第10話 彼は無自覚な爆弾

<三人称視点>


 大きな施設、その中の会議室にて。

 設置された大画面モニターには、とある映像が流れている。


『に、二度とくるかーーー!!』


 流れているのは、この日の前日に行われていた『猿山チャンネル』の配信。

 映像を見終えた者たちは、ぞぞぞっと背筋を凍らせていた。


「何度見ても恐ろしいですね……」

「見る人が見れば恐怖映像ですよ……」

「リアタイしてたのにまだ怖いです……」


 彼らはホシと同じ街の『ギルド』の職員たち。

 ギルドとはダンジョンを管理する施設のことで、ここに勤める職員は公務員だ。


 普段はダンジョンや探索者の管理をしている職員たち。

 しかしこの日は、最近世間をにぎわせている彦根ホシという人物について、緊急会議を開いていた。


 魔物やダンジョンに精通する彼らは、ホシの自宅が“いかに異常か”がよく分かる。


「局長……こんなの一体どうしろと言うんですか」


 男性職員が口を開く。


 局長はこのギルドでは一番のお偉いさん。

 部下の面倒見がよく、仕事も出来る三十路みそじの女性だが、この質問には首を傾げた。


「さ、さあ……?」

「さあって」

「私だって本部からどうにかしろって言われただけだもん。……うぅ」


 このギルドは、たまたまホシの自宅ダンジョンと同じ街にあった。

 それだけで、局長は上から「なんとかしろ」と指示を受けたのである。

 なんなら局長が一番の被害者かもしれない。


 口調が「もん」と幼児退行してしまうのも仕方がない。


「それに、めろん……このドラゴンは『魔核』を造り出しているかと」

「……間違いないわね」


 魔核とは「魔素で出来た心臓」のようなもの。

 

 通常の魔物は、魔素がないダンジョン外で生活できない。

 だが魔核を持つ魔物は、魔核から魔素を循環させることで、ダンジョンの外でも生活できるという。


 ホシは知らないが、めろんがダンジョン外で普通に生活できるのは、魔核を持っているからである。

 

「まさか日本にも魔核持ちが存在するとは」

「ますます胃が痛いわ……」


 魔核の存在は世間一般には知られていない。

 最近他国で発見されたばかりであり、混乱を招く可能性がある為、世界のギルド間で共有されているだけなのだ。


「だとしたら、いよいよやばいですよ」

「お願い。それ以上言わないで……」


 魔核を持つ魔物の特徴は──強い。

 魔核を持ったDランク魔物が、通常のAランクに匹敵する程だという。


 その上、めろんはただでさえSランクオーバーの『ドラゴン』。


「「「まじかあ…………」」」


 その強さは想像もしたくない職員たちであった。

 さらに、胃を痛める局長に追い打ちがかかる。


「あの、まさか彦根君のダンジョンに住む魔物が、全て魔核持ちってことはないですよね?」


 若い職員が口走ったからだ。

 それには、局長をいたわるベテラン職員が思わず口を挟んだ。


「それはないだろう。君、魔核がどうやって出来るか資料を読んできたのか?」

「は、はい。えっとたしか……」


 若い職員は資料を読み上げる。


魔素が大きな塊になるほど吸収する・・・・・・・・・・・・・・、ですよね」

「そうだ」


 ベテラン職員がうなずく。


「そんな魔素量、一体どうやって……ん?」

「……あれ?」


 しかし、そこで全職員の頭にあるもの・・・・が浮かぶ。


 魔素の吸収効率がものすごく高く、喉通りも良い超希少アイテム『魔素水』。

 そしてそれが、無限に流れるという伝説の川。

 あの家に流れる「魔素水の川」だ。


「……はあ」


 胃の辺りをさすりながら、ため息をつく局長。

 ベテラン職員は墓穴を掘ったことに焦りながら、なんとか誤魔化そうとする。

 

「ま、まさかそんなわけがないだろう」

「で、ですよね~」

「「「ははははー……」」」


 局長を気遣って、作り笑い気味に笑う職員たち。

 だが、その全員が確信していた。


(((絶対持ってるわ……)))


 ダンジョン外で生活できるという「魔核持ち」の魔物たち。

 しかも、おそらく全てがSランクオーバー。


 それらがもし地上に侵攻すれば、どうなるかは想像にかたくない。

 一日もかからず関東が終わり、一週間もすれば日本が支配されているだろう。


「「「…………」」」


 ギルドはどんよりとした空気に包まれた。

 そんな中、女性職員が元気づけようと口を開く。


「さ、幸い、彦根君は良い人そうですよね!」

「ええ。それだけが救いだわ。ただ」

「ただ?」


 局長は目を細めながら続ける。

 

「あまり世間は知らないようだけど」

「それは、えと……はい」


 力を持ってしまった世間知らず。

 それは善でも悪でもない爆弾みたいなものだ。


 善悪、どちらに転ぶか皆目見当かいもくけんとうもつかない。

 

 局長は胃を抑えながら会議を進めた。


「ではとにかく、初期案に合った計画を実行するとしましょう。……いたたた」

「初期案というと、あれですか?」

「ええ」


 局長は真剣な面持ちで言葉にした。


「調査のため、彼の家の近くに職員を送り込むわ」







<ホシ視点>




 放課後、坂道でチャリを押しながらつぶやく。


「なんだよ~、ナナミのやつ」


 さっき、学校帰りにナナミに連絡をした。

 配信機材をもらった時に「コラボしてみたい」って言ってたし。


 けど、断られた。


『今すぐにコラボしたら、あんたにたかってるみたいだわ。今はそれぞれ自分の活動に注力すべきよ』


 なーんて言われて。


「そういうものなのか~」


 配信者としてはナナミの方が先輩だし、その辺はよく理解しているだろう。

 ここは素直に言う事を聞いておこう。


「じゃあ俺は、何をしようかなあ」


 ぼーっと考えながら、ツブヤイターを開く。

 SNSは見とけってアドバイスを守る俺、偉い。


『1041人があなたをフォローしました』

『969人がいいねしました』

『562人があなたをフォローしました』


「相変わらず変なことになってるし」


 気がつけばフォロワーは30万人。

 ナナミに聞いたら「がはっ」って気絶してたので、意外とすごいのかもしれない。


 だけどそんな中、一つ気になる話題を見つける。


『日向ヒカリ、近日中にSランクダンジョンに挑戦することを表明』


「あれ。この人って」


 配信でいくつかコメントをくれた人だ。

 周りが騒いでいたから覚えてる。


「たしかすごい人のはず……あ、やっぱり」


 史上最年少のSランク探索者。

 チャンネル登録150万人。

 顔も可愛い女子高生探索者。


「すげー」


 少し調べただけで、こんなにも話題が出てくる。

 きっと俺とは関わることのない、すごい人なんだろうなあ。


「がんばってね」


 そっと応援しておいた。


 だけど、この時の俺は知らなかった。

 彼女の挑戦が、俺を配信者として成長させてくれることになるとは──。





───────────────────────

前半部分の軽いまとめ!


『魔核』=魔素で出来た心臓みたいなもの


・この存在はギルド職員しか知らないよ!


・これを持つ魔物はすっごく強いよ!

(Aランク魔物とDランクの魔核持ち魔物が同等)


・これを持つ魔物はダンジョン外で生活できるよ!


その上で、ホシ君ちに住む魔物が全て「Sランク+魔核持ち」というとんでも魔物の可能性があるので、ギルド職員は緊急で対策を考え中。

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