第28話 風邪を引いたら幼馴染み、義妹、同級生、偽カノが看病し始めた!

 火曜日。

 定期試験二日目。HRホームルーム

 俺はくしゃみと咳を繰り返していた。

 昨日、色恋さんに傘を渡して雨の中、駆け抜けていったのが悪かった。

「おいおい。そんなんで大丈夫か?」

 大河は苦笑しながらティシュを渡してくる。

「頭がぼーっとするがここで頑張らなくてどうする?」

「そりゃそうだが……」

 不安そうにつぶやく綾崎。

「お前はそれでいいんだな?」

 大河が確認するように尋ねる。

「ああ。無実ということを伝えるにはこれしかない」

「僕は反対だね。ちゃんと休むべきだ。保健室に連れていく」

 綾崎は俺の腕を取ろうとする。

「やめておけ。男の覚悟に水を差すな」

 大河はその手を振り払う。

「そうか。でも少しでも怪しいと思ったら僕が連れていく」

 責任を感じているような言い分の綾崎。

 自分のことのように心配してくれるのはありがたいが――

「あいにく、俺は女の子に連れて行ってもらいたいね」

「口数の減らないやつ」

 苦笑を浮かべる綾崎。

 とにもかくにも時間は刻一刻と迫ってくる。

 俺はシャープペンを握りしめて、なんとか午前のテストを終える。

 そのままふらつく足取りで下校を始めるのだが、そんな俺を見かねて色恋さんが駆け寄ってくる。

「見ていたけど、ずいぶん辛そうだね。アタシのせい、だよね……」

 傘を貸したことを後悔したくない。

「へ。これでも俺は追い込まれると頑張れるタイプでね」

 風邪にうなされて変なことを言っている自覚はあるが、俺は風邪なんかに負けたくない。

「俺は好きで傘をわたしたんだ。悔いはない」

「……分かった。でも家まで送らせて。ね?」

「わかったよ……」

 俺は色恋さんの言葉をしかとうけ、あるき出す。

 足取りの重い俺に歩幅をあわせてくれる色恋さん。

 それに肩を貸してくれるのだけど、その際に胸や腕があたり、ドギマギしてしまう。

 こんなかわいい子が隣にいるんだ。男冥利につきるというものだ。

 家につくと色恋さんはマジマジと俺の顔を見てくる。

「一人で平気?」

「佐里がいるから大丈夫だ」

「なら佐里ちゃんにお願いする。それまで離れないよ」

 そう言って色恋さんは玄関のとってを掴む。

 参ったね、こりゃ。

 俺は玄関の鍵を開けて中に入る。

 そこに佐里の姿はない。

 なぜなら中学校に通っている佐里はこの時間には帰宅しないからだ。

「あー。悪い。佐里はすぐに帰ってくると思うから」

「それまでアタシが面倒を見るよ!」

 色恋さんはそう言い俺をベッドに寝かせる。

 俺の額にコツンと額を預ける色恋さん。

 え? ええ! な、なに!?

