第18話 初めての気持ち

<三人称視点>


「だからダンジョン配信をしていたんだね」

「ええ」


 ホシにより救出されたヒカリは配信を終え、今はみんなでダンジョンから帰還している最中だ。


「見つかるといいね。お母さん」

「……うん」


 その中で、ヒカリはダンジョン配信をする理由をホシに話していた。


 幼い頃、今の育ての親へとヒカリを預けた生みの母。

 その人に自分を見つけてほしい、そんな思いからヒカリは配信をしているのだ。

 

 Sランク探索者になったのも、積極的に配信活動をするのも、常に一番・・目立つことで見つけてもらいたかったからだ。


「今はあなたに完全に負けちゃったけどね」

「え、俺?」

「あなた以外に誰がいるのよ、彦根ホシ」


 ヒカリは少し呆れ気味に笑った。

 と同時に、自分でも不思議に思う。


(どうして話しちゃったんだろうなあ……)


 今まで誰にも打ち明けたことがないこの話。

 それをライバルであるホシに話してしまった。

 その理由は自分でも分からない。


「手伝おうか?」

「え?」

「君のお母さんを探すこと」

「……!」


 いや、本当は分かってた。

 ヒカリは自分で気づかないフリ・・・・・・・をしていただけだ。


「役に立つかは分からないけどね」

「……ううん。ありがとう」


 なんとなくやってくれそう、そんな雰囲気を持つホシから「手伝う」と言ってほしかったんだ。

 それをヒカリはようやく自覚した。


(私って面倒くさいなあ)


 そう思いながら、ホシの「手伝おうか?」という言葉を大切に胸にしまった。





 『原初ダンジョン』上層、すぐそこはもう地上だ。

 ヒカリは改めてホシ達に向き直る。


「今日はありがとう。あなたは命の恩人よ」

「いいよ~。コメントくれたじゃん」

「本当に来てくれた理由それなんだね」

「そうだよ?」


 どこまでも変わらないホシに、ヒカリはふっと笑いを浮かべる。

 そうして、少し視線を下げた。


「めろんちゃんに、わたあめちゃん?」

「キュイ!」

「ワフッ!」


 そのままペット二匹をなでなで。


「ありがとうね」

「キュイ~」

「クゥ~ン」


 二匹とも撫でられて嬉しそうに鳴く。

 ホシは「おお」と若干驚いたようだ。


「すごい。猿山君には懐かなかったのに」

「それって褒めてるの?」

「え、うん。もちろん」

「……もう」


 呆れ気味に口角を上げたヒカリは、最後にエリカを覗き見る。


「本当にありがとうござい──ひぃっ!」

「……」


 だが、視線の先のエリカは、腕を組んで睨むようにヒカリを見つめる。

 ゴゴゴゴと背後から熱いオーラも見えてくるようである。


 おびえたヒカリに、今度はエリカから口を開いた。


「あなた、ホシ君のことはどう思ってるわけ」

「え? ど、どうって……」


 突然の問いに戸惑いながらも、チラリとホシの方を向くヒカリ。


「……っ!」

「ん?」


 改めて視線が合うと、ヒカリの胸はドクンと高鳴る。

 強敵と戦う時はまた違った鼓動だ。

 少し苦しいのは同じでも、どこかポカポカするような不思議な鼓動。


(私、もしかして……)


 配信に必死でまだ恋をしたことのないヒカリ。

 自分の気持ちはまだ半信半疑だった。

 それでも、彼のことを意識してしまっていることには変わりない。


 そんなヒカリに対して、お姉さんエリカ。


「チッ」


 舌打ちと共に、自分の過ちを自覚する。


「魅力的に育て過ぎた……」

「何言ってんの、姉さん」

「私のホシ君なのに!」

「だー! もう離れて!」


 かと思えば、また始まった二人のやり取り。


「ふふっ」


 ヒカリは思わず笑ってしまう。

 そうして、ドキドキする心臓を抑えながらヒカリは地上方向に振り返る。


「じゃあ行くね」

「あ、うん! 一人で帰れる?」

「大丈夫だよ」


 そんなヒカリに、ホシは最後に一言。


「もう無理はしないでね」

「え?」

「俺もお母さんを探すのを手伝うからさ」

「……!」


 だけど、ヒカリは首を縦に振らない。


「それはできないかな」

「でも、また今日みたいなことになったら──」

「だって」


 そして、うっとりとした目でホシを見つめた。


「そんな時はまた君が助けに来てくれるでしょ?」

「……!」

「またね。彦根ホシ君」

「あ、うん……」 


 ホシからしても、今のヒカリの表情はそれまでとは違って見えた。

 薄暗さで見えにくかったが、頬が赤く染まっている様にも思える。


「……あの女、許さん」


 一方で、エリカは不安げなことをつぶやいていた。







<ホシ視点>


「ん?」


 日向ヒカリさんの配信から、何日か経った朝。

 休日だからのんびりしようと思っていたら、近所で何やら音が聞こえる。

 そういえば、ここ最近何か作業をやってたなあ。

 

「あー、もしかして」


 荷物がたくさん積んである大型トラックに、それについて指示をしている人達。

 そこでようやく何かが分かる。

 どうやら「引っ越し」みたいだ。


「ん?」


 そんな作業をボーっと見ていると、向こうから一人の女性が歩いて来る。


 長いサラサラの黒髪をストレートに伸ばした、スーツの女性だ。

 なんとなく公務員っぽい。

 すごく仕事ができそう。


「こんにちは。彦根ホシ君ね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る