幼馴染の配信を手伝っていたFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~どうやら今まで住んでいた自宅は、最強種たちが生息する規格外ダンジョンだったみたいです~

むらくも航

第一部 ホシとペットと仲間と

第1話 ダンジョン配信の助っ人

 「へえ、それでダンジョン配信をするんだ」


 洞窟のような暗い場所の中、俺は浮遊する物体を見ながらつぶやく。


「そうよ! 浮遊型カメラって言うの!」


 答えてくれたのは、隣にいる幼馴染の『あまがわナナミ』。


 肩に付かないぐらいの茶色のボブヘアに、くりんとした大きな瞳が特徴的な、元気な奴だ。

 ちょっと口は悪いけど、その分なんでも言い合える仲でもある。 


「ていうかあんた、探索者なのに知らないの」

「その辺にはうとくて」

「今時、誰でも知ってるわよ」


 昔、突如として世界中に出現したダンジョン。

 今ではそれも日常と化して、ダンジョンに潜る者を『探索者』と呼ぶ。


 そこまでは常識だけど、最近では探索の様子を配信する『ダンジョン配信者』まで現れて、新たな娯楽として話題だそう。


 ナナミもそんなダンジョン配信者の一人。

 チャンネル登録者も多く、それなりに人気者らしい。


「はあ、人選間違えたかなあ」

「失礼だなあ」


 俺──『彦根ひこねホシ』は、ナナミとは違う高校に通っている。

 最近は軽い連絡をするだけになっていたけど、三日ほど前に急にお誘いが来た。

 暇だったし返事をしたら、こうしてダンジョン配信の助っ人として呼ばれたってわけだ。


 ナナミも言っていた通り、一応探索者の資格は持っているしな。


「じゃ、そろそろいい? 配信始めるわよ」

「急すぎでしょ」

「もう時間だもん」


 そうしてナナミは、カメラを操作しながら配信を開始した。


「皆こんばんは~! 天の川ナナミだよ!」

「!?」


 突然声色を高くして、ハイテンションで話し始めたナナミ。

 俺は驚きながら困惑の目を向ける。


《こんナナー》

《こんナナ!》

《こんナナ~!》

《待ってたよ!》

《全裸待機してた》

《やあ》

《日々の癒し》


 だけど、カメラからホログラムのように映し出された『コメント』には一切ツッコミはない。

 配信時はむしろこっちがスタンダードなのかもしれない。

 

「今日は告知通り、助っ人を呼んだよ! どうぞ!」

「……! ど、どうも~、彦根ホシです」


 急にこちらに振られて、なんとなくお辞儀をしながら画角に入っていく。


《ホシ君か~》

《リアル幼馴染っていう》

《助っ人君ね》

《よろしく~》

《ちょっとかわいい》

《緊張してる?w》

《テンション低めなのかな?》


 おお、さっそく俺に対してもコメントが。

 でもこの場合、俺がテンション低いんじゃなくて、むしろナナミが……


「なによ?」

「いや、急に声が高くなったなって……」

「配信だもん! テンション上げてやるに決まってるでしょー!」


《おいおいww》

《いきなりぶっこんでて草》

《ホシ君天然か?w》

《これは幼馴染》

《仲良いな》

《面白くなってきた》

《コラボ不安だったけどいいぞ》


 言っちゃいけない事だったようだ。


「コホン。では気を取り直して」


 ナナミはばっと後ろに手を広げた。


「今日潜るのは、なんと最近できたばかりのダンジョンです!」

「え、そうなの?」

「そうだよ。二週間前に出来たばっかりなんだって。一般開放も昨日されたところ」

「聞いてないよ」


《ホシ君にもにも伝えてないの草》

《素も配信と同じじゃねえーか》

《勢いだけで生きてる》

《リアルでも変わらないのか》


 こんなところは配信でも変わらないらしい。


「で、このダンジョンランクはいくつなの?」


 ダンジョンには難易度によって『ランク』が設定されている。

 F~Sの七段階あり、上に行くほど難しくなる。

 ランクは一般開放前に専門機関によって決められるそうだ。


 俺の質問に、ナナミはニヤリとした顔で答えた。

 

「聞いて驚きなさい! ここはSランクよ!」

「え?」


《は?》

《え》

《あーあ》

《おいおい》

《大丈夫かよ》

《こーれ終わりです》


「でも安心して! 上層ならFランク魔物しか出ないから!」

「そうなのか」


《まあね》

《それはそうだな》

《Sランクとはいっても一番上はたかが知れてる》

《深く進まなければ大丈夫》


 一瞬びっくりしたが、コメント欄もナナミと同じ意見みたいだ。

 それならちょっと安心。

 むしろさっきのコメントが冗談っぽかったのも、それを分かっていて言ったのか。


 でも、やはり疑問は残る。

 

