第5話 伝説の始まり

 配信を始めたはいいものの、俺は完全なノープランだったことに気づく。

 そうして、あわあわしそうになったところ……


「キュイ~!」


 家の中から、可愛い声と共に何かが飛んできた。


「お! めろん!」

「キュイー!」


 飛んできたのは『めろん』。

 うちで飼っているペットの一匹だ。


「キュイキュイ~!」


 明るい緑の毛並みでおおわれた、もふもふの全身。

 両手で包み込めるぐらいのサイズ。

 後ろからぴょこんと生える小っちゃな羽根。


 俺が幼い頃からいるトカゲ・・・のペットだ。

 なんか空を飛んでるけど。


 名前の由来は、果物のメロンからきている。


「どうしたんだーめろん。何をしてるか気になったのか?」

「キュイッ!」

「お~可愛いやつだ」


 めろんを胸元に抱きかかえ、頭をでる。

 この感触が気持ちいいんだ。

 

《なんだ!?》

《かわいい!》

《ペット!?》

《トカゲかな?》

《かわえええ》

《キュイ~って鳴いてた!》

 

 コメント欄もめろんの登場にいた。

 早速人気じゃないか。


《それペットですか?》


 となると、疑問も当然出てくる。

 俺は順に色々と答えていく。


「はい! 可愛いうちのペットです!」


《どう見ても魔物なんですが》


「あー、そうですね……」


 ちょっと迷った末に、その質問にも答えることにした。


「ダンジョンなので。ここ・・


《ええ!?》

《ダンジョン!?》

《自宅が!?》

《そういうことか》

《すっげー!》

《自宅ダンジョンってやつか》


「そうですそうです」


 ダンジョンは自然発生的に出現する。

 いつどこに出現するかは分からない。

 

 そして、家の敷地内に出来てしまったダンジョンを『自宅ダンジョン』と呼ぶ。


 この家はまさにそんな中の一つ。

 ダンジョンが出現する頻度はあまり多くないし、相当珍しい現象みたい。


「俺が探索者資格を取ったのも、ここの家主になるためなんですよ」


 この際だから話しておくか。


「元々はおじいちゃんちだったんですけど、高校入学ぐらいに亡くなっちゃって。ダンジョンを保有する家の家主になるには資格が必要だったんです」


《なるほどなあ》

《ただ資格取っただけって感じなんだ》

《だからFランクなのか》

《一つしか潜ったことないって言ってたし》

《自宅ダンジョンのことだったか》


 質問は続く。


《ご両親は?》


「ご両親もちょっと……まあ、はい」


《これは》

《聞いちゃいけなかったか》

《すみません》


「いやいや、そんなそんな! 気にしなくていいですよ! だって──」

「キュイ?」


 もう一度、そっとめろんの頭を撫でた。


「俺には可愛いペット達がいますからね!」

「キュイ!」


《泣いた》

《たくましい》

《ええ子やん》

《めろん、ホシ君を守ってあげてな》


「キュイッ!」

「なんか俺が守られる側になってません!?」


 めろんはすごく賢い。

 人の言葉を理解しているので、コメントにも適応したのだろう。


 コメントは流れ続ける。


《めろんちゃんが来た方向にダンジョンがあるんですか?》


「そうですね。あ、どうせなら行ってみます?」


《うそ!》

《すっご》

《行きたい!》

《見たい見たい!》

《見せてくれ~!》

《まじか!》


「それじゃ、地下に行きますね〜」


 ダンジョンへの入口は地下にある。

 地上が俺んちで、地下からがダンジョンみたいな感じだな。


「ここですね~」


 地下への階段を少し下り、地下一階の扉の前。

 ここを開けばダンジョンになっている。


《普通の戸やん》

《本当に家の中にあるんだ》

《あれ。ていうか、めろん外に出てきてない?》


「あ、そうなんですよー!!」


 最後のコメントを見て思い出す。


 どうやら普通の魔物は、ダンジョン外に出ることはできないらしい。

 だけど、うちのペット達はそうでもない。

 どういう原理なんだろう。

 

「なんででしょうね……?」


《こっちが聞いたんだよwww》

《首かしげんなw》

《知らないんかい!笑》

《いかにも知ってそうにしやがってw》

《そうなんですよ!!ちゃうわw》

《聞くだけ無駄だった》

《聞く相手間違えてます》


 なんかアホキャラだと思われてないか?

