第33話 ハーレム
「ええと。……その、俺の家に来るか? 龍王子」
「……ホント!?」
嬉しそうに口元に手をやる龍王子
「いいや、龍王子さんはワタシの家に来るの!」
そう言って義妹である佐里が間に入ってくる。
「え。でも言い出しっぺだし」
自分で言ったことだ。責任をとらねば。
「男女が一つ屋根の下って不健全なの!」
佐里は一歩も引く気はないらしい。
まあ、俺としてはそれでもいいか。
不満そうに龍王子が睨んでくるが、佐里は嬉しそうにする。
「良かった。じゃあ、龍王子さんはワタシの家に行きましょう!」
ルンルンな佐里に、にこやかな笑みを浮かべる龍王子。
俺のやったことが間違えではなかったと分かり、安心する。
その時、ポストに投函された紙を見る機会がなかった。
その二日後。
「な、なんじゃ、こりゃ――――っ!」
俺は自分の部屋を見ると、そこには裸、もしくは下着姿の女子が四人。
「あら。ふふ。可愛い御仁」
「ちょっと、何をみているノヨ」
「裸を見るなんて、サイテー!」
「出ていってください!」
四人の少女に追い出される俺。
自分の部屋か確かめる。
201号室。
間違いない。俺の部屋だ。
何で俺の部屋にほぼ裸の四人がいたんだ?
「あー。まだいるぅ~」
着替え終わったのか、その中の一人が顔を見せる。
「いや、だって、ここ俺の部屋だし……」
「ふふ。キミ、可愛いな~」
翠色のショートヘアを揺らす子。
「あたいは
「え。高校生……?」
「今では高校生から働くのは珍しくないでしょうぅ?」
「え。まあ、そりゃそうだけど……」
このアパートを改修する? そんなことを高校生に任せるか?
「おい。澪。
下にいた親方さんが声を荒げる。
「すぐに行きますってばぁ! でもこの人が自分の部屋に来てしまってぇ!」
焦ったように呟く澪。
「なら、帰せ。こっちは給料をもらっているんだ」
「分かっていますぅってぇ」
澪と呼ばれた子はこちらに向き直り、にこりと笑みを浮かべる。
「さ。帰ってください」
「いや、俺の家意外は帰る場所などないが……」
そう俺にはこの201号室こそが帰る家。生きる場所。
「そう言われても……困りましたねぇ。一日だけでいいんですがぁ」
「う。そうなのか」
じーっと見つめる澪。
「両親や親戚の方々がいるでしょうぅ? そこに行けばいいのですょ」
「そう、言われても……」
一応、当てはあるけど……。
「じゃあ、泊まっていくぅ?」
「え。いや、俺の部屋……」
気がついている人も多いだろうが、俺は諦めが悪い。
こんなことで諦めるような奴じゃない。
「いいよぉ。自分たちは気にしないからぁ」
「な、何を言っているノデス!」
「楓。キミならオッケーしてくれると思ったよぉ!」
「いや、OKしていないんですガ……」
「話は聞いたよ。確かに大変そうですね」
みんな可愛い美少女である。それが計四名。
翠のショートヘアの子。
くしゃくしゃな青髪の子。
茶髪のドリルをした子。
お団子ヘアの子。
しめて四人。
佐里、紗倉、色恋さん、美鈴の四人とはまったく違う雰囲気を持つ子たちだ。
「い、いや、いい。俺は義妹の家に戻る。すぐに帰るのだな?」
「はいぃ。明後日には終わると思いますぅ~」
「な、なら……」
そう言って俺はスマホを操作する。
すぐに佐里に連絡をとる。
「もしもし、佐里の家に泊まってもいいか?」
『ふぇ!? いいけど!?』
「お願いする」
『……分かったの』
見知らぬ澪さんたちに比べれば、妹の佐里なら気を許せるところはある。
なら大丈夫か。
俺は近くにある佐里のアパートに向かう。
俺の住むアパートとは違い、一階にエントランスがあり、厳重なセキュリティが見える。
エントランスで佐里に呼びかけると、すぐにロックが解除される。
扉が開き、おもむろに俺はエレベーターに向かう。
309号室にたどり着くと、俺はチャイムを鳴らす。
「入って。入って!」
飛び出してきた佐里はにんまりと笑みを浮かべて俺を招き入れる。
