第24話 地下二階を配信してみた

 「自宅ダンジョン地下二階に行きまーす」


 俺は配信を開始して、改めてそう口にした。

 SNSで告知していた内容だ。


《まじか!》

《きたああああ!!》

《やったあああ!》

《ついに地下二階お披露目!?》

《これは期待大!》

《楽しみにしてた〜!》


「うおっ」


 途端にすごい数のコメントであふれる。

 それに、視聴者数もいきなり10万人。

 みんな楽しみにしてくれていたのかな。


 ……でも、そうだとなおさら心苦しい・・・・


「繰り返しますけど、地下二階は本当に普通の場所なんです」


《またまた〜》

《そんなこと言っちゃって》

《今度は何が出てくる?》

《ワクワク》


「うぐっ」


 そんなコメントの流れにダメージをくらう。

 また・・この流れだ。


 今回、地下二階を配信しようと思ったのはSNSで一番要望が多かったから。

 ダンジョン配信の時と同じだ。


 だけど、今回は何度も「面白いところないですよ」と伝えていた。

 それがまた逆にフリみたいに捉えられて、トレンド入りまでしてしまった。


《とりあえず行こう》

《見たい見たい》


「わ、分かりました……」


 でも視聴者が見たいものを見せるべきだよな。

 そう思って、俺は地下二階の扉を開く。


 そこに広がったのは……なんとも普通な生活スペース。


《あれ?》

《なんだここ》

《本当に普通?》


「だから言ったんです……」


 扉を開けた先には通路、それから左右に別れて並ぶいくつかの部屋。

 部屋を縦に区切る仕切りはあるけど、上は吹き抜けになっている。


「地下二階は生活スペースなんです」


 ここにあるのは「寝室」や「お風呂」、「倉庫」などのスペースなんだ。


《そういえば地上にはリビングしかないよな》

《ここに生活スペースあったんか》


 視聴者の中には気づいた人もいるみたい。


 俺の家は、玄関から入って左手にリビング、そのまま真っ直ぐ進むとすぐ地下への階段となる。

 寝室やお風呂は、こうして地下二階に設置してるんだ。


《なーんだ》

《そういうことかあ》

《ちょっと残念》


「うっ」


 こんな反応も覚悟してたとはいえ、いざ来ると若干悲しい。

 同時接続数もほんの少し下がってしまった。


 それでも配信は続けよう。

 残ってくれた人もたくさんいるし、せっかくならここの紹介をしようかな。


「それにしてもちょっと寒いな」


 こんな時は……あの子だね!


