第13話 お星さまラッシュ

 「うーん」


──グシャッ!


 『翼竜ダンジョン』のワイバーンがいた下層を抜け、俺は深層へと足を踏み入れた。

 今歩いているのは、深層に入ってすぐの通路みたいなところだ。


「ちょっと暗いですねー」


──ゴギャッ!


《待て待てw》

《魔物倒しながら呑気にしゃべんなw》

《おかしいてww》

《テンションと合ってなさすぎるww》

《あれ?魔物襲って来てるよな……?》


 コメントを見ながら俺も答える。


「はい、さっきからなんか飛んでますよね。うっとうしいなあ。しっしっ」


──ブシャァッ!


 まとわりついてくる魔物をはたきおとす。

 もう何回目だろう。

 さっきからちょっかいをかけられて結構邪魔だ。


「なんなんですかね、こいつら」


 あんまりしつこいから、ちょっと気になる。

 なんかちょっと光ってる・・・・し。

 俺がはたき落とした鳥(?)を覗くと、カメラも空気を読んで寄ってきた。


 体は真っ黒で大きくはない。

 めろんと同じぐらいかな。

 翼が体の半分ぐらい占めていて、なんだか不吉な魔物だ。


 でも、コメント欄には何かが分かった人たちもいるみたい。


《これ『深層バット』じゃないか……?》

《あの深層にしか存在しないコウモリ?》

《Aランク魔物だぞ!》

《しかも大群で襲う》

《ある意味Sランクより厄介とも言われてるな》

《翼って戦車の装甲並みに堅いんじゃ……》


「これがですか? ふーん」


《ふーんてw》

《興味無さそう笑》

《まあホシ君にしては有象無象と変わらんw》


 だけど、スルーしようとしたところに気になるコメントが目に入る。


《そいつのドロップアイテム高く売れるぞ》


「なにぃっ!?」


 魔物を倒すと、ちりになってダンジョンに取り込まれていく。

 その時アイテムをドロップすることがあるんだ。

 探索者はそれを換金して生計を立ててるらしい。


 俺の口は勝手に聞き返していた。


「どれですか! 翼ですか!? 尻尾ですか!?」


《翼だったはず》


「どうして翼が!?」


《光ってて堅い素材は色々と使い道がある。色の種類もあるし》


「あざます! めろん、わたあめ、すぐに戻って回収だ!」

「キュイ……」

「クゥン……」


《ええw》

《急に興味持ってて草》

《お小遣い欲しいって言ってたもんな笑》

《かわいい》

《高校生なんてこんもんだろw》

《めろんとわたあめ複雑そうwww》

《現金な主だなw》

《最強種あごで使うな笑》


 そんなこんなもあり、いくつかドロップアイテムを回収しながら奥へ進んだ。

 あ、ワイバーンのドロップアイテムもしっかり回収してます。







<三人称視点>


「お」


 暗く続いていた通路のような道を抜け、ホシ達はようやく広めの場所に出る。


「おお~」

「キュイ~」

「ワフ~」


 三人(一人と二匹)は思わず周りを見渡した。


 全体的には薄暗い広間。

 浮遊型カメラのおかげでなんとか見通すことができる。

 また、周りは土か何かで造られた壁の囲いが上に続いており、まるで昔のコロッセオのようだ。


「なんだろうあれ……」


 さらに、壁には無数の穴がある。

 めろんぐらいなら出入りできそうだ。


《闘技場みたい》

《なんか不気味だな》

《薄気味悪いし》

《ダンジョンってやっぱすげえな》

《急にこんな場所に出るんだもんな》


 視聴者も不気味がっている。

 だがそんな中、ホシにはさっきからめっちゃくちゃ気になるものが。


「あれ、開けていいですかね!」


 コロッセオみたいな部屋の中央。

 そこにぽつんと置かれた光る『宝箱』。

 開けてくださいと言わんばかりの置かれ方だ。


 ホシはもう気になってしょうがない。


《絶対ダメだろ!》

《罠に決まってるよ!》

《100パートラップだぞ!》

《ダメダメ!》

《怪しすぎるって!》


「えーそんなあ……」


《しょぼくれたw》

《な、なんかごめん》

《しょぼーん》

《(´・ω・`)》

《憎めねえんだよなあw》


「分かってます。心配してくれているんですよね」


 ホシもコメントに悪意がないのは理解している。

 宝箱には罠が付きものというテンプレは知らないが、9割ぐらいのコメントが「ダメ」だと言っていることは受け止めていた……だったはずが。


「でも開ーける!」

 