そして部屋に入ってみると、そこには見慣れた面目がいた。
「おはよんりる。赤井くん」
「タケルくん。こんにちは」
「タケル、ど、どうしてここに……!?」
色恋さん、龍王子、美鈴の三人がいた。
「俺、帰る」
「「「「ま、待って……!!」」」」
四人が呼び止める。
「いや、でもな……」
俺はこの甘い空間にいられない。
「大丈夫。女子会をやっていたところにお兄ちゃんが来ただけだから」
「それって思いっきり気まずいじゃないか!」
涙目になりそうな俺を放っておいて、奥に進める美鈴。
「いいじゃない。少しは楽しもうよ。ね?」
色恋さんもそう言う。
「まあ、少しだけなら……」
目を伏せるように言い、俺は進められるがまま座布団に腰を落ち着ける。
ふかふかで手触りも良く、狐の絵が描かれた座布団。
狐につままれた様子で四人の女子を見やる。
みんな可愛い顔をしているが、なぜこんなことになったのだろう。
「さ。タケル、人生ゲームしよ!」
幼い頃の想い出を繰り返そうとする美鈴。
「えー。お兄ちゃんはワタシとゲームするのさ!」
「赤井くんはシスコン?」
「いや、違うんだよ。色恋さん」
「タケルくんはわたしを甘やかしてほしいのです」
ジト目を向けてくる龍王子紗倉。
「そう言われても……」
困ったように眉根を寄せる俺。
「分かった。とりあえず、夕飯にするぞ。何かリクエストはあるか?」
「ハンバーグ!」
「オムライス!」
「カレー!」
「青椒肉絲!」
「みんな違うのかよ!!」
俺は頭の痛くなる思いで、予定を立てていく。
「分かった。待っていろ」
俺は冷蔵庫をチェックすると、必要なものを買いに近くのスーパーに向かう俺。
その後を紗倉がついてくる。
「一人では行かせないわ」
その前に一悶着あったが、無事紗倉が来ることになった。
「それにしても、タケルくんはシスコンなのですか?」
ゲホゲホと咳き込む俺。
「な、なんでそう思った?」
「だって、デレデレしているし」
「してねーよ!」
「いやいや」
即刻否定する紗倉。
「もう、無自覚なのですね」
「えー。いや、えー」
俺はそんな顔していないって言うのに。
「ふふ。まあ、そういうことにしてあげます」
「何目線だよ。紗倉」
「え」
「なんだよ? 紗倉」
「い、いえ……。なんでもありません」
かぁあと赤くなる紗倉。
そんな顔も可愛い。
「も、もう! 早く買い物すませますよ!」
「俺としてはゆっくりしていきたいな」
「何故です!?」
「だって、一緒にいる時間が増えるじゃん」
「こ、この……! すけこまし!」
「ええ。なんで怒られているのさ」
「わたし、今でもタケルくんのこと好きなのですよ!?」
「え。そうなの?」
「もう。タケルくんのバカバカ!」
ぽかぽかと可愛らしい音を立てながら俺の腹を叩く紗倉。
そんなやりとりも終えて、俺と紗倉はスーパーに入っていく。
「アラ~。お二人は恋人サン?」
工事現場(俺のアパート)にいた楓と出くわす。
「い、いえ。俺たちはそんなんじゃないです」
「フーン。でも彼女サンはそう思っていないヨネ?」
「え。あ、はい」
素直に頷くんかい。
「まあ、ジブンも立候補しようカナ?」
「なんにだよ」
「しーらないヨ」
そんなやりとりも終わり、離れていく。
野菜や肉などを買うと、俺は買い物袋を持って出る。
帰り道、俺をジロジロと見てくる紗倉。
「な、なんで紗倉って呼ぶようにしたわけですか?」
「ん? 龍王子父とかぶるだろ?」
「え……?」
「ん?」
「そ、それだけ?」
「ああ。それだけだ」
「た、」
「た?」
「タケルくんの痴れ者~っ!!」
「なんでぇ~!?!?」
俺は学園アイドルを溺愛したら、なぜかハーレムになっていたらしい。
何故か、その一人が俺を罵ったのだ。
女子はよく分からん。
俺はトボトボと家に向かうことにした。
~本編 完~
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