 いや、きっと気のせいだな。

 まさかそんなわけがない。


「ではれっつごー」

「キュ~イッ!」


 俺はガチャリと扉を開ける。


「ここがうちの地下一階でーす」


 視界一面に広がるのは、涼しげな草原エリア。

 なぜか上からは陽の光が注いでいて、頬に当たる風はひんやりと気持ちが良い。

 足元までの草木が生い茂った、心地よい階層だ。


《ほあっ!?》

《なんだこれえええ!》

《やっばwwww》

《すげええええ!》

《ガチダンジョンやん!!》

《これ自宅にあんの??》


 今までで一番速く流れるコメント欄に、俺もちょっと驚く。

 

「え、そんなにすごいんですか」


《すごすぎるわwww》

《どうなってんだこれ》

《地下一階でーす、じゃねえよ!w》

《ダンジョンの中でもレベチじゃね?》

《きもちよさそ〜》


「はい! もう本当に気持ち良いんですよ~。あ、ほら、これとか」


 そう言いながら、俺はその辺に流れる水に口を付ける。

 青色に光る・・・・・水が川のように流れているんだ。


「ぷはー、うまい!」


《なんか色、変じゃない?》

《わかる》

《青く光っているような》

《日向ヒカリ:ねえ、嘘でしょ……》


「え?」


 コメントしてくれた人には名前が付いている。

 その中でも『日向ヒカリ』の名前に、コメント欄が加速する。


《ひなたヒカリ!?》

《おいまじかよ!》

《本物だ!》

《すげえ大物だぞ!》

《こんな人も見に来てんのかよ!!》


「えっとー、ヒカリさん。見に来て下さりありがとうございます。登録者は……150万人!?」


 名前のところをタップして確認すると、超大物だった。


《知らねえのかよ!》

《高校生で唯一のSランク探索者だぞ!》

《今一番アツい》

《めっちゃ強い》

《最強の一角》

《あと可愛い》


 そ、そうなのか。

 どうやら知らない俺が遅れているらしい。

 

《日向ヒカリ:私のことはいいから。とにかく、その水もう少し近くで見せてくれないかしら》


「は、はあ。こうですか?」


 俺は浮遊型カメラを直接持ち、川に近づけた。


《日向ヒカリ:信じられない。本当に『魔素水』が流れてる》


「え、魔素水? なんですかそれは」


 俺はよく分からなかったが、コメントはさらに溢れだす。


《はあ!?》

《魔素水!?》

《ガチで言ってんのか!?》

《うっそだろwww》

《やばすぎww》

《ヒカリちゃんが言うなら本当だろ》

《観察眼も相当だしな》


「ど、どういうことですか? 『魔素』なら知ってますが……」


 魔素とは、ダンジョン内にただよう気体のこと。

 ダンジョン限定の酸素のようなものだ。


 それを吸って魔物は成長し、探索者はダンジョン内では人外の動きを再現できる、らしい。

 Fランク講習で習った。


《日向ヒカリ:魔素水は、魔素を多く含んだ水のことよ。液体化している分、吸収効率が良いの》


「えと、それを飲むと、どうなるんですか?」


《日向ヒカリ:様々な作用はあるけど、一言で言えば「強くなる」わね》


「へー」


 なんだかそれぐらいしか言う事がない。

 だって、昔からこの辺にずっと流れてるし。

 なんなら水道水もここから引っ張っているし、庭の畑もこの水で耕している。


《日向ヒカリ:魔素水なんて、深層の奥深くでコップ一杯分取れれば奇跡ぐらいの超希少アイテムよ》


「まじかあ。世の中不思議なこともあるものですね」


《どんな感想だよww》

《小並》

《かっるぅ》

《へーで草》

《感覚のどこかイカれてるw》

《もっと驚けww》


 驚くというか、どちらかと言えば納得に近い。


「だから、めろんもこうなるんですね~」


 俺は隣のめろんを見上げた・・・・


《ファッ!?》

《なんだ!?》

《はい!?》

《???》

《どういうこと!?》

《なんじゃこりゃーーー!!》


 何気なく言ったつもりが、めろんのその姿にまたもコメントが沸いてしまった。

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