第11話 初めてのダンジョン配信!with二匹のペット

 「こ、これでいいんだよね?」


 周りを見渡しながら、一つ一つの機材を確認した。

 浮遊型カメラ、マイク……ナナミからもらった配信機材だ。


 うん、どれも問題なく動いている。


「緊張するなあ……」


 周囲は暗めの洞窟のような場所。

 ここはすでにダンジョンの中だ。

 これも、今からダンジョン配信を行うため。


「ダンジョン配信って人気なんだなあ」


 SNSのアンケート機能を使って「どんな配信が見たいですか」と聞いてみたところ、ダンジョン配信が圧倒的に人気だった。


 やっぱり人気コンテンツなんだね。

 改めて実感したよ。


「ああ、もう時間だ!」


 そんなこんなをしている内に、告知していた時間の1分前。


 急に心臓がバクバクする。

 うまくできるかなあ……いや!


「ええい、もう押してしまえ!」


 俺は配信を開始させた。

 その瞬間、コメントがあふれるように流れる。


《こんばんは!!》

《こん》

《きたああああ!》

《うおおおお》

《待ってたぞー!》

《まちわびてました》

《配信嬉しい!》

《お、ダンジョンだ!》


「うわあっ!」


 いきなり目に追いつかないぐらいのコメント。

 俺は思わず声を上げてびっくりしてしまう。


「す、すごい。こんなに……って、3万人!?」


 まだ開始わずか1分。

 にもかかわらず、同時接続数がいきなり3万人との表示が。


《すげえええ!》

《やっば!》

《まじかよw》

《みんな見たかったんだな》

《猿山の配信でさらに注目度上がってたからな》

《今日はまだまだ来るだろうな》


「ふわあ……」


 すごく嬉しいなあ。

 誰も見に来なかったらどうしようと思ってたけど、開始してよかった。


 そうして、尋ねてくるようなコメントも流れる。


《ここはどこですか? ダンジョン?》


「はい! ここはナナミと来た『翼竜ダンジョン』です!」


 ダンジョンには名前が付けられる。

 大抵は地域とかが多いんだけど、ワイバーンが出るからそう呼ばれるようになったんだって。

 あの時の配信の影響……ではないでしょ、さすがに。


《そもそも、なんでダンジョン内から始めるんだw》

《まじでそれ》

《良かったそれツッコむ人がいて》


「え、普通は違うんですか?」


《ちげーよw》

《ダンジョン内は危険だし》

《安全なところから開始するでしょ》


「な、なるほど。でも別にどこも変わらないかなって……」


《ホシ君にすればなあw》

《それもそうかw》

《聞いておいてだけど、なんかすみません》


「いえいえ! 配信にはまだ不慣れなので言ってもらえると助かります!」


《配信に不慣れというか……》

《強すぎて危機感がないんだよきっと笑》

《やっぱちょっとズレてるw》

《そこがいいんだけどね》

《変わらないでほしいわw》


「そ、そうですか」

 

