第20話 あ い さ つ
「こんにちは~。私、エリカっていいます♡」
恐る恐る玄関を開けたギルド局長の責野。
そこに立っていたのは──不気味なほどにニッコリとした笑顔のエリカだった。
「あ、あぁ……」
その姿を前に、責野は絶望の声を
そして直観した。
(私、終わった?)
責野がそう思うのも当然。
今回、ギルドが彦根ホシの対策を考えるために実行されたこの「お隣さん作戦」。
ただし、事前から障壁はいくつか挙げられていた。
その中でも
作戦内では『E』の名で呼ばれるエリカだ。
彦根ホシと接触するにあたって、最も警戒すべき人物としてエリカの名が挙がっているのだ。
(落ち着け、落ち着け私……!)
責野はポケットに入れたお守り代わりの胃薬を握りながら、なんとか切り替える。
「あの、エリカさん。今日はどういったご用件で……?」
「そうですね~。まずはこれを」
「?」
エリカが手渡したのは料理が乗せられた大皿。
表面にはサランラップが巻いてあり、まだ温かい。
「こ、これは? チャーハン……?」
「はい。つまらないものですが、私の手料理です」
「いえ、そんな……あ、良い匂い」
大皿には光るような黄色のチャーハン。
また、サランラップからは一瞬で食欲をそそるような良い匂いが漏れていた。
「でも、こんなに多く?」
「あらあら。だって……」
「……!?」
一瞬、目の光が失せたエリカ。
それは部屋の奥を覗いているかのようだった。
「お仲間が
「え、あ、それは……」
「そう隠さらなくても。それより少し味わってみてください」
だが、ギルド局長という立派な職を持つ責野。
(いや、怪しい!)
ここで危険メーターを最大まで引き上げる。
何か入っているのではないか、と疑ったのだ。
だけど、エリカはそれを見て付け加える。
「特に怪しいものは入ってませんよ」
「!」
「さあ、どうぞ」
「では……」
(考えすぎだったかな)
責野は自分の非を認め、エリカの料理を一口ぱくり。
「……!」
「ふふっ。どうですか?」
責野は感動のあまり口元を手で抑えた。
「お、おいしい……」
「良かったあ」
口にしたチャーハンは食べたこともないほどに美味しかったのだ。
だが、責野はそれが逆に怖い。
(本当にただくれただけ? もしかして良い人なのかな……)
今の美味しさから素直になって考えてみる。
──だが、エリカがそれだけのはずはなく。
「ちなみになんですけど~」
「は、はい」
「その食材、何を使ってるか分かります?」
「あ、えっと……って、ええっ!?」
責野は改めて目を
『プラチナシュリンプ』、『深層ネギ』、『金毛豚』など……。
どれもAランクを下らないダンジョン産の高級食材たちだった。
責野は口をあわあわさせながら、ガバッと腰を90度に曲げる。
「こんな高級食材を! すみません、返します!」
「いえいえ、皆さんで召し上がってください」
「そんな! だってこれいくらすると思って!」
「タダですよ」
「え?」
その言葉に、責野は耳を疑いながら顔を上げた。
エリカは両手を合わせて笑顔を浮かばせる。
ただ、目は笑っていない。
「自分で取ってくればタダですよ」
「……あ、あぁ」
そこまで言われて、責野はエリカが伝えたい事を理解する。
「ふふ」
エリカは不敵に笑いながら続けた。
「
「で、でも……?」
「あんまりホシ君に女を近づけると、
ふわ~っと浮き上がっていくエリカの黄緑色のロングの髪。
「あ、あぁ……」
これは
責野がもらったチャーハンの食材は高級であると同時に、A〜Sランクの魔物からしか取れない。
だがエリカは、それをいとも簡単に取ってきて手料理してみせた。
こうなりたくなければ下手なことをするな。
責野はそのメッセージを胸に刻む。
「それでは」
そうして、ふっと髪が下りたエリカは玄関から出て行く。
「失礼いたします。これからお願いしますね」
「……あ、あぅ」
エリカの影がなくなった後、責野はその場で膝から崩れる(チャーハンはセーフ)。
「もう心折れそう……」
そう言いながら、彼女の口には一
ちなみに、チャーハンは他の職員の皆さんで美味しくいただきました。
★
<ホシ視点>
「どうしよっかなあ」
俺はリビングで寝っ転がりながら考えていた。
次の配信は何をするかについてだ。
「うーん」
一応いくつか候補はある。
地下二階以降の配信、またダンジョン配信……やっぱそんなに無かった。
「配信者ってすごい──って、ん?」
そう思ったところに、スマホに通知が届く。
届いたのはナナミからのメッセージだった。
「あ~はいはい」
俺は頷きながらスマホを操作しようとする。
「返信してっと──」
「ホシく~ん」
「……!」
そんなところに玄関から姉さんの声が。
しかも、ダダダダと走ってくる音が聞こえる。
「ホシ君!」
「……なに?」
「お隣さんに
「あーそう」
なんとなく後ろにスマホを隠しながら答えた。
「ホシ君。今何か隠した?」
「え、別に」
「ふーーーーーーーーん」
「なんだよ」
「お姉さんも別にー?」
姉さんは口を尖らせて横目で見てくる。
しっしっとやったら、どっか行ったけど。
「面倒だから隠しておいて正解だよな」
俺はチラっと隠したスマホに目を向ける。
映っているのはナナミからのメッセージ。
『私とコラボしませんか!』
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