 そーっとすり足で宝箱に寄っていたホシ。

 好奇心を抑えられずガバっと宝箱を開封した。


《おい!》

《やっちゃった》

《やばいぞ!》


「ん? ──うおおっ!?」


 その瞬間、中から巨大なが現れる。

 ホシは咄嗟とっさに後ろへ下がった。


「なんだこれ!」

「──ヒェエエエエ!!」


 いつの間にか巨大化していた宝箱。

 中からは目玉がギョロっとホシを見下ろし、大きな舌を出す。


《タカラミミック!?》

《タカラミミックだ!》

《言わんこっちゃない!》

《やべえぞ!》


 探索者だという視聴者もたくさんいるこの配信。

 彼らが積極的にホシに情報を流す。


「タカラミミック? 強いんですか?」


《階層によって強さは変わる》

《じゃあヤバいんじゃないか?》

《Sランクの深層だぞここ》

《そんな場所のタカラミミックって……》

《想像したくもねえ》


 『タカラミミック』。

 宝箱に潜み、開けた者を襲う凶悪な魔物だ。

 生息する場所によってその強さは変わる。


 ここはSランクダンジョンの深層。

 ワイバーンと同等、もしくはそれ以上の強さであることが推測できる。


 タカラミミックは舌を出しながらもう一度奇声を上げた。


「──ヒェエエエエ!!」

「「「キィィィィィ!!」」」


 その奇声に呼応するように、無数の穴から何かが出てくる。


「なんだ!?」


 薄暗い上方を照らすように、ホシはカメラを直接上に向けた。

 穴方出てきてきたのは、ホシがペチペチ倒していた『深層バット』。

 一体一体が全てAランクの厄介な魔物である。


「うへえ」


 上部をおおうほどの深層バット。

 前には巨大なタカラミミック。

 気がつけばホシ達は囲まれてしまっていた。

 