 なんかちょっとズレてるらしい。

 配信も中々難しいなあ。


「ん」


 そうして軽く挨拶もしたところで、カメラの後ろの子と目が合う。


 そうだった。

 今日は演出を考えてきたんだ。


「それはそうと、今日は皆さんにお見せしたい子がいるんですよ」


《え?》

《なんだ?》

《めろんちゃん?》


「あ、めろんいますよ。ほら」

「キュイ~!」


 手招きすると、カメラの後ろからめろんが姿を現した。

 今は可愛く小さなミニドラゴンの姿だ。


《めろんちゃん!》

《かわいい》

《相変わらずかわええ》

《めろんちゃんモエー》

《小っちゃーい笑》

《粋な演出じゃんw》


「そうでしょ~」


 最後のコメントを見て嬉しくなる。

 カメラの後ろに忍ばせておいたのが功を奏したみたい。


 でも、これだけじゃない。


「ですが、今日はもう一匹!」


《!?》

《え!?》

《もう一匹!?》

《まじか!》

《猿山の時よく見えなかったんだよな》


「そうみたいですね」


 猿山君が遊びにきてくれた日、彼は配信をしていたらしい。

 そこでペットが何匹か映ったらしいんだけど、姉さんの計らいなのか、うまく影になってて見えなかったそう。


 そこで紹介したいなあと思って連れて来たんだ。

 あとすっごく行きたそうにしてたし。


「おいで~」


 俺が屈んで手を広げると、子犬・・のようなペットが配信に姿を見せた。


「ワフッ!」


 白いもふもふな毛並み。

 お尻をふりふりとしながら歩く様子。

 毛玉が真ん丸になった尻尾。


 俺は、この尻尾を見て付けた名前を発表する。


「わたあめです」

「クゥ~ン」


 子犬のペット『わたあめ』だ。


《きゃー!》

《可愛い!》

《ポメラニアンみたい!》

《もっふもふ!!》

《また小っちゃ~い笑》

《なんだこの癒しの生き物》

《めろんと張る可愛さ!》


「おー、早速人気みたいだぞ。良かったな、わたあめ」

「ワッフ~」


 わたあめは尻尾をふりふりとさせながら、満面の笑みを浮かべた。

 受け入れてもらえて喜んでるみたい。


「わたあめったら、ダンジョンに連れてけって離れなくて」

「クゥ〜ン」


《可愛い笑》

《いいなあこのペット》

《人懐っこそう》

《怖くはないね》

《この子は可愛いだけなのかな?》


 ただ、中にはわたあめを心配するコメントも。


《連れて来て大丈夫ですか?》


「大丈夫です!!」


《即答w》

《まあホシ君いればなー》

《飼い主が最強だしw》

《これは安心》


 だけど、俺が自信を持って言ったことでそれもなくなった。


 そろそろ配信を進めてもよさそうだ。

 そう思ったところで歩き始めると、すぐに狭めの道につながる。


《ん?》

《あれ、ここって》

《なんか見覚えあるような》


 中には見覚えがある人もいるようだ。

 あの日のナナミの配信を見ていたのかな。


「ここは、ナナミが踏んでた変なワープ床があるところです」


《え!?》

《やっぱりかよ!》

《なんでこんなところ来てるんだ!?》


 俺が配信を開始したのはここのすぐ近く。

 一応、俺なりに段取りを考えてみた結果だ。


 だって……。


「便利ですよね〜。一気に下層に行けるし!」


《はい?》

《あの、それ一応トラップです》

《しかも超害悪のな》

《RTAでもしてんの?w》

《確かに一理あ……いやねえわ》

《ダンジョン側も想定してない使い方だろw》


「てことで、転移~」


《うわっ!》

《バカ野郎!》

《ダメだこいつ》


 光に混じるコメントをチラ見しながら、俺は転移した。




 

「──ギャオオオオオオオ!」


 視界が慣れて来ると同時に、鳴り響く咆哮ほうこう


 俺は目を開けながら見上げた。

 やっぱり、前に聞いたのと同じワイバーンの咆哮だ。


「おーこえっ」


《嘘つけw》

《おー(棒)》

《全然怖くなさそうw》

《義務リアクション》


 うーん、視聴者には義務でリアクションしたのがバレていたか。

 ナナミに「配信ではリアクションを大きく」とアドバイスをもらったのに。

 つくづく配信って難しいなあ。


「んー、あの鳥どうしましょうか」


《余裕そうw》

《不思議とワイバーン怖くなくて草》

《分かるw》

《ホシ君を前にしたらね笑》

《ワイ君の威厳なくなってて草》

《なんかワイ君に同情してきた》


 そうして悩んでいる時、


「ワフッ!」

「お」


 わたあめが前に出る。

 俺は屈んで背中を撫でながら声を掛ける。


「わたあめ。戦いたいのか?」

「ワフッ!」


《え!?》

《ダメダメダメ!》

《無理だって!》

《あれはホシ君が規格外なだけだから!》

《下がって!》

《お願い止めて!!》


「よーし。がんばれ~わたあめ」

「ワフッ!」


《は!?》

《おい!》

《止めろよ!》

《それはあかん!》


「大丈夫ですよ。なっ」

「ワフッ!」


 わたあめがカメラに向かって力強くうなずく。

 視聴者に自分の姿を見てもらいたいのかな。

 可愛い奴だ。


 わたあめは手足にぐっと力を込める。


「クォ~~~~~~~ン!!」


 そして、遠吠えを上げながら巨大化した──。

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