第10話 マリ

十 マリ


瑠璃の部屋には、瑠璃と刻の執事。

そして、十一歳に戻った玻璃と少ししぼんだように小さくなった暁。

四人が月の光に照らされていました。


「女神様に会いに行こう、四人で」


瑠璃の言葉に


「そうですね。道はそれしかないでしょうし」


執事は覚悟を決めたように応えます。すると、暁が


「そうだね。それしかない。じゃあ、準備しないとね」


そう言って玻璃の両手をぎゅうっと握り締め


「ママ、ママも支度して」


いつもの優しい声で微笑むと部屋を出て、階段を勢いよく降りて行きます。 玻璃も気を取り直し、涙を拭い顔を上げて手にギュッっと力を入れると


「待ってて」


そう言って小走りに部屋を出ました。

瑠璃と二人になった執事が


「瑠璃さん。聞いてもよろしいでしょうか?」

「え、何」


家族みんなで刻の女神様に会いに行けるなんて、と なんだかワクワクしている瑠璃は執事の質問を軽い気持ちで聞いています。


「お母様も赤いアミュレットグラスの持ち主なんですよね。」

「そうよ。」

「見た事はありますか?」

「もちろん!とっても綺麗な赤い色をしているのよ」


瑠璃は目を閉じて小さい頃に見せてもらった宝石のように輝く玻璃のアミュレットグラス思い出していました。


「お母様の誕生日は満月だったのでしょうか?」

「えっ。違うんじゃないかな?女神様に会った話は聞いた事がないし、、、」

「そうですか?」

「そうよ。女神様に会っているのに教えてくれないはずないでしょ。私、娘なのよ」 「そうですね。失礼いたしました。」


瑠璃はにこりと微笑んで執事を見ます。執事は続けて


「では、お父様のアミュレットグラスは、何色だったのでしょう?」


少し怖い顔をして尋ねます。


「パパの、、、」


瑠璃は少し考えて


「知らない。見せてもらった事ないわ。持ってないんじゃないかなぁ。たぶん、パパは星刻で生まれた人じゃないと思う。」

「違うんですね」


まるで念を押すような執事に


「うーん、、たぶん、、、ね」


そう言えば、パパとそんな話をした事なかったな、と瑠璃はぼんやりと思います。

ほどなく、玻璃が見なれない服を着て戻ってきました。首から宝石のようにキラキラと光る赤なアミュレットグラスをさげて。


「ママ、可愛い。」


そして駆け寄ると、首元をじっと見て


「久しぶりに見るような気がする。やっぱり綺麗、ママのアミュレットグラス。宝石みたい」


ドキドキしているように目を輝かせて見つめます。 玻璃の手の中には、自分と同じ細い金のネックレス


「さあ、瑠璃。あなたの赤いアミュレットグラスをつけて」


そう言われた瑠璃は、玻璃の手の中のネックレスの一端を持ち 自分の赤いアミュレットグラスを通します。

両手でそれを高く上げ


「きれい」


と呟き、自分の首元に持っていくと、玻璃がそっと留め金をとめて、優しく瑠璃の肩に手を置き


「十一夜、おめでとう」


と。そこに暁が走って戻って


「お待たせ」


その姿を見て執事が、


「刻の執事、、、まるで刻の執事ですね。シルクハットまでちゃんとある」


瑠璃は、ケラケラ笑って


「パパは、手品が趣味なの。結構上手なのよ。ねー。」


うなずく暁に


「パパ、まさか今日はシルクハットにハトは入れてないでしょうね」


そう、いたずらっぽく瑠璃は暁を見ました。


「ああ、今日のシルクハットには タネも仕掛けも 本当にありません」


そう言うと、クルッとシルクハットを回して被って見せます。 暁も瑠璃がつけたアミュレットグラスに目をやり


「瑠璃。十一夜 おめでとう」


優しく声をかけ瑠璃を抱きしめました。 親子の楽しい会話を聞きながら首を横に振り、


「考えすぎだ」


そう執事はつぶやくと


「瑠璃さん。十一夜で女神様にお会いするのに、パパ ママと呼ぶのは困ります。あくまでも、お母様は十一歳。お父様は、、、その、刻の執事なのですから」

「そうだね瑠璃。パパがせっかくマネてこんな素敵に刻の執事になったのに」


そうだねと、クスッと笑い


「パパの事は執事さんって呼べば良いとして、ママの事はなんて呼ぼう」


そう考えていると、執事が


「マリさんと呼ぶのはどうでしょう」


と、提案してきます。


「なぜ、マリ?」


不思議そうに瑠璃がたずねると


「瑠璃さんは、ついママと呼ぶでしょ。マで始まる名前の方が、いざという時ごまかしが効くような名前がいいかと」

「良い考えね。わかったわ。私は今晩マリになります。」


さっきまで暗い顔をしていた玻璃も楽しそうです。 執事が三人を見回すと、大きく深呼吸をして


「それでは、行きましょう。」


と声をかけます。続けて


「ただ、人数オーバーなので、私がちゃんとコントロールできるのか、少し心配で、、、」


と、いかにも自信がありませんと顔に書いてあるようです。


「それでも とにかく行かないと」


玻璃と瑠璃の輝くアミュレットグラスと満月の光が執事を包み込んで行きました。

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