 俺はめろんを呼ぶ時のように、ぴゅ~いと指笛を鳴らした。

 違う子を呼ぶのでちょっと音程は変えてる。


《ん?》

《なんだ?》

《指笛?》


 すると、向こうから小さなペットが飛んでくる。


「ぼぉー!」


《!?》

《ほわっ!?》

《ちょっと待てよ!?》


 見た目は、めろんよりも少し小さな“鳥”。

 ただ、そのもふもふの羽毛を包むように、全身が紅色に燃えている・・・・・

 体は小さいのに、目だけはちょっと強気なところがまた可愛いんだ。


「ぼぉ!」

「よーしよし。こっちにおいで~」


 俺はその子を包むように手に乗せ、みんなに紹介した。


「こちら、鳥のペットの『いちご』です。ほら挨拶しな」

「ぼぉっ!」


 いちごは子どものような高い声と共に、片翼をバッと広げた。


《燃えてる……?》

《この鳥ってまさか》

《絶対そうだよ》


「お」


 いちごの気づいた人もいるみたいだ。

 俺はしめしめと思って告げた。


「皆さん、今回はちゃんと調べてきたんですよ」


 ドラゴンにフェンリル。

 魔物について勉強をすると、過去の俺がどれだけ無知かを知った。

 だから今回は、いちごの正体について調べてきたんだよね。


 俺はカメラ目線で答えた。


「その辺のフェニックスです!」


《やっぱりかー!!》

《ってどの辺だよww》

《どこにでもいると思ってる?w》

《Sランクの超貴重な魔物だよ!!》

《どれだけ貴重かは調べてこなかったのね》

《そ の 辺 の フ ェ ニ ッ ク ス》

《またパワーワードをww》


「あれ」


 調べてきたことを賞賛されるかと思ったのに、なんだか反応が違う。

 俺んちにいるぐらいだから、他所よそのダンジョンにも普通にいると思ったんだけどな。


「まあいいか」


 そうして、俺はいちごに目を向ける。


「いちご、いつもの頼んでいい?」

「ぼぼっ!」


 いちごは元気な返事をすると、パタパタっと上の方に飛んで行く。

 そのままいつもの定位置に付いた。


《何をする気だ?》

《さっき寒いって言ったよな?》

《え、うそでしょ》

《まさか……》


「ぼぅぅぅ……」


 息を大きく吸ったいちご。

 それから、それを思いっ切り吐き出すように『炎の息ファイアブレス』を放出した。


「ぼー!」


 『炎の息ファイアブレス』は俺の目の前の壁に直撃する。


《ぎゃあああああ》

《ホシ君!?》

《やべえって!!》

《燃えてるって!!》

《大丈夫かーーー!》


「ふぅ~あったかい」


《え》

《は!?》

《何言ってんだこいつ!?》


 困惑するコメント欄に俺は説明した。


「うちの暖房代わりです」


《どこがやねんww》

《くっそ燃えてるけどww》

《ホシ君だから無事なだけだろwww》

《流れ変わってきました》


「えー、でも」


 中々共感してくれないみたいだ。

 ならばと、俺はこれに至る経緯も付け加えた。


「うち、両親もいないし、祖父母もいませんので」


《ん?》

《どした?》

《なんかしんみりする話?》


「高校のお金とかは姉さんが工面してくれています。だから、配信を始める前の俺は節約することしかできませんでした」


《そっか》

《ホシ君;;》

《ええ子やなあ》


「だから、暖房にかかる電気代もフェニックスで代用しようと」


《なるほど……って、ならねえよ!w》

《そうはならんやろwww》

《想像ぶっ飛びすぎで草》

《フェニックスを暖房にするなww》

《見に来てよかったわww》

《これがホシ君よww》


「そうですかね」


 これでも共感は得られなかったみたいだ。

 我ながらナイスアイディアだと思ったんだけどな。


《というか、壁とかは大丈夫なのか?》


「ここ、元は洞窟みたいなダンジョンだったんです。だからダンジョン産の壁なんですよ。いちごの『炎の息』もへっちゃらです」 


《え、それって普通のダンジョンと変わらない壁?》


「そうです!」


 普通に受け答えしていたつもりが、コメント欄が急に騒がしくなる。


《え、ダンジョンの壁だよね?》

《普通は壊せないぞ??》

《それが出来たら一気に深層とかまで行けるし》


 コメント欄が混乱している(?)中、質問に答えた。


《ちなみにどうやって今の形にしたんだ?》


「えと、殴ったりして」

 

《ファーwww》

《どんなパワーだよww》

《一応ダンジョン内だし……》

《確かに魔素の力は使えるのか》

《それにしてもだろw》

《ホシ君らしくて草》

《まあ、それなら耐熱性もうなずけるかあ》

《ホシ君の力にはうなずけんけどな》


 何やら議論が広げられているらしい。

 でも、できちゃったものはしょうがない。

 そう思うのは俺だけなのかな。


「ぼぉっ!」

「お。いちご、ありがとうな。暖かくなったよ」


 そこにいちごが戻って来た。

 みんな気になるのか、いちごへの質問が飛び交う。


《いちごちゃんともよく遊ぶの?》


「遊びます! 暑さの我慢大会とかしてますね」


《暑さの我慢大会!?》

《それってどんな……?》


「いちごが自ら炎を発して、どっちが耐えられるかっていう」


《フェニックスと暑さ我慢大会ww》

《こいつは……w》

《ドラゴンと相撲、フェンリルと追いかけっこに続いて……》

《またやべえエピソード出てきたな》

《ホシ君すぎて草》

 

 その中でも、前のことを覚えてくれている視聴者さんも。


《そういえばワイバーンの火球の時、何か言ってなかったか?》

《言ってたかも》

《あの子に比べたらぬるいかも、とか》

《それっていちごのこと?》


「あ、そうです。いちごに比べたらって話です」


《そっかあw》

《それは納得してしまう》

《さすがにフェニックスよりは熱くなかったかあw》


 視聴者数も伸び始め、段々と納得してくれる雰囲気になっていく。


《だからダンジョンに生活スペースあるんだ》

《地上でやったらあえなく全焼だもんなww》

《便利……なのか?》

《※ホシ君以外は耐えられません》


「ほっ」


 全てのコメントは確認できないけど、なんとなく理解してくれたみたい。

 反応も悪くないし、良かった良かった。


 そうして、ちょうど言おうと思っていた事への質問が飛んでくる。


《じゃあ、暑い時どうすんの?》


「あ、それはですね!」


 俺が説明を始めようとした時──


「ちょっとちょっとー! なんか面白そうなことやってんじゃない!」


 やんちゃな声と共に、地下二階の扉を乱暴に開く音が聞こえた。

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