第29話 出口

二十九  出口


「ホワイトホール?」

「そうよ。」


玻璃の声は、どこまでも続く薄暗いホールに光が入って行くように明るい。しかし暁は彼女の話が理解ができず


「ごめん。どう言う事?ホワイトホール?わからないんだけど」

「瑠璃が言うように、王様は、ブラックホールに吸い込まれるように、ヘラの鏡に取り込まれてしまったと思うの。」

「そこは、何となくわかる。」


暁はそう答えましたが、オルゴール達の方は全く理解できず、チムニーが


「ブラックホールとか、ホワイトホールって何かな?」

「それはね。『時』には、空、、、えっと、ここだと天井の位置にね、空っていうのがあるの。その先に宇宙があって、そこには、星の世界がどこまでも広がっているの。

星ってキラキラ光ってすっごく綺麗なのよ。でも、その宇宙にブラックホールって言う、何でも、えっと星とか、光とか、音とか、とにかく何でも吸い込んじゃうところがあるんだって。」


瑠璃が、そこまで話すとチムニーが、


「そ、そんな怖いところが『時』にあるの?鏡よりもっともっと怖いよ。」

「そうだね。でも大丈夫、すごく遠い所だから私たち、誰も吸い込まれない。」


チムニーが、ホッとして


「じゃあ、ホワイトホールは?」

「ホワイトホールは、ブラックホールが吸い込んだものが、全部出てくるところって言われてるの。本当にあるのか、わからないんだけど。」


オルゴール達は、本当にあるかわからない は、耳に入っていないようで、


「全部出てくる?王様も出ていらっしゃる、そう言う事ですね。マリさん。」

「まあそんな感じ。」


マリになっている玻璃の返事に暁も、刻の執事も


「マリさん。ホワイトホールなんて。その存在も不確かなのに。第一、宇宙にあるかもであって、刻に存在するとはとても思えません。」

「そうだね、聞いたこともない。」


玻璃は、二人に


「ないよ。」

「な、ない。そんなあっさりと。それならなぜホワイトホールなて、、、」

「作るのよ。」

「作る?」

「そうよ。」


玻璃の言っていることがさっぱり理解できず刻の執事と暁は、お互いの顔を見合わせます。

二人がわからないのですから、オルゴール達は話についてくることさえ出来ていませんでした。 白髭の執事が、


「マリ様。そのホワイトホールとやらは、どのように作るのでしょうか?」

「わかりません。」


マリは、気持ちのいいほどキッパリとそう答えます。


「わからないって。ママ、いやマリ。もう十一夜が明けるまでそう時間はないと思うよ。わからないのに、作るなんて無責任じゃないか。」


いつも穏やかな暁も時間切れが迫ってきてイライラし、ついマリになっている玻璃に強く言ってしまいます。が、すぐに悪かったと玻璃の肩に優しく手を置きます。

その手に玻璃もそっと手を置き 大丈夫よとぎゅっと握り返すと。


「つまりね、ヘラの鏡に手を入れられないかも知れないんだから、出口を作ってそこから王様を引っ張り出すのはどうかなって。」

「出口を作る。それがホワイトホールを作るという事だね。」

「そうよ。ヘラの鏡だもの鳥籠の扉を開くような場所はない。だから、吸い込んだものを吐き出してもらうような、そんな出口作るしかないと思うの。」

「気持ちはわかった。出口を作るか、、、」


暁も刻の執事も、確かに良い考えだと思いましたが、それにしても簡単ではないように思えます。瑠璃が


「マ、マリ。えっと。どうするの。その出口、、、」


仲が良く笑い声が絶えないのが瑠璃の家。いつもは玻璃も暁もお互いを思いやり声を荒立てる事などないので、瑠璃は二人のやりとりが少し心配になっていました。

玻璃はそんな瑠璃の気持ちを察してか、思いっきりの笑顔で


「出口を作る場所には考えがあるの。」


瑠璃は、ホッとした表情になり。暁は、考えがあるならそれを先に言ってと、心の中で叫びましたが、冷静に冷静にと自分に言い聞かせます。

玻璃は、そんな暁をチラリと見て


「私の執事さんが見てきた所によると、ヘラの鏡は装飾もない鏡のまま椅子に立てかけてある。」

「うん。」

「入口の方は向いていない。」

「そうだったよ。」

「やはり、書庫に入ってくる全てのオルゴールを吸い込もうとはしていない。王様だけを取り込みたかったから書庫の入り口に背を向けているんだとしたら。

ラウムの言うよにもう誰も吸い込まないし、そしてテリーゼが思ったように王様と二人でいる長い時間を過ごしているだけの鏡になっていると思うの。」

「確かにそうですね。」


刻の執事も玻璃の話に納得していきます。そして玻璃は、


「瑠璃。私の鏡を落としちゃったときの事覚えてる?」

「うん。少し欠けちゃった。大切にしてたのに、ごめんなさい。」

「ああ、違うの。欠けた事を言ってるんじゃないの。瑠璃は欠けた鏡を見てなんて言ったんだけ?」


瑠璃は、思い出すように少し上を見ながら


「えっと。欠けた鏡を見て、、、ガラスなんだねって。鏡はガラスで出来てるんだねって。そうだ、ガラスの裏側に銀とか塗って鏡ができるって調べたんだ。裏側に銀を塗るだけで鏡ができるなんてって、びっくりしたの。」

「そうよ、鏡はガラスで出来ている。ヘラの鏡も?」

「ガラスの裏側に銀を塗って出来ている!」

「その通り。裏側の銀を剥がせば?」

「そこが出口。ホワイトホールになるって事ね。」


瑠璃も、暁も、もちろん刻の執事も、そこにいる全員が希望に満ちた顔になっていきました。が、玻璃は


「たぶん ね」

「えーーーーっ。」


十一夜が明ける刻がもうそこまで来ていました。

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