』に行くのですか?」


瑠璃の質問に、女神は行くとも、行かないとも言うことなく、ただ微笑んでいるだけでしたが、瑠璃はなんとなく『時』に行くのだと思い頷いて、瑠璃が決めたオルゴールのもとへ向かいます。

瑠璃は、テリーゼの前で止まると、その手に透き通るカギの金の鎖をかけました。


「瑠璃は、テリーゼを選んだのですね。」

「はい、女神様。オルゴール達、みんな素敵な夢でした。本当は、みんなを選びたいんです。」


女神は素直な瑠璃に微笑みながら


「その中で、テリーゼを。」

「はい。テリーゼは大きな舞台で踊って観客を夢の世界に連れていきたいと言ってました。今の私には、恥ずかしくてみんなの前に立つなんて出来そうもないけど、、、。 でも、そんな勇気が持てたらどんな世界にも行けると思うんです。私がいつも夢見ている海の向こうの世界にも。どこにでも。それになんでもできるって思うんです。だから、テリーゼを選びました。いつか、大きな舞台に立てるくらいの勇気を持ちたくて。」

「瑠璃、ちゃんと自分の夢を見つけましたね。」


瑠璃は女神のその声に、頭を撫でてもらったような心地よさが広がっていました。 そして女神は、マリになっている玻璃に向かい尋ねます。


「あなたは?」


刻の執事に始まりの刻に感じた、あの違和感が頭をよぎります。


(王様をヘラの鏡から助けだした高揚感で忘れていた。なんだろう、この感じは。心がザワザワする。)


「はい。」


玻璃は女神に返事をすると、瑠璃と同様にカギを手に持ち、まっすぐにテリーゼに向かい歩き出します。玻璃のその様子を見て、


「待って。まさかテリーゼを選ぶの?」


と、思わず声をかける瑠璃に、玻璃は立ち止まりふり向くことなく答えます。


「そうよ。」

「でも、テリーゼは私が選んだのよ!」


困惑している瑠璃に女神が


「瑠璃。今は、あなたの夢を選んでるのではないのですよ。」

「はい、、、」


瑠璃はそう返事をしますが、気持ちは全く納得できていません。

自分がテリーゼを選んだ。だからテリーゼは『時』に行ける。 それならば玻璃は、自分の母は、きっとラウムを選んでくれる。 そしてテリーゼとラウムは揃って『時』に行き、二人の夢を手を取り合って叶えていくのだと、瑠璃はそう思っていました。 それなのに今、玻璃は、テリーゼを選ぼうとしている。

納得なんてできるはずもない。いつもの母なら、瑠璃の気持ちに寄り添った行動をしてくれるのに。なぜこんな事をするのか。 女神に制止されましたが、黙っていられず


「さっき、テリーゼに今度こそ叶うと良いねて言ったでしょ。忘れちゃったの?」

「忘れてなんかいないよ。」

「だったらどうして。どうして、テリーゼなの?テリーゼのもう一つの願い、大切な人と過ごす時間。それはどうなるの!」


瑠璃は、玻璃の背中に訴えます。が、玻璃は、


「もちろん、ちゃんとわかってるよ。でも、もう決めてるの。ううん。ママがカギを渡すオルゴールは、もう決まっていることなの。」

「えっ。決まっていること、、、。なにそれ。どう言うことなの!」


玻璃は、瑠璃の方に振り返ると呼吸を整えるように大きく息を吐いて、


「瑠璃。ママの十一歳の誕生日も満月だったのよ。」

「えっ、、、」


女神を包む美しいの光が降り注ぐ中で、静かに玻璃の刻がまた動き出していました。

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