第36話 親分さんの美しき姿
<三人称視点>
「これでどうじゃ!」
大きな九尾の姿ではさすがに地上に出せない、と指摘したホシ。
だがそう言った途端、イナリは得意げな顔でボンっと煙を立たせる。
そうして──
「どうじゃ? なかなかの美人じゃろう?」
そこにいたのは、まるで違った
美しいという他ない浮世離れした顔。
ナイスバディの上、両肩が出ている
獣耳は健在で、狐色の髪は後ろでお団子を作っている。
「驚いたであろう?」
どこからか持ち出した、
まさに「
《うわあああっ!》
《これはえぐい!》
《とんでもねえ……》
《刺激強めですねえ》
《これは素直にえっちです》
《和服美女!!》
それを目の当たりにしたホシ君。
何事もなかったかのように言葉を返す。
「そんなことできたんですね」
「妖狐は『化け狐』ともいう。これぐらいできて当然よ。子分たちにここまでの力はないがの」
「へー」
「む」
だが、その
なんとしてもホシをあっと言わせたいようだ。
「そうかそうか。ならばこれも見せよう!」
「ん?」
そうして、イナリの背後からふんわりとしたものが現れる。
長いマフラーのように、それは首元から下にかけてイナリを
「もふもふの羽衣じゃ!」
それはまるで、かぐや姫に出てくる『
どうやら九つの尻尾から作り出しているようだ。
《すごい見た目……》
《天女?》
《まじで美しいな》
《ますます現実離れした》
《ふつくしい……》
流れるコメント欄にもチラっと視界に入れるイナリ。
今度こそ確信を持ってホシに顔を向けた。
「どうだ、すごいじゃろう!」
「ふーん」
「ふーん……じゃと?」
それでもホシ君は変わらない。
そんな彼の隣を、トコトコと妖狐達が歩いて行った。
「あ、待って~!」
途端にそれを必死に追いかけるホシ。
ひしっと捕まえて胸元に抱きかかえた。
「あ~かわいいなあ」
「……」
浮世離れした美しい自分には一切興味は持たなかった。
なのに、子分たちにはあんな甘い表情を見せる。
イナリは激しく落ち込んだ。
「君たち
「そんなはずは……」
《君たち「は」ねw》
《ホシ君には刺さらなかったかw》
《興味なさそうで草》
《途中から話半分だったよなw》
「あ、そうだ」
そんな時、ホシはもう一度イナリに視線を向ける。
「イナリさんを地上に行かせるかどうかですけど」
「……!」
そこでようやく本来の話に戻る。
元々、イナリが人型の姿を
「どうじゃ! どうなのじゃ!」
「そうですねー」
イナリはウキウキでその返事を待つ。
「一旦却下で」
「なんじゃとー!」
「うわうわっ」
イナリはホシに駆け寄る。
「どうしてじゃ! こんな美女が隣におればお主も鼻が高くなるであろう!」
「いや、逆にちょっと目立ち過ぎと言うか」
「そ、それは、仕方ないじゃろっ!」
「まあまあ一応考えておきますので、今日は一旦勘弁してください」
「がーん!」
地下三階との『厄介事は起こさない』というルールに従って、地上に連れて行くことは拒否したホシ。
《まーなw》
《こんな人目立ってしょうがないww》
《さすがに連れて行けねえだろww》
《ホシ君が正しいかなw》
《正解》
「いやじゃ、いやじゃー!」
「姉さんとかにも相談しておきますから」
「うえーん!」
だが、しばらく
せっかくの絶世の美女姿は、子どものように見えてしまいましたとさ。
★
配信を終えて、この街のギルド内。
「ふぅー……」
息を吐きながら、だらりと椅子にもたれかかる女性。
「んぐっ」
からの、息を吸うように胃薬を摂取。
こんなに薬を常用している者はギルドに一人しかいない。
彦根ホシ管理部長──責野である。
「……」
そしてそのまま、彼女は机に肘をつきながら頭を抑える。
「……九尾?」
今しがた、見たくないものを見てしまったからだ。
「九尾ってなに?」
こうは言ったが、九尾という存在を知らないわけではない。
現代にも伝わる伝説的な生き物だからだ。
彼女が知らないのは「九尾のデータ」。
「……検索なし」
カタカタっとギルド内データベースで検索するも、その魔物データは出てこない。
つまり、イナリは「未確認魔物」ということになる。
「だからって、弱いってことはないわよね……」
ホシの配信を見返し、色々と考察を深める責野。
今出ている情報を軽くまとめた。
イナリは妖狐達の親分。
妖狐達はみんな魔核を持っている。
ならば、親分であるイナリが魔核を持っていないはずがない。
「あれは相当ね……」
また、画面を通して伝わる強者感。
間違いなくSランクはある。
下手をすれば、エリカほどの実力は持っているかもしれない。
「どれだけ出てくれば気が済むのよ」
しかも、地下三階はまだまだ広いという。
何やらルールは設けられてるようだが、今回のイナリのように「地上へ行きたい」という魔物は他にもいるかもしれない。
そんな可能性を考えただけで、頭が痛くなりそうだった。
──だが同時に、精神衛生に優しい収穫もあった。
「……かわいいじゃない」
妖狐ちゃん達である。
イナリも美人であるが、責野が好きなのはやはりもふもふ。
すでに、なんとかしてお近づきになりたいと思っているほどだ。
「そうね」
とりあえず、物流サイトの『アムゾン』で油揚げを箱買いしておいた。
なんとなく経費ではなく自腹で。
「あとは……これを詰めようかしら」
そうして、ひと段落したところで、モニターから隣の資料へと目を移す。
今は途方もない計画が書かれた書類。
それでも、責野は真剣な眼差しでそれを眺める。
「この『もふもふ街計画』をね」
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