第31話 街のヒーロー

 「もう許さないぞ!」


 壊れた懐中時計を大事にしまい、怒りの目を向けるホシ。

 彼の魔核が存在するであろう胸には、三つの光が灯った。


「なんだか力が湧いて来たし!」

「ヴオオオオオオ!!」


 体が再形成され、巨大な体でホシを視界に入れる【魔素溜まり】。

 真っ直ぐにそれを見つめ返すホシ。


 両者の戦いはさらにヒートアップする。




 その様子を、ドローンでギルドから見守る責野。

 彼女は確信を持って言葉にする。


「彦根ホシ! 彼は魔核三つ持ちだわ!」


 その言葉と共に、責野はぐっと拳を握った。




 そうして、再びホシの戦場。

 

「これで終わりだよ!」


 負傷した右腕(突き指)とは反対の腕。

 左腕に力を込めるホシ。

 その動きにより、胸に灯る三つの魔核から青く光る魔素が自然と供給され、体中の魔素が左腕に集約されていく。


「ヴゥゥゥゥゥ……」


 対して、【魔素溜まり】も残った左腕に力を溜めているのが分かる。


「うおおおおおお!」

「ヴオオオォォォ!」


《どっちも力を溜めてる!》

《地面が震えてないか!?》

《すごいことになってる!!》

《これで決めるつもり!?》

《やっぱり真っ向からなのか!》

《ホシ君いけええ!!》


 たんで魔核を増やした【魔素溜まり】、三つの魔核の力を解放したホシ。

 両者の対決は次で決まる。

 誰もがそう確信した。


「ヴオオオオォォォ……!!」

「おりゃあああああああ!!」


 轟音ごうおんを立てながら、両者の腕が空中で交わる。


「ぐううぅぅ!」

「ヴオオォォ!」


 両者の腕は拮抗。

 衝撃はさっきのものとは比べものにならない。


 ──だが。


「うちのペット達の方が手応えあるかな」

「ヴオオッ!?」


 ニヤリとした顔を浮かべたホシ。

 今の【魔素溜まり】のパンチはペット達より重いだろう。

 それでも、ホシがペット達と培ってきた拳がそれを上回る。


「うおおおおおお!」


 段々とホシが押し始め、巨腕をドリルのように貫いていく。

 その勢いは止まることを知らない。


《いける!》

《押してる!!》

《いけえええええ!!》

《勝てええええ!》

《ホシくーーーん!!!》

《貫けえええええ!!》


「おりゃあああああああ!!」

「ヴ、オ、オォァ……!」


 そしてそのまま、【魔素溜まり】の二つの魔核を貫通するよう、巨大な体の中央に大きな穴を開けた。


「ヴ、オ、オォ……」


 魔核を破壊され、その身に宿す魔素を循環できなくなった【魔素溜まり】。

 原型を保つことができないように、根本から崩れ落ちていく。


「すたっ」


 その後ろで、自ら音を発しながら着地するホシ。


 ホシの勝利。

 誰がどう見てもそう言える瞬間だった。


《うおおおおおお!》

《どりゃあああああ!》

《勝ったああああ!!》

《まじか!!》

《ホシ君!!》

《正義のヒーローすぎる!!》

《街の救世主だ!!》


 一気にコメントで溢れかえるコメント欄。

 数字が伸び続けた結果、今では500万人がホシの戦いを見届けていた。


「はー疲れたっ!」


 【魔素溜まり】が崩壊していくのを見ながら、ホシはその場に座り込んだ。

 滅多に見せない姿だが、さすがに体力を消耗したようだ。


「ヴオオオ……」

「ん?」


 しかし、そんな中で最後のうめき声を上げる【魔素溜まり】。


「ヴオオッ!」

「……!」


 そうして、街の方へ魔素を飛び散らせるかのように破裂した。


「それはまずい!」


 魔素は力の根源であると同時に、魔物のもとでもある。

 密集すれば何が起こるか分からないのだ。


「……! いや、後は任せた」


 だが、何かを確認してそのまま大の字になるホシ。

 その陰から出てくるのは三匹のペット達だ。


「ギャオッ!」

「ウォフッ!」

「ボォッ!」


 ドラゴンのめろん。

 フェンリルのわたあめ。

 フェニックスのいちご。


 言わずもがな、ホシが飼っている最強種のペット達だ。


《ペット達!》

《もふもふ登場!》

《巨大化してるー!》

《かっけえ!》

《そういやこいつらもいたんだよな……》

《戦力万全じゃん》

 

