第21話 思い 念う
二十一 思い 念う
そうは言っても、気になります。元気を取り戻して来た瑠璃は考えます。
『時』が瑠璃のいる世界の事なら、星刻町にオルゴールだった人がいるかもしれない。 なんだかワクワクするんです。
十一夜は、瑠璃が生まれるずーっと前からあるのですから、瑠璃が、人間だと思って話をしていた人が、実はオルゴールかも。
オルゴールっぽい人は誰だろうと、得意の空想レーダーがグルグルとまわりだし。
(駄菓子屋のおばあちゃん、いつもニコニコしてる。おばあちゃんなのに可愛い。小さい頃からずっとあのまま。変わらないなあ。私は、こんなに大きくなったのに。何かおかしい、、、やっぱりオルゴール候補ナンバーワンね。)
少しもおかしくはありません。子供の瑠璃の成長と、おばあちゃんの成長が同じである方がおかしいのです。
瑠璃のワクワクは加速します。
(魚屋のゲンちゃん。いつ見ても元気すぎる。自分で朝、星刻の海に漁に出るのよ。帰って来ればすぐにお店の準備してお魚屋さんもして、あんなに元気なはずないよね。オルゴールかもしれないなあ〜)
なんだかニヤニヤしている瑠璃に、玻璃がすぐに反応し耳元でそっと
「瑠璃。何を空想してるの?星刻町にオルゴール出身者は、いないと思うよ。」
暁と刻の執事は、そんなこと瑠璃は考えているのとびっくりしたように目を大きく見開いて瑠璃を見ました。
「なんでわかっちゃうの。」
口をとがらせる瑠璃。玻璃は、そりゃお母さんだからねって顔してニヤリとします。瑠璃は小声で、
「だって、刻の執事様に会ったて話、誰も聞いたことないってクラスのみんなも言ってたよ。それなのにシルクハットかぶっている事、みんなが知ってるんだよ。誰か知ってる人がいるって事でしょ。
オルゴールから人間になった人がいて、シルクハットのこと話したんじゃないかと思うの」
玻璃は、またまたニヤリとして
「瑠璃、オルゴールから人になることがもしも起きるとしたなら、十一夜に行った子がいるんでしょ。その中の一人の子が話しても、みんなにシルクハットのこと伝わるんじゃなあい」
そっか、と瑠璃も思いましたが、そんなに簡単に諦めきれません。
『時』の事も知りたいし、でも女神様にも言われた、カギを渡すオルゴールをも決めなければなりません。
同じ夢を持つオルゴールを見つけてカギを渡さなければ、帰れない。 それは、音も無い、誰も居ない刻の狭間でずっと暮らすことです。玻璃と暁だってこのまま。
瑠璃の中には、みんなであのお気に入りの窓がある部屋に帰りたい。そう強い思いが芽生え初めていました。
『時』の事を聞いて半べそをかいていた瑠璃はもういません。 さて、どうしようかと考えて、
「テリーゼは、『時』に行ったらどうしたい?」
直球すぎる質問に
「『時』に行く、、、?」
そう言ってテリーゼは黙ってしまいます。
「行きたくないの?」
女王の話かただとオルゴール達はみんな『時』に行きたいのかと思っていた瑠璃にとって意外な反応です。
テリーゼは、さっきまで立っていた台座にそっと手を置くと
「私はね、この私の小さなステージではなく、大きな舞台で踊ってみたいの。私が踊って、観客みんなが夢の世界に入ったみたいに酔いしれて、笑顔になって、そしてたくさんの拍手を私に送ってくれる。そうなったら素敵だな〜って」
瑠璃もテリーゼの台座を撫でながら
「ラルムがさっき言っていたのと同じね。本当にそうなったら、私もテリーゼが舞台で踊ってる姿を見たい。キレイだろうなあ〜」
そう言って
「それなら、やっぱり『時』に行きたいんじゃないの?」
と、尋ねます。テリーゼは少ししぼんだように
「そうね」
小さな声で答えました。どうしたんだろうと心配になった瑠璃が、テリーゼに声をかけようとするとラルムが
「瑠璃。ぼくは、泣いている人が一人もいない世界を作りたいんだ」
「ラルムは、そんな大きな涙をつけているのに?」
元気な声のラルムに瑠璃も同じように聞き返します。
「そうさ。作るのさ。この涙に世界中の悲しいを集めて、閉じ込める。 そしたら、世界中に笑顔だけが残るだろ。泣いてる人はいなくなる〜。どう?素敵だろ。ピエロのラルムが作る、笑顔の世界〜」
そう言ってラルムは瑠璃とテリーゼの周りをおどけて踊り、テリーゼのほほを両手でフイっと持ち上げ、笑顔になって、そう言っているようでした。
「じゃあ、ラルムも『時』に行かなくちゃね。」
ラルムは瑠璃がそう言うと、いっそうテリーゼのほほを持ち上げて
「テリーゼの 次の十一夜にね」
そう答えます。
(次。そうだった一人しかカギは渡せない。この中から一人。)
瑠璃は、思います。
(テリーゼの夢は本当に素敵。私はみんなの前で踊るなんて恥ずかしくてできそうもないけど。でも空想の中なら私も踊ったことある。 世界一のバレリーナになって海のその先の世界に行ってキラッキラの舞台で踊る。
本当にそれができたらなあ〜。テリーゼと一緒に踊れたらなあ〜。
テリーゼを元気づけるように優しく声をかけたラルムの夢も素敵。 悲しいことがない世界、みんなが笑顔の世界かあ。私も住んでみたい。
テリーゼの夢とラルムの夢。どっちの夢も叶えたい。)
ラルムに頬を持ち上げられて、笑顔を取り戻していたテリーゼを見て
(なんだか楽しそうな二人。一緒にカギを渡せたら。)
瑠璃がテリーゼとラルムをしみじみと見てそう考えていると、ふと
(あれ、さっきテリーゼがしぼんだのってこれ?ラルムと離れちゃうから)
瑠璃の頬が赤くなります。
瑠璃が少し大人になった瞬間でした。
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