第32話 ホシとペットと仲間と

<ホシ視点>


 天気もいい夏の空。

 学校帰りに街の様子を見に行くと、姉さんの声が響いていた。


「次はこっちよ~」


 ここはショッピングモール『ブドウ』。

 今は閉業しているけど、もうそろそろ再開できそうだ。


「もう少しだね、姉さん」

「あっ、ホシ君!」

「だーくっ付かないで! 暑いから!」


 街に魔物が出現した『魔物災害』から一週間。

 人の被害はなかったものの、建物の被害は多少あったことで、元通りまでは一か月はかかるだろうと言われていた。


 だけど、そんな復興作業はもう終盤しゅうばん

 それもあの子達のおかげかな。


「「「こーん!」」」


 あの子達は『妖狐ようこ』。

 うちの地下三階に住む種族の一つだ。


「みんな偉いじゃないか」

「こん!」


 明るい黄色をした、もふもふの毛並み。

 思わず抱き着きたくなる尻尾。

 細い目と獣耳を持った可愛い子達だ。


「応援を頼んで正解だったわ、ホシ君」

「そうだね」


 地下三階は、一階・二階と比べるとかなり広大なエリアだ。

 うちの敷地内というよりは、一つの独立したダンジョンと言った方が正しい。

 その中で村を形成する種族がいくつかあるぐらいだからね。


 ダンジョンができたのはおじいちゃんの代だし、なんでそうなっているのかは全然分からない。

 だから、生活をするのは一・二階で、三階にはあまり寄り付かないようにしているんだ。


 おじいちゃん曰く『魔境』らしいし。


「この子達は安全なんだけどね」


 その中でも、妖狐達は友好的な種族。

 入口から近くに村があって、数も多いから今回は思い切って頼んでみた。

 おかげで、こうして人に代わって復興作業をしてもらっている。


「こん!」

「ここん!」

「こーん!」


 会話をしながら、せっせと物を運ぶ妖狐達。

 あれも機械を使わないと運べないだろう。

 そんなみんなの協力もあって、復興作業は何倍も早く進んだんだ。

 

「ホシ君。妖狐の親玉には何を渡すか考えたの?」

「……いや?」


 だけど、手伝ってもらっているのは条件付き。

 ショッピングモールを一刻も早く復興させたいがために、妖狐の親玉に「何か献上しますから!」と無理を言って人員(魔物員)を借りてきたんだ。


「大丈夫なの?」

「まーなんとかなるでしょ」

「そうね。いざとなったらお姉さんが力づくで──」

「それはやめて」


 うちと地下三階エリアの間には、おじいちゃんが決めたルールがある。

 たしか「三階を提供してあげているから厄介事は起こすな」的な。


 そのおかげで、どの種族も勝手にダンジョンからは出ないようになっている。


「何か地上のお土産でも持って行けば喜ぶよ」

「うん。ホシ君が言うなら間違いない!」


 ちなみに、このショッピングモールに魔物があふれだしたのは、ダンジョンの入口が地中にできていたからだった。

 責野さん曰く「そんなこと今までになかった」らしいけど。

 姉さんがたまたま居てくれて助かったな。


「ん」


 そんなところに通話がかかってくる。

 相手は……お、ブルーハワイだ。


『あ、ホシ? 東の工場も終わったわよ』

「おおー」


 ショッピングモールは姉さん、東の工場はブルーハワイに先導を切ってもらって修理していたんだ。


 また魔物が出る恐れもあったからね。

 めろんやわたあめ、いちごはあっちにいる。


『じゃ、あたしは帰るわ! もう暑すぎて無理!』

「うん、お疲れ様。ありがとうね」


 そうして、早々に通話を終えてほっと一息つく。


「これで本当に終わったんだな」


 突如として訪れた異変。

 人の被害はなく、建物の復興ももう終わる。

 この大好きな街を本当に守れて良かった。


「あの、彦根ホシ君?」

「あ!」


 そんな時、後ろから声を掛けられる。

 振り返るまでもなく相手は分かった。

 

