第23話 溢れ出す
二十三 溢れ出す
女王の涙は青い瞳をいっそう深い青に染めていきます。
白髭の執事が女王のそばに寄り添い立っていますが、悲しみに沈んでいる背中を見つめるだけで、声をかけられずにいました。
瑠璃は、そんな女王の正面に回ると
「大丈夫よ。元気出して女王様」
そう、明るく声をかけます。そんな瑠璃に白髭の執事は怒ったように、しかし丁寧に静かに
「瑠璃様。申し訳ございませんが、少し離れていて いただけないでしょうか」
自分の支えている女王を守るようにそう瑠璃に言います。刻の執事も慌てて、女王のそばから引き離そうと瑠璃の手を引こうとしますが、その手を振り解いて執事達に向かい
「大丈夫だってば」
と笑顔を見せます。
「大丈夫って、どう言うことかしら?瑠璃あなた、どうして大丈夫と言えるの?」
女王の瞳から青い涙がこぼれます。暁も、刻の執事も瑠璃の態度に混乱していると、その様子を見たラルムが瑠璃のそばに走り寄り
「瑠璃、どうしたの?君は優しい子でしょ。なぜ女王様にこんなに悲しい涙を流させるの?」
と、瑠璃の目を見て悲しそうに尋ねます。刻の執事も
「大丈夫と言うのは、カギを女王様に渡すと言うことなのでしょうか?」
と女王を気遣うように。そして『時』のことで女王とのやりとりしている中、何か意地悪な気持ちでも瑠璃に起きていたらと、心配し瑠璃を落ち着かせようと優しい声で尋ねます。
でも瑠璃は、そんなみんなの心配などおかまいなしに
「カギを渡す?違うよ」
いっそう笑顔で答えます。瑠璃の意図が全くわからずにいる刻の執事。 困り顔の執事達にかまわず
「女王様、大丈夫よ。王様は、あなたを置いて『時』に行ったりしていない。」
「えっ、どう言うことかしら?『時』に行ってない?ここに王様はいらっしゃらなのよ。」
女王だけではなく、その場にいたみんながその言葉に驚いて瑠璃を見つめます。
「まあ、たぶんだけどね」
「たぶん、だなんて。瑠璃さん、そんな不確かなことで、女王様に もう一人いたのが王様だとか、大丈夫だとか言ってはいけません。」
刻の執事は、自分が十一夜に連れてきた瑠璃が女王を悲しませていることに、何とかしなくてはと焦ります。
「だって、ちゃんとわからないから、たぶんなんだもの。」
「ですから、わかりもしない事で女王様を悲しませるような」
声を荒立て始める刻の執事の肩に、玻璃がそっと手を置いて静止すると瑠璃に尋ねます
「瑠璃は、どうしてそう思うの?」
「ここを見て」
そう言って女王が愛おしそうに触っていた大きい四角い穴を指差し
「穴がそのままでしょ。」
「そうですね」
刻の執事が何とか冷静でいなければと静かに言うと
「もし、他の台座のオルゴールが『時』に本当に行ったんだたら、ここが違うよ。他の台座には、穴がないもの。」
「えっ、」
刻の執事が暗闇の中の台座に近づき、台座全面を撫でてみると
「本当です。本当に穴がない、何もない」 「ね。無いでしょ。『時』に他のオルゴールたちが行ったとしたらよ、『時』に行ったオルゴールの台座の穴は消えるってこと。だから、あるって事は『時』に行ってないて事。」
瑠璃は満面の笑顔で得意げに。
「でも『時』の事、誰もよくわかってないみたいだから、たぶんなのよ」
今度は、自信なさそうに。でも女王は
「王様は、ここに、、、刻にいらしゃるのね、、、」
「女王様、待って、待って。たぶんだってば。それに王様かもって事で、王様じゃないかも、、、」
そう話す瑠璃の話を女王は最後まで聞かずに、
「王様がいらしゃるなら、刻に、、、このまま、刻に。十一夜が始まるたびに、王様とご一緒できるこの刻に、、、このままずっとずっと私も」
女王は自分自身でも気がついていなかった思いが、夢が止められない程に溢れ出し
「瑠璃、王様は、私を一人置いて行ったりしていないのね、、、刻のどこかにいらっしゃるのね、、、教えて瑠璃、ねえ、どこに王様はいらしゃるの。瑠璃、私、王様にお会いしたい。」
女王の願いが刻の狭間にこだましていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます