第30話 繋がる思い
三十 繋がる思い
王様を助け出す、いえ助け出せるであろう方法を手に入れましが、何の保証もない方法です。
しかし、他に名案はありませんし、十一夜が明ける刻も、もうすぐそこまで迫っているようですから、この方法にかけるしかありません。
暁も覚悟を決めたのでしょう、いつもの優しく冷静な暁に戻っていました。
「刻が明けるのも間もなく。チャンスは一度きりです。何よりヘラの鏡は女神様が化身しているのですからちゃんと作戦を立てましょう。」
緊迫してきた中でも暁の冷静な話方が、みんなに安心感を与えていきます。
「みなさん、よろしいでしょうか。鏡は書庫の入り口を向いていませんでした。もう誰かを吸い込む事もないかも知れません。しかし油断は禁物です。
王様を取り返しにきたと分かれば、ヘラの鏡がここにいる全員を鏡の中に取り込もうとするかも知れません。」
「そうですね。」
刻の執事の緊張した返事は、皆の心を表しているようですが、女王だけは違う表情をしていました。そんな女王を見て暁が、
「女王様。いけませんよ。」
「えっ、いけませんとは、何かしら、、、」
「女王様は、今 それでも良いと、鏡に取り込まれても良いと思いませんでしたか?」
「、、、」
下を向いてしまった女王に、瑠璃が
「女王様、そんな事を思ったの。本当に?だめだよ。そんなことを思ったら絶対にだめ。
王様もいなくて、女王様までいなくなったら白髭の執事さんや衛兵さん達がどんなに悲しいか。」
ラウムは女王の肩に優しく手を置き、テリーゼも女王の手をとり寄り添います。
「そうですよ。女王様。王様と一緒にいるのは鏡の中ではなく、僕たちみんながいる十一夜。この場所です。」
「そうよ。ここにいるみんなで十一夜に。ね。」
瑠璃達みんなが女王を思う気持ちに触れて、白髭の執事と衛兵は涙が溢れそうになり
「女王様。私と衛兵が女王様をお守りし、王様をお助けいたします。」
「女王様。私達も全力でお守りいたします。」
「王様を、お救いいたします。」
みんなの言葉に、女王が頷くと、瑠璃が良かったと女王に飛びついて抱きしめました。
刻の執事は、胸を撫で下ろし 良かったと呟いて暁に
「さあ、作戦を教えてください。」
「では、まず忘れてはいけない、この作戦で一番重要な事から。何か異変を感じたら、全員、入り口に向かって全速力で走る。です。」
「ヘラの鏡から逃げるのね。」
瑠璃がそう言うと
「そうです。頭の中でずっと唱えていてください。何かあったら走る。足を決して止めない。いいですね。」
「はい。ずっと唱えてるわ。」
パパは、やっぱり頼もしい。瑠璃も玻璃も大仕事を前にしているのに暁を見て、嬉しくなっていました。暁は続けて、
「鏡の裏の銀を剥がす為にもですが、万が一、鏡がこちらを向かないように僕たち執事と、マリさん 瑠璃さんで鏡を抑えます。」
「そうですね。オルゴールのみなさんはもしかすると、危険かも知れませんから。私達、四人で抑えましょう。」
刻の執事も気合が入ります。
「私達が抑えたら、チムニーさんのハリネズミの様なブラシと。衛兵さん達の腰に付けている、その立派なサーベルで銀を削り落としてください。」
「わかった。」
「了解いたしました。」
チムニーも、衛兵達も胸を張って頷くと、瑠璃が、
「チムニー。ハリネズミブラシの出番だね。」
「うん。僕たちに任せて!」
チムニーはブラシを、衛兵はサーベルを高々と挙げて応えます。
「銀が無事に剥がせたら、チムニーさんのブラシを鏡に入れてください。それで王様を引っ張り上げましょう。」
「私達が手を入れて、王様をお助けいたします。」
衛兵達がそう申し出ますが、
「鏡の深さがわかりません。もしかしたら途方も無く深いかも。チムニーさんのブラシの方が確実です。衛兵さん達は、ブラシを引き上げる役割をお願いします。」
衛兵達は、わかりましたと、敬礼します。そして暁は、一歩女王の方に歩み寄り、
「女王様は一番後方で皆を見ていてください。執事殿はその前に立ち女王様をお守りください。」
暁は、まだ女王が残ろうとするのではないかと心配していました。白髭の執事は暁の意図を察して、承知いたしました と頷きます。女王は、
「私も、私にも、役目をください。王様をお助けする為ならば何でもいたしますわ。一番後ろで皆を見ているだけなんて、、、」
暁にそう訴える女王に玻璃が優しく
「女王様。一番後方で皆を見守るのがあなたの役目です。」
「なぜ、そのような役目を?」
玻璃は、女王の瞳を見つめ
「もしもの時に、一番初めに書庫の入り口に向かって走り出す為です。女王様が走らなければ、ここにいる皆が書庫から出られなくなります。
あなたが、ヘラの鏡に取り込まれても良いなどと考え、書庫に残ろうとしたら、皆、あなたを置いて逃げようとはしないでしょう。ここにいる全員が、ヘラの中に取り込まれてしまう。
良いですか。皆の為です。あなたは、女王なのですから。」
大切に思う人と一緒に永遠の時を過ごしたい。そう思う女王の気持ちに玻璃は誰よりも強く、強く共感していました。
それは、子を思う母の、夫を思う妻の強い思い。
その玻璃の口から発せられた あなたは女王なのですから その言葉は、女王の中でこだまするように響いていきました。
女王は瞳を閉じ、決意したように頷きます。そして玻璃の目をしっかりと見て、
「そうですね。女王とは国民を守るのが役目だと。私は自分の事ばかりでした。走ります。皆の為に。必ず。もう大丈夫です。ありがとう、マリ。」
暁がにっこりと微笑み、螺旋階段に足をかけ、
「さあ、参りましょう。」
瑠璃達も、オルゴール達も全てが一つになって行くよに感じながら、書庫に向かって螺旋階段を登り始めました。
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