 三匹はそれぞれ連携を取り、街の二次災害を抑える。


「ギャオォ!」


 めろんは建物が崩れるのを防ぎ、


「ウォフッ!」


 わたあめはその神速の足で逃げ遅れている人を救った。


「ボオォー!」


 また、いちごは上空から『浄化の炎』によって、【魔素溜まり】の残骸を全て浄化した。


「助かったあ~」


 そうして、ごろんとホシはまた横になるのであった。







 ギルド内、会議室。


「……はぁ」


 ホシが【魔素溜まり】を倒し、ペット達が後始末をする一部始終を見届けた責野。

 ようやくその腰を椅子にかけ、ほっと胸をなでおろす。


「なんとかなったわね」

「局長!」


 だが、そんなところに慌てて入ってくる職員。

 

「今回の被害報告を申し上げます!」

「……! ええ」

「今回の被害は──」


 固唾かたずを飲んで報告を待つ責野。

 不測の事態とは言え、この街のギルド職員という公務員である以上、多少なりとも責野にも責任は発生してしまう。


 そうして、職員が口にしたのは。


「怪我人は複数名いるものの、死亡者数は0人です!」

「!」

「加えて、日向ヒカリも無事に帰還いたしました!」

「……!」


 再びガタっと椅子から立ち上がる責野。

 それと共に、ギルド内が大きくいた。


「うおおおお!」

「本当か!」

「これは奇跡だぞ!」


 疲れも吹っ飛び、一斉に称え合う職員たち。


「本当に奇跡みたいだわ」


 責野も当然笑顔を浮かべていた。

 未曾有みぞうの事態にしては、まさに奇跡だったのだ。


「責野局長! 本当にあなたの功績です!」

「そんなことはないわ」


 部下たちからも称えられるが、彼女の中にはやはりとある家が浮かぶ。


(あなたのおかげよ、街のヒーロー彦根ホシ君。そしてペット、仲間たちも)


 そう思いながら、ふと窓の外を眺める。

 その顔はようやく安心しきった顔だった。







 一方、再びホシが戦っていた場所。


「うそ……でしょ?」


 ギルドからのドローン中継は引き上げられ、ホシもかなり体力を回復した。

 だがそんな中で聞いた悲報。


「ホシ君、残念ながら本当なの」


 そう告げるのは、ほんのさっき駆けつけたエリカ。

 ホシはエリカの言葉に絶望していたのだ。


「ショッピングモール『ブドウ』はしばらく再開できないでしょうね」

「そんなあー!」


 大好きなショッピングモールの状況を聞いてしまったからだ。


「ああ、可哀そうなホシ君……」


 エリカが解決したショッピングモール『ブドウ』の件。

 彼女によって魔物は全て駆逐くちくし、建物も崩れる前に支えられた。

 だがそれでも、一階から魔物があふれたとなれば、被害は多少なりともあり、すぐに再開は難しいだろう。


 ホシは今日もウキウキでゲームセンターに行くはずが、それができなくなってしまったのだ。


「ホシ君。こうなってしまったら……」

「言いたい事はわかるよ、姉さん」


 しかし、なんとなく乗り気ではないのが気になるが、二人には何やら思い浮かんでいる案がある様子。

 ホシは四つんいのまま、少し顔を見上げてつぶやいた。


「地下三階の子達に呼び掛けてみるかあ」

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