第19話  宝物

十九  宝物


ラルムは瑠璃を優しく立たせると


「瑠璃は、優しい人なんだね。ごめんね。女王様も優しいんだけど、思ったことを口に出さないといられないんだよ。」


ラルムは、そう言いながら瑠璃をまた椅子に座らせて続けます。


「今日は、瑠璃の十一夜のお祝いの日。僕たちみんなで十一夜をお祝いするよ。瑠璃はお誕生日をどうやってお祝いしていたの?」


半べそをかいていた瑠璃はラルムを見て涙を拭くように手で目を擦りながら


「毎年 家族で。パパやママと私の好きなオムライスとか、チキンとかママの得意料理をたくさん食べてお祝いするの。

パパはね、得意の手品を見せてくれて、シルクハットからプレゼントを出してくれるのよ。 五歳の誕生日には紬の家のニャーみたいな可愛い猫のぬいぐるみをシルクハットからパッと出してプレゼントしてくれたの。

今でも大切に一緒にねてるんだ。」


ふふふと笑って、嬉しそうに玻璃と暁を見ました。


「それからね、歳の数と同じだけローソクを立てたケーキも食べるのよ。私が大好きないちごがたーっぷりのってるの、ママの手作りよ」


思い出している瑠璃に、女王が


「楽しそうね、瑠璃の『時』は。ここには、ケーキなんてなくてよ」


せっかく笑顔を取り戻してきた瑠璃に向かって不満げにそう言て、瑠璃の顔を曇らせます。白髭の執事が咳払いをして もうお静かに そんな顔を女王に向けています。

ラルムはかまわず


「すごく楽しそうだね。さて僕たちは、瑠璃だけの刻をプレゼントするよ。もちろんマリにも」

「あら〜プレゼントしたのは、私達ではなく女神様じゃなかったかしら」


白髭の執事は、もうお黙りください と女王の口をふさぎます。


「刻は目には見えないし、持つこともできないけど、僕はとても素敵なプレゼントだと思うんだ」

「私もそう思う」


ラルムの言葉にマリが応えて瑠璃を見ながら続けます。


「刻を買うことはできないし。過ぎてしまうと取り戻せない。」

「うん」

「素敵なプレゼントね」


マリの言葉に瑠璃は、うなずきながらも


「でも、私が選ぶって?」


そう、女王に言われたことは何も解決していません。


「瑠璃が大切なものは何?」


ラウムは瑠璃に語り続けます。


「大切なもの?」

「そうだよ、大切なもの。」


少し考えて


「大切なのはパパとママ。瑠璃を大事にしてくれるから。私もパパとママが大事なの。それから紬。紬のことも大切。クラスの友達も、星刻の人たちも。」


ラルムは、続けます。


「じゃあ、好きなものは?」

「好きなことの一番はやっぱり空想することかな。どこでも、いつでもできるし、どんな所に行けちゃうし、どんな人にもなれるから。とっても楽しいのよ。

それから星刻町も好き。星刻町の海も。いつも海を見ているとね、大好きな空想の世界がどんどん広がるんだ。

海のそのもっと先に行ってみたい。どんな世界が広がっているのか知りたいの。

教会も好き。教会の朝は特に好き。静かで、青くゆらゆら揺れて星刻の海みたいだから。」


話しながら元気な瑠璃に戻っていきます。


「今は、それが大切で大好きなことなんだね。」

「うん」

「じゃあ、これからは?」

「これから?これからもそうよ。ずっと変わらない、ずっと大切。ずっと好き。」

「本当に変わらない?」

「変わらないよ。なんでそんなこと言うの。」


なんだか面白くない。ラルムも女王のように意地悪な言い方?。そう思っていると


「瑠璃は大切なもの、大好きなもの増えたりしないの?」

「増える?」

「そうだよ、今日は十一夜。十歳のままでずっといるの?」


ラウムの言葉にハッとしたように


「星刻の海のもっとその先に行けたら、そこで好きなもの大切なものが増えるかもしれないよ。」

「そっか」

「やりたいことも。なりたいこともいっぱい増えていくかもね。」

「そうね、そうかもね」

「どうなるか、どうなりたいかなんて、先のことは、これから起きるいろんな事でどんどん変わっていくよ。」


ラルムはおどけながら、瑠璃の気持ちを盛り上げるように


「さあ、瑠璃。ここでは、僕たちの中から瑠璃がやりたいこと、なりたいことを見つけて見るのはどうかな?」

「どうやって?この中に船長さんのオルゴールはいないよ」


確かにとラルムは、笑いながら


「そうだね。じゃあ僕たちの中でなら誰になってみたい?」

「うーん」


ちょっと困ったような瑠璃の顔を見て


「女王になって大きなお城に住んで、たくさんの家来を従えてみるのはどう?

世界中の煙突を掃除してサンタクロースがみんなの家に行けるようにするのはどう?

ピエロになって泣いている子供が一人もいない世界を作るのは?

世界中の舞台で踊って笑顔を届けて大きな拍手を浴びるのは?

さあ、瑠璃ならどうしたい?だれになってみたい?」


ラルムは身振り、手振りを大きくしながらオルゴールたちの間をおどけてまわり、瑠璃に尋ねます。


「どれも素敵。全部ワクワクする。」


瑠璃にまた楽しい十一夜が戻ります。


玻璃と暁は、楽しそうに目を輝かせている瑠璃を見て パパとママの大切で大好きな宝物は、瑠璃、あなたよ。

これから先、どんなことが起きたとしても永遠に変わる事はない。 そう心の中でつぶやいていました。

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