第21話 ナナミ、始動

<三人称視点>


 天の川家、ナナミの部屋にて。


「~~~!」


 ナナミはスマホを握りしめながら、ベッドでゴロゴロと転がっている。

 発しているのは、言葉にならないもだえているかのような声だ。


「……はぁ」


 そうして、枕に顔をつけながらスマホを覗く。


「送っちゃった」

 

 開いているのは、ホシと個人でやり取りをしているページ。

 ナナミはたった今メッセージを送ったばかりだ。


『私とコラボしませんか!』


 その自分のメッセージを見ながらつぶやく。


「なんで敬語」


 ホシとは幼馴染であるナナミ。

 だけどナナミは、彼が知らぬ間になんとなく遠い存在になってしまったことを心のどこかで感じていた。


「……」


 ナナミは自分とホシの数字をチェックする。


配信チャンネル

『彦根ホシ  :40万人』

『天の川ナナミ:42万人』


SNS

『彦根ホシ  :36万人』

『天の川ナナミ:48万人』


「カハッ……!」


 それを見て吐血しかける。

 

「たった一週間でもうこんなに……」


 総合的な数字はまだ勝っている。

 それでも、自分ではあの配信の同時視聴者数や、ここまでの伸びは出来ないだろうとナナミは自覚している。


 なにしろ、最近のホシのダンジョン配信は短時間で同時視聴25万人。

 ヒカリの配信に現れた時は、100万人という快挙も達成した。


 ヒカリの配信はホシのチャンネルではないが、その数字に大きく関わったのは間違いなくホシだ。


「それに……」


 ナナミは目を閉じ、もう一度すっと目を開く。

 ただ、開いた目付きは獰猛どうもうな魔物のようだ。


「次から次へと女の人・・・が!」


 ここまで数字について考えておいてだが、やはりナナミがそれ以上に気になるのは「ホシの女性問題」。


「こーーーしちゃいられないわ!」


 最近のナナミさんの行動。


 ホシの初自宅配信で女の声を聞き、気絶。

 それからエリカがエルフだと知り、なんとか持ち直すも……今度は「日向ヒカリ」が現れて画面の前で椅子から崩れ落ちる。


「なんなのよー!」


 ここ何日かのナナミは抜け殻状態となっていた。

 前に「今はお互いの活動を優先すべき」とアドバイスしたのを、心底後悔していたほどに。


「もう、なりふり構ってられない」


 ホシがバズる要素を持ち合わせているのは知ってた。

 幼馴染としてもホシの人気が上がるのは嬉しい。


 しかし、


「女の人が寄ってくるなんて!」


 まさかこうなるとは思ってもいなかった。


 ホシに数字が抜かされるのは最悪許せても、女が近づくのは許せない。

 ナナミはこんな状況になって、初めてその気持ちを自覚した。


「こうなるのなら……」


 ナナミはここ何年間かの行動を少し後悔する。

 ダンジョン配信という新しい道を見つけて、少しでも母を助けようとしてきたが、あまりにもホシに対しては奥手過ぎた。


「でも!」


 それでもナナミはポジティブ。

 気絶しても、椅子から崩れ落ちても、抜け殻となっても、数日もすればケロっとしている不死鳥・・・のようなメンタルを持っている。


「こうなったら……あ!」


 そんなところに、ホシからメッセージが返ってくる。

 ナナミはバッとベッドに転がってメッセージを開いた。


『別にいいんだけど……』


 だが、その返信に顔をしかめる。

 ナナミはすぐさまメッセージを返した。


『いいんだけど、何?』

『ちょっと姉さんが面倒でさ』

『あのエルフっていうエリカさん?』

『そうそう』


 ナナミはふむ、と軽く上を向く。


「あれは確かに厄介ね……」


 女の勘とも言うべきだろうか。

 ナナミの直観が「エリカは危険」と言っている。

 こいにおいても物理的・・・においても。


「どうしよう……いえ」


 ナナミは前を向いた。

 そのキリっとした目で配信内容の提案をする。


「こうなったら!」


 そうして、配信者となったホシと、幼馴染である天の川ナナミのコラボ配信が決定した。







 後日。


「なにこれ」


 綺麗なテーブルクロスが敷かれたテーブルの上で、ホシは不思議そうな顔を浮かばせながらつぶやいた。

 ここはホシの家、リビング。


《うおおおおお!!》

《きたああああ!!》

《盛り上がって来たぜ!!》

《企画から神だろ》

《だよなあ》

《正 妻 戦 争》

《ヒカリちゃんも呼べばなあ》

《ヒカリちゃんの復帰はまだでしょ》

《じゃあ何でホシ君は普通にいんのw》

《ホシ君いないと企画成立しないだろ》


 配信は始まっており、すでに視聴者数は10万人を超える。

 行っているのはホシのチャンネルだ。


「あの、お二人さん? 気合い入り過ぎでは?」


 ホシは目の前の二人にそーっと尋ねた。

 

「当たり前じゃない!」

「当たり前でしょ!」


 答えたのはエリカ、そしてナナミだ。


《めっちゃ気合い入ってるww》

《これは負けられない戦い》

《でもナナミンに勝機あるんか?》

《正直あんま見えない》

《敵が強大すぎる》

《でも未知数っちゃ未知数》

《ナナミンがんばれー!!》

《お姉さん応援してる!》

《エリママ~》

《ナナミちゃん!!》


 二人の様子にコメント欄も大盛り上がり。

 今日の配信タイトルからワクワクが隠せていないのだ。


 ホシはふぅと一息つき、椅子に背中を預けた。


「まあいっか。美味しければ・・・・・・


 配信タイトルは『天の川ナナミVSエリカ 料理対決』。

 ナナミが提案したのは、まさかのエリカとの直接対決だった。


「キュイ」

「ワフ」


 審査員はホシ、めろん、わたあめ。

 それぞれ出された料理で、どちらの方が美味しかったかを判定する。


 だが、エリカとナナミの想いは一つ。


(ホシ君に選んでほしい!)

(ホシに選ばせてやる!)


 二人は早速料理に取り掛かる。

 しかし、コメント欄はいきなりの不穏。

 

《うわあ!》

《まじかあーーー》

《これは大人げねえ》

《勝負あったかもな》

《さすがに……》

《ナナミン;;》


 その様子に、ナナミはチラッとエリカの行程を覗き見る。


(なに? って、あれは……!)


「ふんふふ~ん」


 エリカは丸い赤身のものを作っている。

 間違いない。

 十八番おはこの「エリカのハンバーグ」だ。


 エリカは当然ナナミの視線にも気づいている。


(勝負あったかしら。待っててね、ホシ君♡)


 すでに勝ちを確信しているようだ。

 それでもナナミは手を止めない


(そんなの知ってたことだ!)


「わたしだって……!」


 そうして、両者の料理が出揃った。

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