「責野さん!」

「こんにちは。もうすぐ作業も終わるって聞いて」

「そうみたいですね」


 嬉しそうに両手を合わせながら、責野さんは妖狐達に目を向ける。


「あぁ、もふい……」

「責野さん?」

「はっ! これは失礼を!」


 なんだか目がハートになっていた気もするけど、すぐに正気を取り戻した。

 そしてそのまま、かばんから何かを持ち出す。


「これ、ほんの気持ちだけど」

「え、いいんですか!」


 出されたのは高級そうなお菓子。

 俺はウキウキでもらおうとする……けど、途中で姉さんの手がそれをさえぎった。


「責野さんでしたっけ~?」

「は、はい」

「これは一体どういうおつもりで?」


 わざとらしく姉さんが邪魔をしたんだ。

 まったく、姉さんは変わらないんだから。


「……もう会えないからです」

「え?」


 だけど、責野さんはいつもみたいに姉さんにきょどったりはせず、少し視線を下げて言葉にした。


最後・・に君に会えて良かったです。彦根ホシ君」

「え? それってどういう……?」

「改めてありがとうね」

「あ」


 責野さんは多少強引に俺にお菓子を預けて一礼。

 そのまま背を向けて、他の作業員さんのところに行ってしまった。


「どういうことだろう」


 あの巨大な魔物を倒した後は、これでもかってほどに感謝をされた。

 周りのみんなにもだけど、責野さんには特にお礼をされたんだ。


 だから今更どうこうってことはないけど、その後ろ姿は何だか寂しく見えた。


「ふーん……」


 そんな責野さんを、姉さんも目を細めたままじっと見つめていた。

 姉さんは何かを察したみたいだけど。


「それよりホシ君、今日の進捗を作業員さんに伝えに行きましょ」

「う、うん」


 そうして、街の復興作業を続けたのだった。


 





<三人称視点>


 数日後。


 ここはギルド本部、本部長室。

 首都が見渡せる高層ビル上層に部屋を構え、全国のギルドへ指示を送っている場所だ。


「失礼します」


 そこに入ってくるのは、とある地方ギルドの局長を任されている女性。

 責野任子だ。


「来たかね、責野局長」


 本部長は座ったままの椅子を責野の方へ向ける。


 彼女がここに呼ばれた理由は一つ。

 今回の一件、『魔物災害』に関する対応の処遇についてだ。


「では早速だが、責野局長の処遇を告げる」

「はい」


 今回の責野の判断材料は二つ。

 

 魔物が出現するという未曽有みぞうの事態にもかかわらず、死者を出さずに被害を抑えたこと。

 独断でギルドの配信環境を使い、機密であるはずの魔核の存在を全世界に知らせてしまったこと。


 前者は良い点、後者は悪い点だ。

 だが、わざわざ本部に呼ばれたことに不安を感じる責野。

 ホシに「最後」と言ったのも、あの時すでに呼び出しをくらっていたからだ。

 

