第27話 鏡の部屋
二十七 鏡の部屋
十一夜のホールは、瑠璃達が立っている所を少し離れると、薄暗く、どこまでも どこまでも続くように感じるほどです。
オルゴール達は、
「たぶん、こっちだと思う。」
昔、ヘラの鏡 が現れる前の十一夜は、誕生日を迎えた子供とオルゴール達が、自由に光に包まれたホールに集い、明るい笑い声が響いていたのかも知れません。
しかし今は、噴水のあるほんの箱庭のように小さい場所だけが、安心して十一夜を過ごせる場所。 オルゴール達は自分たちもあまり行ったことのない、、、正確には以前は行っていたかも知れないけれど、、、今はただ薄暗い闇の中に書庫があるのではないかと、瑠璃達を連れて行こうとしています。
少し行くと薄暗いの右手の方に一人が通れるほどの狭い、木で出来た螺旋階段が現れました。
「なんか、ちょっと怖い。」
瑠璃が言うように、階段はなんとも言えない不気味な雰囲気です。
「ちゃんとした場所は、わからないんだ。」
ラウムは申し訳なさそうでしたが、なんとなくみんなも階段を上がったそこに書庫があるのではないかと思えたのです。
白髭の執事が何かを決意したように
「女王様。私が見てまいります。」
そう言って、意を結して階段に足をかけると、暁が
「鏡の部屋なら、オルゴールのあなたが行くのは危険です。マリさんの執事である私にお任せください。」
白髭の執事を段からそっと引き離すと、音をさせないように靴を脱いで階段を上がっていきます。 瑠璃と玻璃は手を胸の前でしかりと組んで、心の中では
(パパ、頑張って。見つからないで。神様、勇敢なパパを守ってください。)
と願って、何度も何度も唱えていました。
螺旋階段の上まで辿り着くと、小さなホールと古ぼけたオレンジ色の一人がけソファーが丸い机を挟んで二脚ありました。
机の足は、やはりカールしていてテーブルはつやがある素材でできているようでした。
ホコリが積もっていましたが、そのどれもが気品があり、薄暗い中でも、凛とした存在感があります。
その先に目をやると、両開きのドアが。豪華な装飾は無いようですが、木のドアは、瑠璃が気に入りそうな細かい細工が施されていました。 よくは見えませんが、ドアは少し隙間が空いているよです。 鍵穴でもあれば、そこから鏡の存在を確認しようと思っていた暁は、
(これなら、隙間からはっきりと確認できるかも)
暁は、音を立てないようにさらに気を配りながら少し開いたドアの前に立つと。
(何かあったら、とにかく走る。いいな暁、足を動かすんだぞ)
自分にそう言い聞かせると、音を出さないようにゆっくりと深呼吸をし、ドアの隙間から中を覗き込みました。
ドアの間から、確かにかすかなインクの香り。書庫に間違いないと確信し、薄暗い中を目を凝らして見ると、一箇所だけ、微かに光が刺している場所が。
(何かある、、、)
そこには、暁の背丈ぐらいはありそうな大きな四角い影があり、光に照らされているからでしょうか、鈍い光を放っている。
(鏡だ。間違いない。しかし、なんの装飾も無いなんて。)
暁は、金色か銀色に装飾された縁取りのある鏡を想像していました。 しかし目の前にあるのは、何もないただの鏡。古ぼけた木の椅子にただ立てかけてある。
もし目の前にある鏡が、ヘラの鏡なら、暁は悲しみさえ感じていました。
(女神が、鏡に化身するのなら、それに相応しく豪華な装飾の鏡でも良いはずなのに。あんなに素朴で。よほど、悲しみの中で化身したのだろう。)
暁は、そっとその場を離れ、瑠璃達のもとに戻ると、見たままを伝えました。
「そう。まさかそんな姿だなんて、とても悲しいわね。」
玻璃がそう言うと、瑠璃は慌てたように
「可哀想と思ってるの?だから、このままに、王様が鏡の中にいた方がいいと思ってたりしないよね?だめだよそんなの、女王様の方が、もっと悲しいんだよ。」
暁と玻璃に、必死に訴えます。二人は、瑠璃に微笑んで
「もちろん、王様を助けるわよ。瑠璃の言う通り。どんなに悲しそうに、どんなに可哀想に見えても、やってはいけない事はをしたのなら正さなければね。
たとえそれが女神様だったとしても。愛し合う人を引き裂くなんて、許したらだめよね。」
「そうだよ、さすがママ。」
嬉しくて思わず言ってしまった瑠璃に暁が
「瑠璃さんは、相変わらず甘えん坊ですね。ここには、お母様はいらっしゃいませんよ。」
いたずらっぽく瑠璃を見ると
「そうだった。また、間違えちゃった、へへへ。えっと、、、さすが、マリ。」
ヘラの鏡 を目前にして、張り詰めた空気が和んでいきます。
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