第14話 迫られる二択

<三人称視点>


 タカラミミックがいた場所にドロップしていたアイテム。

 それを拾って、ホシは思わず首をかしげる。


「……懐中時計?」

 

 外側は黄土色の何かで出来た、手の平サイズの丸いアイテム。

 中には針と、0時の方向から時計回りに100本のメモリが振ってある(頑張って数えた)。


 懐中時計のような見た目ではあるが、時間を表してるわけではないようだ。


《タカラミミックのドロップアイテム!》

《めっちゃ貴重だよ》

《運も強い》


「貴重なんだ。じゃあ持っておこうかな」


 コメントから、一応持って帰ることにするホシ。

 だが、やはり何かは気になる。

 ホシはガチャガチャといじり始めた。

 

「どうやって使うんだろ」


 ひっくり返したり、軽く叩いてみたり。

 そうしている内に上部に凸部を見つける。

 押すためのボタンのようなものらしい。


「ぽちー」


 ……しかし、反応は無し。

 ホシは目を細めた。

 

「これ壊れてないよね? 壊れたら許さないぞ」


 あどけなく言葉にするホシだが、向けられた本人にとってこれ以上怖い言葉は無い。

 タカラミミックはどこかで寒気を感じた。


《ヒエッ》

《ホシ君の許さないは確定死》

《恐ろしい子……!》


 そうして、残念そうにしまおうとした時


「うわっ!」


 突然、針がビーンと回った。

 0と表記された上の方を向いていた針は、ぐるっと時計周りに回って80辺りを指す。


「あ」


 偶然ではあるが、反応を示した懐中時計はめろんの方を向いている。

 もしかして、と勘づいてホシはニッコリ。


「誰かに向けて押すと良いのかも」


 次はちょっと下に懐中時計を向けた。

 

「わたあめ、こっち向いて~」

「ワフッ!」


 わたあめにそれを向け、またボタンを押す。

 すると、めろんと同じく80辺りまで針が回る。


「おお~」


 外のダンジョンにおいて、素材じゃないアイテムを拾ったのは初めてのホシ。

 中々面白がる……が、肝心な事が分からない。


「この数値は何を表してるんだろ」

 

《ホシ君は?》

《自分に向けてみれば?》


「あ、そうですね!」


 コメントからアドバイスをもらい、ホシは自分に懐中時計を向けてポチッ!

 だが、思った反応にはならなかった。

 

「これは……!」


──テレレンテレレン。


「ん?」


 そんな時、どこからともなく聞きなれた音が聞こえてくる。

 通話が来た時にスマホから鳴る通知音だ。

 

《なんだ?》

《誰かから通話?》

《通話の音じゃね》


「もー配信中なのに」


 相手は大体予想が付いているホシ。

 軽い溜息をつきながら、わたあめに寄った。

 そして何をするかと思えば……ガサゴソ。


「クゥン」


 わたわめのもふもふからスマホを取り出す。

 小道具はここに仕舞っているらしい。


《もふもふからスマホ出てきた笑》

《ずっと入ってたのかよw》

《四次元ポケットで草》

《便利かよw》


「やっぱかー。すみません少し待っててください」


 ホシはカメラから目を逸らして通話に応じた。


《配信中に電話すんなw》

《ここ一応Sランクの深層です》

《相変わらず呑気なんだよなあ》


「なに?」

『ホシ君、まだ帰ってこないの?』

「待ってよ。今配信中だから」


 通話の相手は案の定、姉さん。

 エルフのエリカだった。


 だが、そんな通話状況。


《待って、これ聞こえてない?w》

《本当だ》

《設定されてるなw》


 探索者とダンジョン外からのサポートを連携する為、配信に通話や通信の音声を入れる設定がある。

 どうやらこれがONになっており、二人の通話は筒抜けのようだ。

 

 そんなことは知らず、ホシは話を続ける。


「遅くなりすぎない内に帰るから」

『もう遅いよ?』

「遅いって言っても……」


 チラっと見たカメラに映る時間は19時。


「21時には帰るから」

『今日はハンバーグだよ?』

「──今すぐ帰る」


 だが、それを聞いて目の色を変えるホシ。

 すぐに通話を切って帰る準備を始めた。


 ホシにとって、エリカのハンバーグは「全て」。

 それを聞けば体は自然と家へと歩き出し、お腹は勝手に空き始める。

 なんやかんや言いつつ、姉の厚意にはしっかりと甘えているのだ。


 そうして、浮遊型カメラに向き直る。

 元々、深層は少し覗くだけのつもりだったので、配信的にもキリが良いと言える。


「すみません今日は用事ができちゃって……って、ええっ!?」


 そこで、ようやくコメント欄の流れに気づいた。


《ハンバーグね》

《かわいいw》

《お姉ちゃん好きじゃん笑》

《それは帰らないとなあ》

《(・∀・)ニヤニヤ》

《楽しみだね~》

《ホシ君ウキウキでワロタ》

《小学生かな?w》


「な、なんでバレてるんですか……?」


《レッドトゥースで繋げられる》

《配信に聞こえる設定になってたね笑》

《丸聞こえだよ~》

《エリカさん待ってるぞw》


「そんな……」


 ホシ自身は設定した覚えがない。

 あるとすれば……確実にエリカの仕業である。


「もう本当に~~~!!」


《ハンバーグは早く帰ろう》

《エリカさん待ってるって笑》

《子どもは帰る時間だよ》

《良い子は早く帰りましょうね》

《ハンバーグ冷めちゃう》


「……くぅっ!」


 自分でも顔が赤くなっていくのが分かるホシ。


「キュキュイッ」

「ワフフフ」


 二匹のペットにまで笑われながらも、配信を閉じようとする。


 だが、最後に気になるコメントが流れた。


《日向ヒカリがSランクの深層でピンチだ!》

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