「責野局長。あなたは──」

「……」


 責野は目をつむってその言葉を待った。


「本日より『彦根ホシ管理部長』とする」

「え?」


 しかし、それは聞いたこともない役職。


「ほ、本部長!? それはどういう……?」

「うむ」


 本部長は椅子を再び窓側を向け、背中超しに責野に話す。


「今回の責野局長の判断は、魔核の存在を世に知らしめることとなってしまった」

「……はい」

「ギルドとしては隠しておく方針だったはずなのに、だ」

「それは……そうです」


 今回の悪かった点を挙げられ、責野は申し訳ない顔を浮かべる。


「だが、あの件はメディアも連日取り上げていた。責野局長が配信するにしろしないにしろ、バレるのは時間の問題だっただろう」

「!」

「つまり、君の行動は問題なかった。むしろ──」

「むしろ?」

「地上での魔物への対抗手段を見せた“希望”となっただろう」

「……!」


 責野はハッと顔を上げる。


「果たしてあの一家のような存在が今後出るかは別問題として、だが」

「ふふっ」


 その言葉と共に、ホシの事を思い出してつい笑ってしまう責野。

 見て見ぬふりをしながら、本部長は続ける。


「そこでだ。対抗手段の一つである魔核持ち人間、その第一人者である彦根ホシの様子を逐一ちくいち記録し、今後の参考材料を集めてもらう」

「……!」

「責野局長。どうか今後もギルドの役に立ってくれるだろうか」

「はい! お任せください!」


 クビではなかったことに喜ぶ責野。

 それと同時にワクワクする思いも湧いていた。


(また、あのもふもふが……!)


「ありがとう。では、これからもギルドのために励んでくれたまえ」

「はっ! 失礼しました!」


 そうして、話を終えて本部長室を後にする責野。

 その顔は入って行った時とはまるで違った、生き生きとした笑顔だった。







 さらに数日後、休日。

 夕暮れも過ぎて辺りが暗くなってきた頃。


「こんな感じかな」

「うん! 良い感じだね、ホシ君」


 彦根家の屋上で、椅子や食べ物を並べるホシ達。

 食べ物はエリカの手料理に加え、多めに買ってきたスナック菓子などだ。


「魔物災害があったのに開催してくれるんだね」

「ホシ君が街を守ったおかげだよ」

「そうかなあ。それにしても楽しみ!」


 今から行われる行事にウキウキしているホシ。

 もう待ちきれないといった様子。


「改めて、ここって山奥だし特等席だよね」

「そうだねっ」


 そして、エリカの方もかなり上機嫌のようだ。

 それもそのはず、ペットを除けば、この空間にはホシと自分の二人だけ。


(ホシ君と二人っきり〜)


 ペットは仕方ないとして、ブルーハワイさえも道端みちばたにバカンスチェアを用意させて排除した。

 今のエリカはホシを独占し放題なのだ。


「ねえねえホシ君。今日は二人で……ああん?」


 だが、唐突に外から人の気配を察知したエリカ。

 露骨ろこつに嫌そうな顔を外へ向ける。


 それと同時に、道端でバカンスを楽しむブルーハワイが声を上げた。


「ホシー! なんかお客さん!」

「あ、来たんだ!」


 それをあたかも分かっていたかのようなホシ。

 エリカは困惑の目を向けた。


「え、来たって……ホシ君?」

「みんなが連絡をくれてさ。俺も良いよって返事したんだ」

「そんな……」


 そうして、ブルーハワイに連れられて屋上に来たのは三人の女性。


「あ、ホシ!」


 ホシの幼馴染、天の川ナナミ。


「こ、こんばんは!」


 ホシに助けてもらった配信者、日向ヒカリ。


「つまらないものですが、また隣に滞在することになりましたので……」


 前ギルド局長、今は『彦根ホシ管理局長』の責野任子。

 三人はそれぞれホシに連絡を取り、今日この日、一緒に今からの行事ごとを見ようと約束していたようだ。


「あ? あらあら、皆さんおそろいのようで~」


 そんな三人に、歯ぎしりを必死に抑え、額のあたりをピクピクさせながらも対応するエリカ。


 髪をふわーと不気味に浮かせながら、なんとか笑顔を見せる。

 当然、目は笑っていないが。


「今日はホシ君に良いって言われたから来たんですってね~?」


 エリカはちょっと威圧的に言葉を発する。

 だが、三人は首を縦に振った・・・・・


「はい!」

「そうです!」

「私も良かったんですかね」


 対してエリカ。


「チッ」


(そこは引けよ! せっかくホシ君と二人っきりの時間なのに!)


