第31話 書庫
三十一 書庫
暁を先頭に螺旋階段をあがり、全員がホコリの積もった椅子がある小さなホールに立ちました。
もう目の前には、両開きのドアが。ドアは縦に細い光があり、少し開いているのがわかります。
「あのドアの向こうが、書庫です。」
暁は小さな声で、しかしみんなに聞こえるように、はっきりと伝えます。
「懐かしいインクの香りがする。あの扉の向こうに王様がいらしゃるのね。」
女王の目にもう涙はありません。そこには、気品に満ち背筋を伸ばし凛として立つ女王の姿がありました。
白髭の執事達はその姿を見て、さすが私達の女王様だと、頼もしく思い、必ずや王様をお助けしなくてはと改めてそれぞれが心に誓います。
瑠璃は、ドアをじっと見つめています。玻璃が
「怖い?」
そう聞くと、首を振って
「思ったほど怖くない。どうしてだろう。階段を上がっている時は、とってもドキドキしてたのに。」
「そうね。私もよ。」
瑠璃は、玻璃が同じ気持ちと知ってなおさら気持ちが落ち着いていきます。暁が二人を見て頷き、そしてみんなを見回して
「さあ、行きましょう。」
そう言ってドアの前まで進むと、もう一度そっと中を覗き
「、、、」
いぶかしげに首を傾げます。暁の様子見ていた玻璃が
「どうかした?」
「うーん。さっき見た時よりも、鏡が遠くに見える。」
「え、本当に?」
「ああ、書庫が大きくなっているのか?それとも、、、」
「まさか、書庫自体がヘラだとか?」
ヘラの鏡の罠だったのか、この場所にみんなを連れてきたことは間違いだったのかと 不安な気持ちが暁を支配していきます。
自分が女王に香りの話をして、書庫に鏡があると確信し、この場所にみんなを、大切な家族を連れてきた。
これがヘラの鏡の罠でみんなが鏡にとり込まれたしまったらと暁は不安に飲み込まれて行きそうでした。
そんな暁の手を瑠璃と玻璃がぎゅっと握り、瑠璃が小さな声で
「パパ、大丈夫だよ。一人じゃないんだよ。」
「そうそう。みんなで考えて、みんなでこの扉の前にいるのよ。」
玻璃は、あなたの考えていることなんてお見通しのよと言わんばかりに暁の顔を覗きこみます。二人の笑顔が、暁の心の中を明るく照らします。
「そうだね。弱気になった。ごめん。前に進まないとだね。」
「うん。」
暁は、息を大きく吸い込み、一気に吐くと
「ただ、鏡が遠くに見えるのが気になるんだ。」
瑠璃も隙間から書庫を覗き
「そうなの?でも行こう。行かなくちゃ、ね。(パパ)」
パパは、心の中で暁に言いましたが、ちゃんと暁に届いたようでした。 玻璃は、刻の執事とオルゴール達に
「作戦通り、王様を助けにいきましょう。」
そう言って、真っ先に書庫に入っていきます。刻の執事もすぐに続きます。
暁は、ママの行動力はやっぱり凄いな と、思いながら
「鏡を抑えるので、少し間を置いて入って来てください。」
オルゴール達にそう伝えると瑠璃の手を引いて、書庫に入ります。 書庫の一番奥にある鏡の前に四人は立つと
「良いですか、せーの。」
刻の執事の掛け声で鏡を書庫の棚に押し付けます。暁は、
(初めに見た印象よりも小さいのか?)
鏡が遠くに見えたことがどうしても気になっていた暁に、そんな疑問が浮かびましたが、すぐにチムニーと衛兵達が鏡の裏の銀を削り始めましたので、鏡がこちらを向いては大変と、両手に力を込め鏡をおさえることに集中します。 衛兵達は、
「なかなか手強い。」
「サーベルが折れそうです。」
力自慢の二人、硬そうなサーベルがしなるほど力を入れて銀を削っていますが、鏡にたどり付けません。すると衛兵たちのお腹の辺りででハリネズミブラシを必死に動かしていたチムニーが
「鏡が、ガラスの部分が見えてきた!」
「本当だ、ガラスよ。鏡にたどり着いた。さすがチムニー。」
瑠璃はそう言ってチムニーとハイタッチをしてチムニーを称えます。暁もチムニーに
「よく頑張りましたね。突破口ができました。チムニーさんのたどり着いた部分を広げましょう。この先は、力自慢のお二人が、サーベルで削るのが速いでしょう。」
衛兵達は、チムニーのたどり着いたガラスにサーベルを当てると一気に引いて銀を削りとります。チムニーは衛兵達と入れ替わり、立ち上がります。
「チムニー、キラキラしてるよ。銀の粉だらけ。」
瑠璃が目を丸くしてチムニーを見ていると突然ラウムが、自分の服の袖を破りチムニーにかかった銀の粉をはたき落とし始めました。瑠璃は、あわてて、
「ラウム、どうしたの?」
「瑠璃、あの鏡が本当にヘラの鏡だったら、この銀の粉も危険かも。」
「そうね、何が起こるかわからない。取らないと。チムニー、痛いかも知れないけど我慢してね。」
テリーゼもそう言うと急いで自分のチュチュを破りとってチムニーをはたき、銀の粉を落とします。ラウムとテリーゼの一生懸命な姿を見て瑠璃は、
(二人とも凄いな。なんの迷いもなく服を破ってる。テリーゼのチュチュとっても可愛いのに。チムニーを助けることだけ考えてる。かっこいい。)
自分も今できる事を一生懸命にやろう。瑠璃は、鏡を抑える手にいっそう力を込めます。
「これくらいの大きさがあれば大丈夫でしょう。」
暁の声に、ハッとして見ると。鏡の裏側の銀が削られ、一人が通り抜けられるほどのガラスが現れていました。
硬いはずのガラスが、まるでラウムの頬にある涙のように、悲しく揺らいでいるように瑠璃には見えていました。
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