第26話 いざ、王のもとへ
二十六 いざ、王のもとへ
刻の執事が瑠璃の部屋で抱いていた疑問が
二度も女王を放ってはおけない
そう言った暁の一言で全てが繋がり、納得はできました。が、その事を問いただしたいる時間は今はありません。
瑠璃が思ったように、刻に王様がいたとして、その居場所が ヘラの鏡 と言われるところであれば、大変なのはこれからです。
「さて、急がないと。夜明けまであまり時間がないと思うわ」
「そうだね。」
玻璃と暁は、向かい合い微笑んで両手を繋ぐと、グッと力を入れます。
オルゴール達は、刻の女神が ヘラの鏡 を作ったのだと今まで長い間、ずっと思っていました。
鏡の名を口にすると鏡に吸い込まれてしまう。
仲の良いオルゴール達は鏡に呼ばれ二人はひき裂かれる。
ヘラの鏡 の事をオルゴール達は怖いものと認識していましたので、鏡のことを口にしていませんでした。
マリの話が本当で、自分たちを大切にしてくれる刻の女神が鏡を作ったのではないのなら、なんとかなるかも知れない。女王を救えるかもと。
「急ぐの?」
「そうよ、十一夜が明ける前に王様を探して、女王様に合わせてあげないとね」
「そっか。」
マリになった玻璃にそう言われ、瑠璃もオルゴール達も王様救出に知恵を絞ります。
「まずは、鏡の場所。みんなは知らないの?」
マリの質問に
「わからないわ。その事を話すこともなかったから。」
「役に立ちたいのに、、、わからない。ごめん。」
テリーゼも、ラウムも今まで ヘラの鏡 に恐怖心しか抱いていなかったので、すぐに自分がどうしたら良いのか思いつくことができません。 無理もないのです。仲の良いオルゴールは、ヘラの鏡 に引き裂かれると思い込んでいたのですから。刻の執事も
「そうですね。僕も鏡の事は聞いたことがありますが、詳しいことを聞いてはいけないように思っていたので、、、どこにあるのかは、、、すみません。」
「そうよね。うん。そうよ。じゃあ、他の考え方をしよう」
申し訳なさそうなオルゴール達を励ますように、明るい声でそう言うと、マリはおばあちゃんが話た事を思い出しながら
「女王様。あなたの好きな刻の場所を教えて。」
「私の好きな刻の場所?」
「そうよ、女王様自身のよ。自分のことならわかるでしょ。ただし、一番の好きなところよ。」
瑠璃は不思議に思い
「なぜ?一番好きなところ?」
それは、みんなが気になりましたが、暁だけが
「デートの場所だね。」
「さすが、わかってる。その通りよ。」
マリになっている玻璃と暁は、二人のデートの場所を思い出しているように笑顔に。瑠璃は、デートと聞いて耳まで赤くなっていきます。
「瑠璃、大丈夫?真っ赤かだよ。真っ赤か。」
チムニーは、友達の瑠璃がどうかしちゃったのと、心配でなりません。 大丈夫、大丈夫と顔を押さえている瑠璃をマリも暁も微笑ましく見ています。
ラウムは、まだ理解できず、マリに
「女王様の好きな場所をどうして知りたいの?」
「ラウム、おばあちゃんの話を思い出して。満月の夜に鏡に姿を変えて、大好きなオルゴールを閉じ込めたのよ。満月の夜ってことは?」
「十一夜?」
「そう。つまり、あなた達オルゴールが自由に動けている。」
「そうだね。」
「ラルムなら、どうする?好きな人と一緒にいたいんじゃない?」
「あっ、うん、そうだね」
ラウムは、テリーゼを見てそう言うと、瑠璃のように二人は耳まで赤くなって行きます。
チムニーは不思議そうに顔の赤い三人をグルグル見回し、みんな大丈夫?と心配しきり。 三人は幸せそうですが、マリは表情は、引き締まり
「二人が会う場所なら必ず王様はやって来る。そこに鏡に姿を変えて待っていたら?