 そんな怒り気味のエリカに、ホシはそっと声を掛ける。


「まあまあ。みんなで見た方が楽しいからさ。自慢の・・・姉さんの料理も味わってほしいし」

「自慢の……?」

「あ、う、うん。まあ一応、そうなるかな」

「……!」


 その瞬間にエリカの顔がパアっと晴れる。


「では皆さん、今日はご一緒しましょうか! ぜひぜひ、ホシ君が自慢だっていう料理も味わてもらって!」

「「「……」」」


 後から来たお客三人は思った。


(((わかりやすう……)))


 そんな時、ブルーハワイが席を外そうとした。


「じゃ、じゃあ、あたしはまた下で……」

「ブルーハワイも一緒に見ようよ」

「え、いいの?」

「良いも何も、ブルーハワイだって家族だよ」

「……! ホシぃー!」

「うわっ、どうしたんだよ」


 本当は寂しかったブルーハワイ。

 ホシの言葉で、みんなと一緒に見ることが叶う。


「あ、ほら。そんなこと言ってる内に始まるよ」


 そうして、この山奥の彦根家から、みんなが一斉に街方向を眺める。

 ホシが楽しみにしていた行事はタイミング良く始まった。


 ひゅ~、ぼんっ。


 夜空に一つの玉が波線を描いて昇っていき、高くで音を立てて花を咲かせる。

 今日はこの街の花火大会の日だったのだ。


「めっちゃ綺麗!」

「ホシも相変わらず子どもねえ」

「えーそんなことないよ!」

「ふふふっ」


 ホシとナナミが話す隣で、笑うヒカリ。


「はぁ……もふもふ」

「キュイ」

「ワフ」

「ぼぉ」


 花火はそっちのけで、もふもふとたわむれる責野。


「ごめんなさい、悪かったわね」

「まあいいけど。エリカ姉さんのことだし」


 お互い和解するエリカとブルーハワイ。


「「「こーん」」」


 特別に外出許可をホシにもらった妖狐達。


 それぞれが思い思いの時間を過ごしながら、綺麗な夜空を眺めるのであった。


(この景色を守れたのもみんなのおかげだな)


 花火大会が進む中で、ふとそう思ったホシ。

 いくらホシとは言え、たった一人で全てを解決することはできなかった。


 ここにいる仲間たちが力を合わせたからこそ、被害者もなく、この大好きな街を守ることが出来たのだ。

 それをこの光景を眺めながら改めて思う。


「みんな、ありがとう」


 そんなホシの言葉は、鳴り響く花火の音と共に夜空に消えていくのであった。

 ──みんな聞こえてたけどね。





 第一部 完


 



───────────────────────

あとがき


これにて『第一部 ホシとペットと仲間と』は完結です。

お付き合いくださり、本当にありがとうございます!!


ただ、ここで作品の完結ではなく、第二部以降も更新していけたらと思います。

引き続きよろしくお願いします!


少し第二部に触れますと、この話で出てきた地下三階についてや、これまでの濃い(?)キャラ達との群像劇もまた展開できたらと思っています!

出番が少なかった子達もいますからね!


作者が思った以上にコンテンツとして発展した、「責野さん胃痛問題」も出たりする……かなあ笑。


それと、地下三階の子達は『ドワーフ』や他種族を望んだ声も頂いていたのですが、可愛さともふもふが欲しいなと思って『妖狐』としました。

ドワーフもいるかもしれませんね……?


そして、ここで一度節目ということで、皆様にお願いがございます。


ここまで読んで


「面白かった!」

「続きが読みたい!」

「ホシ君たちをもっと見たい!」


などなど思ってもらえましたら、ぜひとも★★★という形で応援してくださると嬉しいです!

今後のモチベーションにも直接繋がります!!


かなり欲を言えば、「良かった」とか「面白かった」とか一言でも良いので、コメント付きおすすめレビューが欲しい!笑

もし心に何か残っていただいたなら、ぜひお願いします!

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