第28話 衛兵達
二十八 衛兵達
ヘラの鏡は、もう目の前です。でも、なんの解決にもなっていない。 そう、王様を助け出す、本当に大変なのは鏡を見つけた今。
「ここからが本番だね。」
「そうね。どうしたら良いのかしら。」
それは、ここにいるみんなが感じていることでしたが、瑠璃だけが
「どうしたら良いかって?なに?王様、見つかったんでしょ。行こう。」
なんて真っ直ぐなんでしょう、その通りなんです。でも、刻の執事が、瑠璃の顔を見て、
「瑠璃さん。王様は確かに見つかったと思われますが。いらっしゃるのは、鏡の中。この階段を上がってすぐに会えるわけでもなく。ましてや連れて帰れる手段が今は無いのです。」
「うん?手段がないって?そうかもしれないけれど、、、」
刻の執事の悲しそうな話し方に瑠璃が言い返そうとすると、玻璃が、
「瑠璃、聞いて。王様がいるのは、鏡の中。ヘラの鏡の中なのよ。」
「わかってるよ。そんな事、ちゃんとわかってる。でも、とにかく、行かないと」
「そうね。その通りよ。でもね、鳥籠の中に閉じ込められている鳥を助け出すように、カゴの扉を開けたら王様が鏡から出て来るとはいかないの。」
「えっ。じゃあどうするの。王様どうやったら鏡から出てこれるの?」
「そうだね、どうやったら、、、」
暁も階段をただ見上げるだけ。
誰も王様を救い出す方法を思いつくことができずに暗闇と沈黙だけが支配してしまいそうでしたが、今ままでただ黙って立っているだけの衛兵達が、いっぽ歩み出して
「私達が、鏡の中に手を伸ばして王様を引っ張り出すと言うのはいかがでしょう?」
「私達は、力自慢であります。一人が鏡の中に手を入れ一人がその体を支えていれば、鏡に引き摺り込まれることはないと思われます。」
「どうでしょうか。」
「なんとかなるのでは、ないでしょうか。」
「私達は、衛兵であります。」
「王様をお守りし、お助けするのが役目でございます。」
実直で真剣な眼差しに、誰もが心を動かされ、なんとかなるのではないかと思います。白髭の執事も
「私も微力ながら衛兵と共に王様を。衛兵を支える事ならば私にも」
女王も
「私も、私も王様を」
しかし、冷静さを取り戻してきた暁が、
「そうですね。確かにそれも一つかもしれません。ですがそもそも、鏡に手を入れることが出来るでしょうか?」
玻璃も頷き
「確かにそうかも、鏡に手を入れる事などできないかも。」
玻璃達の言葉に
「どうしてだめなの。どうして手が鏡に入らないの? 王様は、吸い込まれたんでしょ。手だって入るんじゃないの?」
白髭の執事が階段を上がろうとしたとき、暁は危ないと止めたのです。 それは、オルゴールだから、もしかしたら王様のように吸い込まれてしまうと考えたからです。それなら瑠璃と同じ疑問がオルゴール達の中にも広がりました。
そんな瑠璃に、玻璃が
「確かにそうかもしれない。でもおばあちゃんの話を思い出して。ヘラの鏡は、大好きなオルゴールを吸い込んだのよ。」
「つまり、ヘラの鏡は衛兵さんの事を好きじゃないかもってこと?だから手が吸い込まれない?」
瑠璃の 好きじゃないかも には、衛兵達は複雑な気持ちでしたが、玻璃が
「そう言う事じゃないのよ」
「えっ、どう言うこと?」
瑠璃の疑問にラウムが、
「大好きな王様をもう閉じ込めたのだから、、、もう、目的は遂げたから、、、鏡は、ただの鏡になっているって事なのかな。」
テリーゼも、
「もしも私が鏡なら、好きな人と二人でいる、今のままでいたいと思うわ。ヘラの鏡もきっとそうよ。他のオルゴールが鏡に入って来たら、王様と二人でいられない、、、だからもう誰も吸い込まない、、、」
玻璃は、二人に頷き
「私もそうだと思う。だから、他のオルゴールが鏡の中に手を入れる事などできないかもしれない、、、」
暁もそうだねと頷くと、瑠璃が、
「だったら、どうするの?鏡を割る?割ったら、王様が鏡から飛び出してくる?そうよ、それが良いかも。衛兵さんに鏡を割ってもらえば王様が出てくるかも。」
少しやけになったような瑠璃に優しく暁が、
「落ち着いて。鏡を割ったら、王様も割てしまうかもしれないよ。」
「じゃあ、どうするの?教えてよ!」
瑠璃はまたどうにもならない気持ちを抱え
「何にも浮かばない。王様は、鏡の中に吸い込まれたままだし。助け方も、考えも何にも浮かばない、、、」
「瑠璃、、、」
玻璃が、瑠璃の肩を包み込むように抱き寄せます。
「ヘラの鏡、なんでも吸い込んじゃう。王様も、みんなの考える力も何もかも。もうブラックホールだね。本当にブラックホール。
どっかにホワイトホールがあれば、みーんな出てこれるのに、、、」
今にも泣き出しそうな瑠璃の言葉に、玻璃がはっとして
「瑠璃、それよ!そうよ、それだわ!」
「へっ」
玻璃の顔に笑顔が戻ります。 王様救出に希望の光が差してきたのかもしれません。
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