《魔物ハウスかよ!》

《やべえって!!》

《さすがにこの数は……》

《暗いのは不利だぞ!》

《向こうはコウモリだから見えてるんじゃないか?》

《頼む逃げてくれ!》


 焦り始めるコメント欄。

 だが、ホシはむふふと笑みを浮かべた。

 その表情はあどけない少年のよう。


「めろん、わたあめ」

「キュイ?」

「クゥン?」

「誰が一番活躍できるか勝負する?」


《え》

《は?》

《何言ってんだ?》

《ふざけてる場合じゃないぞ……?》


 この期に及んでまだ笑うホシ。

 ただふざけているのではなく、全力で楽しんでいるのだ。


 そして、そんな飼い主を持つ最強のペット二匹。

 この誘いに乗らないわけがない。


「ギャオオオオオオオオ!」

「クォ~~~~~~~ン!」


 やってやるぞ、と言わんばかりに二匹は巨大化。

 むしろ今か今かとホシの合図を楽しみにしている。


《本当にやる気なのかよ》

《ここまできたら応援するぞ!》

《どうせ囲まれてるしな》

《逃げられないなら倒せ!》


「ふふーん!」


 応援してくれるコメント欄にニンマリするホシ。

 現在の視聴者数は25万人。

 時間的にもここがピークだろう。


「じゃあ、スタートだ!」

「──ウォフッ!」


 ホシの合図と同時にわたあめが消えた。

 否、駆け出した。


 そうして、分身にも見える速度で移動する。

 先の戦闘で見せた「わたあめラッシュ」だ。


「──ウオォォォォン!!」


《うおおおおお!》

《わたあめラッシュ!》

《きたああああ!!》

《やっぱはえええ!》

《さっきより増えてねえか!?》

《トレンドからきたけどすげえ!》


 いきなりの必殺技に沸き上がるコメント欄。

 さっきは見れなかった視聴者も、この速さを目の当たりにして大興奮のようだ。


「ふっふ。そうくるか、わたあめよ」


 そんな中、腕を組んでうんうんとうなずくホシ。

 不敵に笑い、興奮から若干の中二病も混じりつつある。


「じゃあ俺も・・


《?》

《え?》

《俺も?》


 困惑するコメント欄をよそに、ホシはその場から消える。

 いや、跳び上がった。

 それもわたあめ以上・・のスピードで。


「うおおおおおりゃああああーーー!!!」


《!?》

《うおお!?》

《ホシが分身した!?》

《これまさか!》

《わたあめと同じ!?》

《いや!》

《もっと多いぞ!!》


 わたあめが高速で動くことで分身に見える現象。

 ホシはさらに・・・速く動き、より多くの分身に見せる。

 その数およそ三十体。


「「「キィィィィィ!!」」」


 襲い来る分身に巻き込まれ、羽虫のようにバタバタと倒されていくAランク魔物の深層コウモリ。

 さらに、深層コウモリは倒されれば「光る」という特徴を持つ。

 浮遊型カメラは下からホシが無双する様子を鮮明にとらえていた。


 すると、どうなるか。


《なんだこれ……》

《綺麗……》

《これ現実か……?》

《こんなのなるんか……》


 薄暗く上の方が見えにくい広間。

 そこに大量の光を帯びる点々。


 それはまるで、何一つさえぎるものがない綺麗な星空。

 銀河を眺めているかのような、あまりに幻想的な夜空がそこに浮かんだ。


 ある視聴者はホシと今の状況にかけて書き込む。


《お星さまラッシュ》


「てやあああああああああ!!」


 そうして気が付けば、全ての深層コウモリを倒していたホシ。

 不快な音は一切なくなり、カメラには幻想的な星空のみが映った。


《うおおおおお!!》

《お星さまラッシュ!!》

《お星さまラッシュ最強!》

《すげえもの見せてもらった!》

《めっちゃ綺麗!》

《幻想的すぎる~!》


 上部にいる間、コメントを見る事ができなかったホシ。

 着地してから今の流れに気づく。


(なんかすごく可愛い名前を付けられてしまった……)


 ちょっと恥ずかしそうに顔を抑えるホシ。

 その手は自然と、次はわたあめに向けられた。


「お前もこんな気持ちだったのか」

「クゥン」


 元々「ラッシュ」は自分が付けた技の名前。

 ちょっと申し訳なさを感じてわたあめをなでなでした。


《お星さまラッシュかわいいよ》

《気に入った!》

《ホシ君にはぴったり》

《綺麗だったなあ》

《ホシ君っぽくていいよw》


「そ、そうですかね?」


 とは言え、褒められて鼻の下を伸ばすホシ。

 悪い気はしてないみたいだ。


「んでー?」


 ホシはくるりと振り返る。

 視線の先にはタカラミミック。

 

「君はどうするー?」

「ヒ、ヒェエエエエ!!」

「あっ!」

 

 だが、タカラミミックはドタドタと逃げ出してしまった。

 魔物側に化け物だと思われたみたいだ。

 最後がなんとなく怯えた声に聞こえた視聴者も多いだろう。


《お前が逃げるんかよww》

《タカラミミック逃亡!w》

《慌ててて草》

《向こうが魔物だと思ってるだろwww》

《ホシ君が強すぎるんよw》

《なんか安心した~》

《やっぱ負けないかあ笑》


「なんだよー。って、めろん?」

「グオォ……」

「どうしたんだ?」


 そんな中で、悲しそうな声で鳴くめろん。

 ホシはなんとなく勘づいた。


「あ、もしかして、タカラミミックと戦うのを待ってたの?」

「グォーン……」

「ははっ、可愛いやつだなあ。おーよしよし」


 めろんは腰を落とした状態でじっと待っていた。

 自分の出番はタカラミミックの時だと思っていたのかもしれない。


《出番なくなっちゃったのか笑》

《ホシ君とわたあめで終わらせちゃったもんなw》

《じっと待ってためろんかわいいw》


「グォン……」

「はははっ。って、あれ、なんだろうこれ」


 そうして、タカラミミックがいた場所にドロップしているアイテムをを見つけるホシ。

 首をかしげながらつぶやいた。


「……懐中時計?」

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