「なんでわざわざこんなところに?」

「もー! 話題作りのために決まってんじゃん! 行き慣れたとこよりは新鮮味があって良いでしょ!」

「なるほどねえ。ダンジョン配信者も世知辛いねえ」

「それを言わなーい!」


《草》

《ぜーんぶ説明させるやん笑》

《おもしれえ》

《ホシ君、やっぱ天然よなあw》

《無知なだけかもw》


「ま、まあ? こんなところに助っ人なんていらないんだけどね!」

「え? じゃあ帰っていい?」

「ダメダメダメ!」


《ナナミン暗いとこ苦手だからなあ》

《だから助っ人連れて来たのか》

《普段は草原のダンジョンとかばっか行ってるし》


 コメント欄で思い出す。


 そっか、ナナミは暗い所が苦手だったな。

 それでもこのダンジョンには話題作りの為に行きたくて、俺を誘ったと。

 ナナミなりに頑張ってるじゃないか。


 そんな中、あるコメントが目に付く。


《ホシさんは探索者ランクいくつなんですか?》


 探索者のランクもダンジョンの付け方と似たようなものだ。

 俺は包み隠さずに答える。


「俺はFランクですよ」


《え?》

《まじ?》

《初心者中の初心者じゃん》

《大丈夫か?》

《Fランクって車の免許ぐらい取るの簡単だろ》

《俺と同じで草》

《ナナミンより下じゃん》


「まあ、ダンジョンは一つ・・しか潜ったことないので」


《おいおい》

《大丈夫かよ》

《不安になってきた》

《護衛にすらなってない》


 不安が広がるコメント欄。

 正直に答えない方が良かったかな。

 でも、嘘をつくのも……うーん。


 そんな場を収めてくれたのはナナミ。


「はい! みんな安心して! わたしがいるから!」


《さらに不安》

《安心要素ゼロ》

《あかんわ》


「こら! わたしをなんだと思ってる!」


《ごめんごめん》

《冗談だよ》

《ひーん》

《怒られちゃった》


「まったく~」


 おお、これはナナミがコメントが自分に向くよう仕向けたのか。

 もしかして、かばってくれたのかな。

 場慣れしてるなあ。


「とにかく! 進んで行きますね~!」


 そんなこんなで配信を開始した俺たちは、ダンジョン内を進んで行った。





 そうして、探索を進めることしばらく。


「はあッ!」

「おお~」


 出てくる魔物はナナミが倒し、俺が後ろから拍手するという流れが続いていた。

 コメント欄も言っていた通り、上層は弱い魔物しか出てこないらしい。


《おお~、でわろた》

《拍手係》

《盛り上げ係》

《ホシも戦えw》

《いやFランクは無理せんでいい笑》

《ナナミちゃんが活躍してるからこれでいいよ》


 コメント欄はずっとこんな感じ。

 俺は別に目立たなくても良いし、ナナミが活躍してファンが喜んでいるならそれがベストだろう。


「さーて、次はこっちに行くわよ!」


 だけどそんな時、ナナミは事前に決めていたルートから外れようとする。

 俺は一応声をかける。


「ちょっと待って、そっちは違う道だよ」

「配信者の勘がこっちだって言ってるの!」

「うーん。そっかあ」


 まあ、これはナナミの配信だし良い……のかな?


 ──しかし、この判断がいけなかった。


 そこから少し進んだ先。


「この辺はさらに暗く──ひゃあっ!」

「!?」


 何かを踏んでしまったのか、俺たちの周りが淡くぼうんと光る。


《まずい!》

《トラップじゃないか!?》

《光ってる!》

《転移型か!?》

《逃げて!》


「なによこれ!?」

「ナナミ!」


 だが、逃げようにもナナミの足が床から離れないみたいだ。

 足を付けたら最後ってことなのか!?


「「……!」」


 そして俺たちは明るさを増していく光に包まれ、どこかへ飛んだ。

 




「ん?」


 周りの光が消えていき、ようやくまぶたを開く。

 それと同時に、隣から息を呑むような声が聞こえた。


「う、うそ……!」


 両手で顔を抑え、全身を震わせているナナミ。

 その視線の先には、


「──ギャオオオオオオオ!!」


 緑色の翼をバサバサとさせながら、大きな翼竜がこちらをにらみつけていた。


《ワイバーン!?》

《さっきのトラップで転移したのか!?》

《やばいって!!》

《ワイバーンって最近Sランクパーティーを撤退させたよな?》

《どうすんだよこれ……》

《逃げて!!》


「──ギャオオオオ!!」

「!!」


 二度目の大きな咆哮。

 それと同時に、ワイバーンが振り回した尻尾がナナミを襲う。

 俺はナナミを突き飛ばし、代わりに尻尾に叩きつけられた──。

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