第12話 刻の中に

十二 刻の中に


シャリシャリとガラスの葉っぱの音だけが聞こえています。

瑠璃の何倍のありそうな大きな扉の前に立ち、どうやって開けたら良いのか分からず 扉に手を置いたまま固まってしまった瑠璃に執事がそっと耳元で


「押すんですよ」

「あっ」


瑠璃は、少し赤くなった頬で執事をチラッと見ると、意を結したように 両手に力を込めて扉を押します。

扉は思った通り重たく、瑠璃はさらにグッと力を込めると、不思議な文字盤からでしょうか、深く重たいゴーンゴーンと音が鳴り響きます。 すると文字盤は、小さな丸い粒の光になり空一面に広がると、瑠璃、玻璃、暁、そして執事に降り注ぎ四人を包み込むとそのまま扉の奥へと導いていきます。


「すごい」


光の波に乗っている様に運ばれてたどり着いたのは、暗くて広い部屋。

光に包まれていた瑠璃達は少しずつ目が慣れてきて、薄暗い中に何か人影の様なものが


「誰かいるの?」


さらに目を凝らすように見つめていると


「ようこそ刻の十一夜に」

「えっ」


暗闇を見ることに集中していた瑠璃は驚いて声のする天井の方を見るとそこには息をのむほど光に包まれた美しい女の人が瑠璃達を見つめています。


「う」


声も出せないほどに美しい


「あなたは今日 十一夜を迎えたのですね」


美しい女の人が優しい声でたずねます。


「は、、、、い」

「おめでとう」


その人の声もなんて美しいのでしょう


「あ、、の、、あなたは、、女神様、、ですか?」


女の人はゆっくりとうなずき、瑠璃を見つめて


「あなたは?」

「私は、瑠璃です」

「そう、ようこそ 瑠璃」

「はい」


なぜでしょう、瑠璃は 自分でも理由が分からないのに涙があふれだしていました。


「あなたは?」


玻璃を見つめ、尋ねる女神の声は瑠璃にたずねたそれとは違うように聞こえます。


「マリです」

「そう、マリ、、ですか」

「はい」


そう応えた玻璃を見つめて、しばらく目を閉じると、女神は小さくうなずき


「ようこそ マリ。マリの誕生日も今日なのですね」

「はい」


もう一度目を閉じて、一つ息を吐き


「そうですね」


そう言って微笑むと玻璃に向かって


「ようこそ マリ」

「はい」


本当の十一夜ではなく刻の狭間から抜け出すためにこの場所にきている玻璃と暁。

瑠璃の刻の執事は、もう心臓が張り裂けそう。

もし二人が今宵 ここに居てはいけない二人だとバレたら。


(あー あー)


考えれば考えるほど 女神様がこんな異常な事が分からないはずが無い。


(そうだ。そうだよ。あたりまえだ。女神様なんだぞ)


玻璃や、暁だけではなく、瑠璃も刻の狭間に落ちてしまうかも知れまい。


(もうだめだ。あーだめだ。心臓が破裂しそうだ)


自分の安易な考えから幸せな夜が、仲の良い家族が、抜け出せない闇の中に堕ちていく。


(やはり瑠璃だけ連れてくるべきだったのか、、、)


女神様の玻璃に対しての声かけが瑠璃のそれとは明らかに違うようにしか執事には聞こえません。

執事はもう顔を上げる事ができません。


それなのに女神を見つめる玻璃も暁もなぜか安心してるように。


(気のせい、、、? でも、、、)


どう考えたら良いのか迷っていると、瑠璃の明るい声が


「ずっと、ずっと 十一夜を待っていました。ずっと ずっと。 女神様 とってもしあわせです」


なんて、素直な声でしょう。

全ての不安を吹き飛ばしてしまうほどのまっすぐな思いが、部屋の中いっぱいに広がっていきました。

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