 俺が動揺していると、色恋さんは少し頬を赤らめる。

「やっぱり熱いかも」

「け、検温器ならテレビ台の下にあるぞ!」

 そんな原始的なことをするとは思わなかった。

「ほんと? 探してみる。その前にその制服苦しそうだから脱がすね」

 そっと俺の上着のボタンを外し始める色恋さん。

「え。いや大丈夫だから」

「いいから」

 そう言って俺の上着を脱がす。

 あとはワイシャツとズボンだけだ。それ以上先はいけない。

「だ、ダメだ。色恋さん」

「ふふ。脱がしてあげる」

 少し色っぽい言い方をする色恋さんにドキッとする俺。

 されるがまま、衣服をパージする俺。

 そしてタンスにあったジャージへと着替える。

 まったく恥ずかしい思いをした。

 俺は布団に潜ると頭を出して目を閉じる。

 冷たいものが額に触れる。


「タケルくん、大丈夫!?」

 玄関から甘い声が上がる。

 龍王寺の声だ。

「なんで龍王寺ちゃんがここに?」

 訝しげな視線を向ける色恋さん。

 無理もない学園のアイドルが同じアパートに住んでいるとは思わなかっただろう。

 というか思っていないみたい。

「ええっと。いいじゃない。それよりもタケルくんは無事なのですか?」

「あなたにしてもらうことなんてないわ。この泥棒猫」

「そういうあなたは誰よ。なんでタケルくんの家にいるのです!」

 怒りを露わにする龍王寺さん。

「あんたたち、いい加減にしなさい」

 そう活を入れたのは幼馴染の美鈴みすずだった。

「風邪を引いている人がいる部屋だとは思えないわ」

 美鈴は苛立ちを露わにして二人を説教し始める。

「本当に大事なのは病人でしょ。少しは分かった?」

「はい」「すみません」

「わかったらお米を研ぐ。風邪薬を買ってくる!」

 美鈴の言葉にハッとした二人は慌てて用意を始める。

 龍王寺は料理を、色恋さんは薬を買いにいった。

 美鈴は困ったように眉根を寄せて俺に付きそう。

 俺のことフッたのに。

 腹の奥でどす黒い気持ちが湧いてくる。

 だが熱っぽさで身体が思うようには動かない。

「落ち着いて。私だってタケルのことは見てきたつもりよ。あんな噂がたったのも私のせい」

 何を言っているんだ? 美鈴のやつ。

「私、本当はタケルのこと好きだったみたい。今まで気が付かなくてごめん」

 もしかして少しの差があれば、タイミングが合えば俺たちは付き合っていたのか?

「でも。ごめんね。あなたの周りにはこんなにも素敵な人がいるじゃない」

 じわっと涙を浮かべる美鈴。

「ごめんね」

 そう言って頬にチュッとする美鈴。

 困惑する俺をおいて、そそくさと立ち上がる。

「あー! キスしたー!」

 そんな子供のようなことを言うのは龍王寺。

 ちょうど炊飯器の電源を入れて俺の様子を見ようとしていたらしい。

「わたしだってするもん!」

 いつもよりも数段子供っぽいことを言う龍王寺。

 そして右頬にチュとキスをする龍王寺。

「上書き保存よ。ちゅ」

 そう言ってまたもやキスをしてくる美鈴。

 俺も知らなかったがこの二人はキス魔なのか!?

「買ってきたよ〜!」

 伸びやかで元気な声を上げて玄関を開けたのは色恋さん。

「シー……!」

 美鈴が唇に指を当てて色恋さんを制する。

「病人に大声は禁物ですよ」

 続けるようにつぶやく龍王寺。

 うんうんとうなずいて見せる美鈴。

 ホントはお前ら仲良いだろ……。

「ごめん。静かにするね」

 元気が取り柄の色恋さんだが、口を真一文字に閉じる。

 そんな姿が微笑ましく思った。

「まあ、あとは料理を作るだけね」

 計算高い美鈴のことだ。

 何か考えているに違いない。

「料理ならわたし作れます」

 立候補する龍王寺。

 俺はボーッとした頭で聞き届ける。


 そのあと、龍王寺がおかゆを作り、美鈴が俺の体温を測る。

 おかゆはとき卵とごまをちらしたシンプルなものだっった。

 体温計を見つけたのが美鈴だったから測ってもらった。

 ちなみに色恋さんは部屋を軽く掃除してくれていた。

「お兄ちゃん。ただいま」

 そこに義理の妹という最大の爆弾が投下されたのである。

 集まった四人はバチバチと火花を散らすように睨み合い、これからどうやって俺を看病するかで盛り上がっていた。

「だから! ワタシのお兄ちゃんだから!」

「いやいや幼馴染だから……」

「フッた人がなによ!」

「わたしは付き合っていたから」

 平行線になっていくみんなにようやく重い腰を上げる俺。

「静かにしてくれ」

「「「「……はい。すみません」」」」

 四人のヒロインたちは素直に従ってくれた。

 食事も終えて、薬も飲んだ。

 そっと目を閉じていれば、眠気がましてくる。

 すっかり眠りこけていると夜更けになる。

 どうやらみんな帰ったらしい。

 そうだよな。明日も試験あるし。

 そうつぶやき、俺は参考書を手にする。

 小腹の空いた俺は簡単なものを作り始める。

 茶色い生姜焼き、緑のキャベツのみじん切り。

 俺にしては珍しい彩り。

 食べてみるが、おいしくはなかった。

 味覚もやられたらしい。

 ダメだ。

 再びベッドに潜り就寝する。

 明日の試験、どうなるんだよ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る