第18話 ラルム
十八 ラルム
「私の『時』?」
空気が止まったようでした。
オルゴール達の四重奏。
可愛らしいクラシックチュチュをまとったバレリーナ。
華やかな黄色いドレスに家来を従えた女王。
同じ年くらいで友達に慣れそうなシャイな少年。
それから、、、 さっきまで初めての事ばかりが次々と起ってドキドキ ワクワクしていたのに。 それなのに空気が止まったように瑠璃の気持ちも動かなくなっていきました。
「そうよ。あなたが私達の中から、あなたの『時』に行けるたった一人をね。瑠璃、あなたが選ぶのよ。」
「私が、、、」
「ごらんなさい。あなたがカギをまわしたホールを。」
瑠璃が振り返り、スポットライトが降りている以外は薄暗いホールを目を凝らして見ました。 とても広い。そこにきれいに並んだ何かが
「わかるかしら?」
「四角い何かが並んでる?みんながいた所と似てる?」
「そうよ。全てオルゴールの台座。あの台座の数だけオルゴールがいたのよ。」
「あんなに」
「そう」
「今は?」
「いないわ。『時』に行ったのよ」 「『時』、、、私の世界、、、人間になったってこと?」
女王は、見つめる瑠璃に大きく頷きます。 瑠璃は動けない。まばたきすることも忘れるくらいに。 だって、どうして良いのか分からないから。 そんな二人の間に白髭の執事がヒョイっと顔を出し
「たぶんでございます。ね、女王様」
「まあ そうね。たぶんよ」
「たぶん、、、て?」
「私達、カギで動くたびに、、、なんと言うのか 始まるから」
「始まる?」
瑠璃は頭が混乱していきます。女王の話すことを理解したいのに、頭の中がグルグルとかき混ぜられるようで
「わかんない。どう言うこと?どうすればいいの?私、、、私が決めるって、、、オルゴールのみんなが人間に?それって本当の命を私がってこと?」
腹が立っているのか、困っているのか、自分の気持ちなのに分からなくていました。
「『時』に行く?帰る?みんなが人間になる? じゃあ星刻町にオルゴールだった人が暮らしているってこと? えっどう言うこと?わかんない。わかんないよー」
急にイライラして、自分の気持ちなのに全く制御できない。
いつもの瑠璃は空想好きでマイペース。友達の話に腹を立てることなんてありません。どんな話も楽しく聞いていました。 刻の狭間にきても目の前に起きる全てのことが輝いて楽しくて、何だかわからないこともあるけれど、大好きな空想の時間よりももっと、もっと素敵でした。
でも今は、全部を自分に押し付けられているような苦しさが心のなかに広がて行く。 笑ったり、驚いたりキラキラと表情を変えていた瑠璃が、爆発したように心のモヤモヤを吐き出して、もう何も聞きたくないかのように両手で耳をふさいで、一人しゃがみこんでしまいました。
出会ってから初めて見せる瑠璃の姿に刻の執事があわてて瑠璃に声をかけようとすると
「何も悲しくないよ」
耳に手を当てたままの瑠璃がゆっくりと見ると、そこには一緒にしゃがんで瑠璃のすぐそばに寄り添ってくれる白い影。
「悲しくない?」
そう言って白い影の顔を見ると、左目の下に大きな涙のあるピエロが微笑んでいました。
「そうだよ。悲しくないよ」
「でも、、、泣いてる?」
そう言って涙に触れてみるとペイントされているようなのに本当の大粒の涙がそこにあるように揺れて波紋が広がるようでした。
「瑠璃、十一夜 おめでとう。僕は、ピエロのラルム」
ラルムの声が、瑠璃の心を星刻教会の穏やかな淡い昼の光のように包んでいきました。
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