学園アイドルヒロインを推して溺愛したら、なぜかハーレムになっていました。
夕日ゆうや
ヒロインだーれだ!
第1話 フラレた。
「俺、
「え……。なんの冗談?」
クスクスと笑う幼馴染。
「……」
「え。本気?」
「ああ」
「ごめん。私、タケルのこと弟としか見えない」
美鈴は俺の告白を丁寧に断る。
じんわりと胸のあたりから冷たいものが広がっていく気がした。
高一の春。
俺はこうしてフラレた。
そんな事件があってから三日後。
俺はふらつく足取りでアパートを出る。
住宅街のアパート。それも二階の隅にある201号室。
フラレたショックから、まともに食事もとっていなかった俺にとって、この階段というのは難敵だった。
一段一段丁寧に降りていくが、最後の一段で踏み外す。
盛大に転んだ俺は頬にうっすらと傷跡を残す。
「ててて……」
もうどうでも良くなったな。
「大丈夫?」
そう甘い声をかけてくれたのは
学校一の美少女で完璧不死身な彼女が俺の手をとってくる。
「なんでここにいる?」
こんな安賃金のボロアパートに龍王寺がいるのが信じられなかった。
「わたしの家です。205号室なのです」
「そう、だったか……」
「どこが悪いんですか?」
「頭、かな……」
「バカ言わないでください」
金糸のようなブロンドヘアをなびかせてスマホを取り出す様は妙に決まっていた。
ぐぅううと腹の虫がなると龍王寺はスマホを落とす。
「……もしかして? お腹空いているだけ? ですか?」
おずおずと尋ねてくる龍王寺。
「さすがだな。知っているか? 料理って自動的にできるわけじゃないんだぜ?」
「カッコ悪いですよ?」
ジト目を向けてくる龍王寺。
盛大にため息をはいたあと、龍王寺は俺を抱えて205号室に向かう。
「いいですか? 食事はちゃんと三食たべること!」
なんで俺はクラスのアイドルに怒られているんだ?
疑問に思いながらも俺はふらつく足取りで同級生の、しかも女の子の部屋にはいる。
初めての経験だが、一般的な家と大差ないのだろうか?
このアパートはリビングと廊下に分かれており、廊下にはトイレの部屋とお風呂場がついており、キッチンは廊下の横に並んでいる。その隣には洗濯機がセットしてある。
かなりしょぼい作りだ。
中に通されると龍王寺はリビングのクッションの上に俺を下ろす。
「しばらく待っていてくださいねっ!」
「ああ」
もう何かをする気力もわかない。
ふと美味しそうな匂いがしてくる。
しかし、女の子の部屋っていい匂いがするんだな。美味しそうな匂いとは別に甘い香りがする。
ふと外を見ると部屋干しに下着が混じっている。それに加えてベッドの上に置かれたぬいぐるみたち。
何から何までも違う模様にめまいを覚える。
「できました! って何見ているんですか!?」
龍王寺は怒り狂った様子で素早く洗濯物を隠す。
その技、見事なり。
いや俺は誰だよ……。
しかしいい匂いだ。
ちらりと目をやるとそこにはオムレツがあった。
「え。これ。え?」
「食べてください」
「え。でも……」
どう見たって買ってきたものではない。手作りだ。それもかなり丁寧に作ってある。
学園アイドルである龍王寺の手料理は男なら垂涎もの。お金を払ってでも食べる価値がある。
「俺、持ち合わせないよ?」
「いいんです。恩返しです。タケルくん」
「俺の名前を知っているのか!?」
「……そう、です」
面食らったようにうろたえる龍王寺。
「さっ。冷める前に食べてください」
そういってスプーンを差し出す龍王寺。
「それともあーんがいいですか?」
龍王寺はからかうようにスプーンを揺らす。
その頬はちょっぴり赤い。
恥じらうならやめればいいのに。
「ホントにホントに食べさせちゃいますよ?」
焦って聞こえる龍王寺の声。
「い、いきますよ!」
スプーンでふわふわな卵を切り分けて、俺の口元に持っていく。
「や、やった」
俺は頬張ると卵の甘さとチキンライスの塩気を堪能する。
あと、このあーんサービスは刺激が強すぎる。
俺はスプーンを受け取ると一人で食べ始める。
「うまかった」
ようやく本来の頭に戻ってきた気がする。
ふと考える。
ここまでしてもらったからには何かしてあげる必要があるんじゃないか? と。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
龍王寺は少し嬉しそうにハニカム。
「何かしてほしいことはあるか?」
「え。ええっと……」
考え込む龍王寺。
「じゃあ、わたしの彼氏にしてくださいっ!」
不思議な言い回しを理解するに、少し時間がかかった。
「か、かかか彼氏!?」
「わたし、告白されることが多くて、どうしても断って。それが嫌なんです」
「最初から彼氏がいれば、告白されない?」
「そうです!!」
まるでアニメやラノベにありがちな展開だ。でも俺は勘違いすることはない。なにせあの美鈴にフラレたばかりなのだ。
俺は価値のないやつなんだ。
陰キャだし、オタクだし、ヒョロいし、チビだし。
男としての良さなんてかなぐり捨ててきた身だ。
今更勘違いすることなんてない。
それに龍王寺が偽の彼氏というからには、偽なのだろう。
「分かった。それで気が済むなら。マイレディー」
「ふふ。よろしくね!
なぜか距離をとるような声音と態度で言う龍王寺。
マイレディーは言いすぎたか。
反省はするものの後悔はしていない俺だった。
「ホント、変わっているんだから……」
「ほう? 誰が変わっているって?」
「ごめんなさーい」
謝るかけらもないような言葉にイラッと来る俺。
まあいいけどさ。いいけどさ!
ごちそうになった俺は龍王寺と連絡先を交換すると、すぐに部屋に戻った。
あのまま龍王寺の部屋にいるのは正直、生きた心地がしなかった。理性を抑えるのがきついのだ。
安心しきっているところにメッセが届く。
《明日からはちゃんと学校に来てくださいねっ!》
さすがの龍王寺だった。
金髪碧眼。背丈は146センチほど。全体的に線が細く、か弱いイメージ。そして顔立ちが幼さを残しているが可愛らしい。
成績優秀。女の子からも男の子からも好かれている。その背丈のせいで運動は苦手らしいが一般的な運動神経を持っている。
それが龍王寺紗倉だった。
その彼氏、としては分不相応だとはわかっているが一宿一飯の恩義を忘れてはいけない。泊めてもらってはいないけど……。
それでもあのデリシャスなランチはサイコーだった。
久々に会話をし、食事をしてテンションの上がった俺はコンビニで夕食を買い、久々のオンラインゲームを楽しんだ。
美鈴にフラレたことはどこかへ行ってしまったようだ。
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