第24話 ヘラの鏡
二十四 ヘラの鏡
「王様にお会いしたい、、、」
瑠璃を見て青い大粒の涙を流す女王、気品高く自信たっぷりに声を張って話していた姿は、もうそこにはありません。
オルゴールたちも、執事たちもみな、瑠璃の話たことが本当のように思えていましたが、どうしたら良いのか困り果て、ただそのばに立っているだけでした。
そんなみんなの様子を見た瑠璃が、
「刻にいるとして、それがどこかなんて私より、みんなの方がわかるんじゃないの?」 「僕たちの方が?」
涙に沈んでしまいそうな女王を何とかしてあげたいラルムは瑠璃に
「どうして僕たちの方が?十一夜が始まったばかりの僕たちの方が知っているとは、思えないよ。王様がいることもわかっていなかった。」
「そっか、十一夜のたびに始まるんだものね。」
「う、うん。」
テリーゼと顔を見合わせて、ラルムが頷きます。
「でもね、私はここに、この刻の狭間に十一夜を迎えて初めて来たでしょ。みんなは私と、えっと〜マ、マリの十一夜を迎えた時に始まったのでしょうけど、願いを教えてくれる噴水の事を知ってたし、青薔薇の事も教えてくれた。」
「ですから、それは自分の事ですからわかっているのです。」
白髭の執事は諭すように瑠璃に言いますが
「うん、わかってる。でも噴水の事はテリーゼだけじゃなくて、みんな知っていたのよね。」
「ええ、存じておりました。」
「そうだね、僕も知っている事だよ。」
ラルムがそう言うと、チムニーも頷きます。
「ね、みんなの方が私よりもここのこと知ってる。だから、私にまだ話していない、ここの事でみんなが知っていること。えっと、なんて言うか、他にオルゴール達がいる場所とか。ないの?刻に王様がいるならそこにいるんだと思う。」
テリーゼと、ラルム。そしてチムニーも薄暗い館を見回して考えます。
「他のオルゴールって言われても、ここにいるみんなのことしか、今はわからないし。」
チムニーが申し訳なさそうに言うと瑠璃が
「私もわかんないことがあるんだけど。みんなは、自分の事じゃないないのに、どうしてお互いのことがわかるの?」
「お互いのことがわかる?それのどこがわからないの?」
チムニーは、瑠璃の質問の方がどうしてと思います。
「だって、十一夜ごとに始まるのでしょ、って事は、私が来た十一夜で初めてみんなは会ったって感じなんでしょ。それなのによくわかってるみたいだから。」
「ああ、なるほどね、そこがわかんないことか。」
チムニーは、友達になった瑠璃に僕が教えてあげるよと、話し始めます。
「簡単なことだよ。十一夜が始まって、こうしてまたみんなと会えたから。また会えたオルゴールの事は、わかるんだ。
例えば、それぞれの叶えたい夢とか思いとか性格とかね。テリーゼとラルムがお互いを、大切に思っていることとかもね」
(えーっ、今 チムニーったらすごいこと言った。)
瑠璃はまた自分の顔が熱くなっていくのがわかりましたが、チムニーは、構わず話を続けています。
「僕たちオルゴールは、みんなそうなんだ。だから、ここにいなくて会えない、始まっていない王様の事は誰もわからないんだよ。」
そう話終わると瑠璃をじーっと見て
「瑠璃、どうしたの?また、顔が赤いよ、大丈夫?」
今度は否定することも忘れるくらいドキドキして、両手で、自分の頬を抑えながら瑠璃は、チムニーに顔を近づけて小さい声でまるで秘密を聞き出すように
「やっぱり、そうなの。テリーゼとラルムは恋人同士なの。」
「恋人?大切に思いあうことをそう言うなら、そうかな。でも女神様には内緒だよ。」
チムニーも内緒話しをするくらいの小さな声で言いましたが、なぜか怖い顔です。
チムニーに気づく事もなく瑠璃は、いっそう赤くなり心の中で キャーっと叫んで頬を抑えたまま顔をブンブン振り出します。
そんな瑠璃に、チムニーが、
「どうしたの大丈夫。しっかりして。」
可愛らしい二人のやりとりとは違い白髭の執事は、
「私は、女王様にお仕えするのが役目。お茶会のお茶に青薔薇を入れて十一夜にお出しするのも私の役目。悲しんでいらっしゃる女王様をお助けするのも執事である私の役目。
それなのに、王様がいらしたのなら、なぜわからない。」
悲しみの中にいる女王を救う手段さえわからない自分を責めていました。 ラルムは、白髭の執事を気遣うようにの背中にそっと手を添え、そして
「気になっている事があるんだ。」
「何をでございますか?」
いつもより弱々しい声の白髭の執事に
「気を悪くしないで聞いて。もし、瑠璃の言うように本当に王様がいたのなら、十一夜が開ける前のその刻に、王様は自分の台座に帰って来るはずだよね。」
その言葉に、白髭の執事がハッとします。
「そう、帰れない何かが起きてるって事じゃないかと、、、」
「帰ることができない場所、、、そこに王様がいらっしゃると。」
ゆっくりと頷くラルム。お互いの考えている事が恐ろしくて、口に出す事ができないでいるラウムと白髭の執事。
二人の考えた通りであるなら、女王は、もっともっと深い悲しみに落ちて行ってしまう。
そしてそうなってしまっても誰にも、どうする事もできないのだと、白髭の執事の気持ちも崩れ落ちてしまいそうです。
そんな二人にマリになった玻璃が近づいてきて
「ヘラの鏡の中にいるって事なのでしょ。」
玻璃の言葉に刻が凍りついていくようでした。
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