王様は、女王様に会う前に身だしなみを整えようと鏡を見るでしょう。
鏡を見たその瞬間に ヘラの鏡 は、王様を吸い込んだのよ。」
マリの言葉に、瑠璃もラウムもそしてテリーゼも、フワフワとした幸せな気持ちでしたのに、深い深い穴のそこに落ちて行くような恐ろしさに襲われていました。
「だからね、女王様の一番好きな場所。そこに鏡があると思うの。というか、鏡がそこにあれば、その中にいるのは間違いなく王様よ。」
自分の心に気がついた女王は、マリの話をずっと黙って聞いていました。 そして、一番大好きな場所を思い出そうとしていましたが
「どうしましょう。刻の中で好きな場所と言われても、、、」
女王は、自分の気持ちに気がついたのに、まるでわからない事が情けなく、瑠璃たちの十一夜が明ける前に王様に会わなければ、また王様のいない十一夜になってしまうと焦るばかり。
一番好きな場所が思い当たらず整えられた美しいプラチナ色のブロンドの髪がくしゃくしゃになるほど頭を抱えていました。 そんな女王に、暁が
「女王様。青薔薇のお茶はお好きですか?」
そう、優しく問いかけます。
女王が、暁のふいな問いかけに戸惑っていると、もう一度優しく
「青薔薇のお茶はお好きですか?」
女王は、少し戸惑いながらも 好きよと頷くと、暁は続けて
「では、青薔薇のお茶の 何が お好きですか?」
と、尋ねます。瑠璃は、私はあの青色が好きだなって思っています。 女王は、少し考えて。
「あの、かすかだけれど薔薇の香りがするところが気に入っているの。」
「そうですか。瑠璃さんは色ですが、女王様は、香りなのですね。」
瑠璃は、パパわかってるねー、とニヤリと暁を見ています。暁も瑠璃にニヤリとサインを送り、そして頷く女王に続けて
「では、他にお好きな香りはございますか?」
「香り?、、、。えっと、十一夜のこの場所の香りが好きかしら。十一夜が始まる華やかな気持ちにさせてくれる香りなの。」
「それから?」
「それから、、、古びたインクの香り。そう、インクの香りが好きだわ。安らぐようなインクの香り。でもおかしいわね、どこでそんな香りを、、、。」
「そこですね、女王様」
暁は、満面の笑顔でそう言いながら女王の両腕を持って、やりましたねと、飛び跳ねて喜びます。女王自身が気がついてはいないが体の中に残る香りの記憶。さすがパパ、と玻璃も、そしてよくわかってはいなかったけど、つられて瑠璃も拍手を送ります。
「インクか〜。どこだろう。」
「たくさんインクを使った物があるってことでしょ?」
考えていると、瑠璃が
「郵便局じゃない?だって、手紙がいっぱい集まるんだもん」
得意げに言いますが、チムニーが
「郵便局?それは何?わからないなあ。ここにはないよ。」
良い考えなのに、と瑠璃は口を尖らせます。マリになっている玻璃が
「きっと、書庫ね。」
「うんそうだね。書庫だ。」
暁も決まりだねと嬉しそうにしていると、瑠璃は
「チョコ?」
「瑠璃〜。しょこよ、書庫。図書室みたいなとこかな。」
笑いながら答える玻璃に、不満そうに
「図書室、インクの香りなんてしないよ」
「十一夜の書庫は、昔だからね。今と違い、手書きや、一枚一枚手で印刷した本が多いんだと思うよ。だから、インクの香りが残っている。その香りと共に王様と過ごした幸せな刻が、女王様の中に残っていたんだよ。」
優しく教えてくれる暁に、瑠璃だけでなく刻の執事も感心していました。
「さあ、決まりだわ。書庫の場所はわかる? 王様を助けに行きましょう。」
明るい玻璃の声がみんなを奮い立たせました。
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