第10話 彼は無自覚な爆弾
<三人称視点>
大きな施設、その中の会議室にて。
設置された大画面モニターには、とある映像が流れている。
『に、二度とくるかーーー!!』
流れているのは、この日の前日に行われていた『猿山チャンネル』の配信。
映像を見終えた者たちは、ぞぞぞっと背筋を凍らせていた。
「何度見ても恐ろしいですね……」
「見る人が見れば恐怖映像ですよ……」
「リアタイしてたのにまだ怖いです……」
彼らはホシと同じ街の『ギルド』の職員たち。
ギルドとはダンジョンを管理する施設のことで、ここに勤める職員は公務員だ。
普段はダンジョンや探索者の管理をしている職員たち。
しかしこの日は、最近世間を
魔物やダンジョンに精通する彼らは、ホシの自宅が“いかに異常か”がよく分かる。
「局長……こんなの一体どうしろと言うんですか」
男性職員が口を開く。
局長はこのギルドでは一番のお偉いさん。
部下の面倒見がよく、仕事も出来る
「さ、さあ……?」
「さあって」
「私だって本部からどうにかしろって言われただけだもん。……うぅ」
このギルドは、たまたまホシの自宅ダンジョンと同じ街にあった。
それだけで、局長は上から「なんとかしろ」と指示を受けたのである。
なんなら局長が一番の被害者かもしれない。
口調が「もん」と幼児退行してしまうのも仕方がない。
「それに、めろん……このドラゴンは『魔核』を造り出しているかと」
「……間違いないわね」
魔核とは「魔素で出来た心臓」のようなもの。
通常の魔物は、魔素がないダンジョン外で生活できない。
だが魔核を持つ魔物は、魔核から魔素を循環させることで、ダンジョンの外でも生活できるという。
ホシは知らないが、めろんがダンジョン外で普通に生活できるのは、魔核を持っているからである。
「まさか日本にも魔核持ちが存在するとは」
「ますます胃が痛いわ……」
魔核の存在は世間一般には知られていない。
最近他国で発見されたばかりであり、混乱を招く可能性がある為、世界のギルド間で共有されているだけなのだ。
「だとしたら、いよいよやばいですよ」
「お願い。それ以上言わないで……」
魔核を持つ魔物の特徴は──強い。
魔核を持ったDランク魔物が、通常のAランクに匹敵する程だという。
その上、めろんはただでさえSランクオーバーの『ドラゴン』。
「「「まじかあ…………」」」
その強さは想像もしたくない職員たちであった。
さらに、胃を痛める局長に追い打ちがかかる。
「あの、まさか彦根君のダンジョンに住む魔物が、全て魔核持ちってことはないですよね?」
若い職員が口走ったからだ。
それには、局長を
「それはないだろう。君、魔核がどうやって出来るか資料を読んできたのか?」
「は、はい。えっとたしか……」
若い職員は資料を読み上げる。
「
「そうだ」
ベテラン職員がうなずく。
「そんな魔素量、一体どうやって……ん?」
「……あれ?」
しかし、そこで全職員の頭に
魔素の吸収効率がものすごく高く、喉通りも良い超希少アイテム『魔素水』。
そしてそれが、無限に流れるという伝説の川。
あの家に流れる「魔素水の川」だ。
「……はあ」
胃の辺りをさすりながら、ため息をつく局長。
ベテラン職員は墓穴を掘ったことに焦りながら、なんとか誤魔化そうとする。
「ま、まさかそんなわけがないだろう」
「で、ですよね~」
「「「ははははー……」」」
局長を気遣って、作り笑い気味に笑う職員たち。
だが、その全員が確信していた。
(((絶対持ってるわ……)))
ダンジョン外で生活できるという「魔核持ち」の魔物たち。
しかも、おそらく全てがSランクオーバー。
それらがもし地上に侵攻すれば、どうなるかは想像に
一日もかからず関東が終わり、一週間もすれば日本が支配されているだろう。
「「「…………」」」
ギルドはどんよりとした空気に包まれた。
そんな中、女性職員が元気づけようと口を開く。
「さ、幸い、彦根君は良い人そうですよね!」
「ええ。それだけが救いだわ。ただ」
「ただ?」
局長は目を細めながら続ける。
「あまり世間は知らないようだけど」
「それは、えと……はい」
力を持ってしまった世間知らず。
それは善でも悪でもない爆弾みたいなものだ。
善悪、どちらに転ぶか
局長は胃を抑えながら会議を進めた。
「ではとにかく、初期案に合った計画を実行するとしましょう。……いたたた」
「初期案というと、あれですか?」
「ええ」
局長は真剣な面持ちで言葉にした。
「調査のため、彼の家の近くに職員を送り込むわ」
★
<ホシ視点>
放課後、坂道でチャリを押しながらつぶやく。
「なんだよ~、ナナミのやつ」
さっき、学校帰りにナナミに連絡をした。
配信機材をもらった時に「コラボしてみたい」って言ってたし。
けど、断られた。
『今すぐにコラボしたら、あんたにたかってるみたいだわ。今はそれぞれ自分の活動に注力すべきよ』
なーんて言われて。
「そういうものなのか~」
配信者としてはナナミの方が先輩だし、その辺はよく理解しているだろう。
ここは素直に言う事を聞いておこう。
「じゃあ俺は、何をしようかなあ」
ぼーっと考えながら、ツブヤイターを開く。
SNSは見とけってアドバイスを守る俺、偉い。
『1041人があなたをフォローしました』
『969人がいいねしました』
『562人があなたをフォローしました』
「相変わらず変なことになってるし」
気がつけばフォロワーは30万人。
ナナミに聞いたら「がはっ」って気絶してたので、意外とすごいのかもしれない。
だけどそんな中、一つ気になる話題を見つける。
『日向ヒカリ、近日中にSランクダンジョンに挑戦することを表明』
「あれ。この人って」
配信でいくつかコメントをくれた人だ。
周りが騒いでいたから覚えてる。
「たしかすごい人のはず……あ、やっぱり」
史上最年少のSランク探索者。
チャンネル登録150万人。
顔も可愛い女子高生探索者。
「すげー」
少し調べただけで、こんなにも話題が出てくる。
きっと俺とは関わることのない、すごい人なんだろうなあ。
「がんばってね」
そっと応援しておいた。
だけど、この時の俺は知らなかった。
彼女の挑戦が、俺を配信者として成長させてくれることになるとは──。
───────────────────────
前半部分の軽いまとめ!
『魔核』=魔素で出来た心臓みたいなもの
・この存在はギルド職員しか知らないよ!
・これを持つ魔物はすっごく強いよ!
(Aランク魔物とDランクの魔核持ち魔物が同等)
・これを持つ魔物はダンジョン外で生活できるよ!
その上で、ホシ君ちに住む魔物が全て「Sランク+魔核持ち」というとんでも魔物の可能性があるので、ギルド職員は緊急で対策を考え中。
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