第34話 地下三階『魔境』に突撃!

 「地下三階『魔境』に突撃ぃ!」


 右手を上げて宣言すると、コメント欄も大いにいてくれた。


《出た!》

《地下三階!》

《ついに来るのか!》

《きたあああ!》

《今さら魔境って言われてもなあw》

《ホシ君の言う魔境ってなんなんだ……》


「あ、そうですねー……」

 

 後半の反応を見て、俺は改めて自宅ダンジョンについて説明をしてみる。


 地下一階は『遊び場』。

 地下二階は『生活スペース』。


 ここ二つはほとんど家みたいなものなので、よく行き来する。


「で、次にあるのが『魔境』です」

 

 そして、地下三階は『魔境』。

 急にどうしたって感じだけど、おじいちゃんが言っていたのでそう呼んでる。


「ここはまあまあ未開の土地でして……」


 そんな地下三階は、とにかく広い・・・・・・

 一階・二階とは比べものにならないほどに。

 もはや、一つの独立したダンジョンといった方が良いかも。


《なんで家に未開の地があんだw》

《相変わらずぶっ飛んでるなこの自宅ダンジョン》

《規模えぐい》


「そうなんですよね」


 どうしてこうなってるかは分からない。

 なんとなく知ってる種族はいくつかあるけど、一番奥まで行ったことがないから、家主の俺でも全てを把握しているわけじゃないんだ。


「今のところ、特に不便はないですが」


 それでも平和なのは、地下三階と家の間にはある『ルール』が決められているから。

 ここに住む種族は『自由に過ごしていいから厄介事は起こさない』というものだ。


 それもあって、住人は勝手に外には出てこない。

 ちなみに、これを決めたのもおじいちゃん。


「おじいちゃんにはちゃんと聞いておくべきでした……」

 

《おじいちゃんまじで偉大》

《どんなおじいちゃんやねんw》

《ホシ君の面倒を見てた時点で偉大なんだよなあw》


「まあ、そうも言ってられないので、早速行きましょうか」


 そんなこんなをしている内に、階段を下り終えて、地下三階の扉前。

 ここを開けるとその『魔境』だ。


「開けます!」


 俺はゆっくりとその扉を開けた。


 途端にぶわっと広がる景色。

 浮遊型カメラは、それを引きでとらえた。


《うおおおお!?》

《えっ?》

《なにこれえっぐ……》

《すっげえ》

《ファンタジーの世界かよ……》


 その幻想的な景色に視聴者がコメントを書き込む。

 俺もより雰囲気を出せるよう、光景を表現した。


「最初に視界に入ってくるのは、真っ直ぐ続く道をいろどるよう、両脇から生える豊かな新緑」


《ん?》

《どした?》


「斜め上からは木漏こもが差し込み、高く伸びる木々をより際立たせる」


《ホシ君?》

《詩人になっちゃった?》


「夏を思わせる風景ではあるものの、セミの鳴き声や暑さはまるでない。耳を気持ち良く通り過ぎていくのは、近くを流れる川とゆらゆらと揺れる木々の涼やかな音のみ」


《これ、誰?》


「まるで都会の喧騒けんそうを離れ、山奥に来た時のような高揚感。この光景は、それを覚えさせてくれる素晴らしい情景だ」


《なんかエモくなってきた》


「って感じで読むのよ、ホシく……あ、やべっ」


 と、余計に読んでしまったところで、浮遊型カメラがぐりんとこちらを向く。

 さっと隠した紙を見られて、コメント欄は納得の様子を見せた。


《なんだあw》

《エリカお姉さんのカンペねw》

《カメラから隠れて読んでるの草》

《詩人になりたかったの?ww》

《最後にボロ出たなあw》


「くぅぅ」


 実はこういうことも出来ちゃうんです、って見せたかったのに。

 姉さん余計なこと書かなくていいよ!


「で、でも、雰囲気は伝わりましたよね!」


《まあねw》

《それっぽかったw》

《ラジオ代わりで聞いてるので助かります!》


「ほっ」


 温かいコメントに安心して、改めて風景を見渡す。


 扉を開けた先は、林道。

 誰が作ったのかは謎だけど、奥に続くように伸びていて道を示してくれる。

 あとは、ちょうど良い陽射しと川があってめっちゃ気持ち良い。


「それにしても不思議ですよね」


 俺が見上げるのと同時に、カメラも上を向く。

 

 すぐ後ろには扉もあるのに、ここに入った瞬間に天井はなくなる。

 どこまでも続く空から陽の光が注ぐんだ。


 ダンジョンって本当に不思議。

 

「じゃあ進みますか」


 そんなエモい地下三階の入口から、俺は目的地を目指して歩き始めた。





 くねくね曲がる林道を逆らわずに歩いて、しばらく。

 

「今度は虫取り網を持ってこようかなあ」


《ホシ君似合うわw》

《ウッキウキでかわいい》

《いよいよ小学生だけどなw》


「べ、別にウキウキしてるじゃないんですからねっ!」


 視聴者さんに気持ちを察知されそうになって、とっさに誤魔化ごまかす。

 そんな雑談も交えながら、結構進んで来たと思う。


《まじで幻想的》

《綺麗だなあ》

《魔素水の川は当たり前に流れてますと》


 ここまで来ても、光景に関するコメントは絶えない。

 むしろ次々と出てくる新しい景色に夢中になってるみたいだ。


「それなら、今度探索配信も良いかもしれないですね」


《え、まじ!》

《してほしい!》

《見たい!》


 うんうん、視聴者さんの反応は良い。

 せっかく夏休みだしそういうのもアリかな。


「あーでも……」


 そこまで大きなことをやるとなると、あの人・・・に許可を取らないといけないのかあ。

 今回は目的があるという名分はあるけど、それはちょっと面倒だな。


 まあ、後で考えよっと。


「お」


 そんな時、ちょうどよく林道の分かれ道が見えてくる。

 ここまで来ればもうすぐだ。


「こっちです。目的地はもうすぐそこですよ」


 分かれ道を過ぎてすぐ。

 ようやく目的地が姿を現した。


「ここですね」


 そこでまた出てきた新たな光景に、視聴者も釘付けになった。


《はえっ!?》

《なんだここ!?》

《急に!?》

《雰囲気はあるけど……》

《まじで秘境じゃん》


 林道の両脇から、通る人を囲むような鳥居。

 それがいくつもいくつも連なり、奥には大きな神社が見える。

 京都にも似たようなものがあったような、なかったような。


「今回の目的地『妖狐神社』ですね」


《妖狐神社!?》

《キツネと神社のイメージはあるけど……》

《世界観すげえな》

《急にこんなの出てくんのかよ》

《これは魔境……》

《どうなってんだ》


「もう少し進みます」


 そうして、幾重いくえにも重なる鳥居の中を進んでいき、最後に大きな鳥居をくぐった。


 目の前には赤色に染まった幻想的な神社。

 伝統的な笛の音なんかが聞こえてきそうな雰囲気だ。


「よし」


 そこで俺は、二週間前と同じように声を掛けた。


「ごめんくださーい」


 すると、のそのそと奥から音が聞こえてくる。

 明らかに大きな獣の足音だ。


 そうして──


「よく来たわね」


 九つの尻尾を持つ大きな狐が姿を現し、こちらをじっと見つめた。

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