第02話B 龍王子 紗倉
「紗倉っち。なんだか最近浮かれていない?」
「え。そ、そう?」
「最近、彼氏できたって噂だし」
「それネ! あの赤井クンとでしょウ?」
澪、香織、楓の三人が嬉しそうにこちらをつついてくる。
「ふぇ!? そ、それは」
わたしは答えることができずに赤くなった顔をふるふると横に振る。
「いやーん」
「なんだか乙女モードに入ったわネ」
「ああ。でも紗倉なら大丈夫だろう」
楓と香織が苦笑を浮かべる。
「しかし、紗倉なら赤井君のことを籠絡させられるだろう」
ふむふむと頷く香織。
「いや、彼はなかなかの堅物ネ。難しいと思うネ」
楓が横から声をあげる。
「まあ、紗倉は頑張れ」
澪が乱雑に応援してくれている。
「はいはい。ありがと」
泣きたくなるような言葉にテキトーに返す。
「でも――」
「何か悩んでいるね。どうしたの?」
香織が小首を傾げる。
「えとね。お弁当作ってきたの」
どんがらガッシャンと言う音が鳴り響かせ、椅子からずっこける香織たち。
「え。本当?」
「う、うん。ダメ、かな……?」
「いやいいと思うよ」
「彼女からの手作り弁当なんて、男子高校生が喜びそうな言葉ネ!」
「そ、そう? なら――」
すーっはーっとため息を吐き、気持ちを整えるわたし。
「行ってくるんだネ。紗倉っち」
「う、うん。でも食べてもらえるのかな」
「さっきも言ったじゃん。喜ばない男子はいないよ?」
澪がわたしの背中を押してくれる。
窓際に集まった一団に向かってそろそろと歩き始める。
その中にいるタケルくんがすっごく格好良くて視線が向いてしまう。
「なんだ?」
「一緒にお昼でも、と思いまして」
タケルくんの一声にわたしはドキドキする。
友達さんがそっと離れていく。
気を遣って頂けたみたい。
良かった。
わたしは男子はあまり得意じゃないもの。
頑張った甲斐があったよ。
わたしはタケルくんと一緒にお昼をともにする。
おいしかったらしく、満足そうな顔をするタケルくん。
それが嬉しい。
☆★☆
「やったじゃん。紗倉」
「うん。心臓が張り裂けるかと思った」
「どうどう? 赤井君何か言っていた?」
テンションの上がる澪。
「うん。おいしかったみたい♡」
「本当に嬉しそうにしているね。まあ、紗倉の気持ちが成就したんだものね」
「やだな。まるでわたしが死んじゃうみたいじゃない」
クスクスと笑みを浮かべるわたし。
「それで? 次はどんな手で彼と接近するのヨ!」
ワクワクした様子で駆け寄ってくる楓。
その姿はわんこみたい。
可愛い同級生の頭を撫でて、答える。
「うん。明日もお弁当作ってくる!」
「え。それだけ……?」
澪がショックを受けたように立ち尽くす。
だってもう偽ではあるけど、恋人なんだよ。
これ以上の幸せを望むなんて神に対する
「せっかく恋人になったんだから、やっちゃいなよ!」
澪が危険なことを言う。
「やっちゃう?」
「あー。そう言えば、この子初恋もまだだったんだ……!」
澪がそう言って頭を抱える。
「それなら放課後デートなんて提案してみたらどうだい?」
香織はニタニタと笑みを浮かべて訊ねる。
「ほ、放課後……デート!?」
わたしはびっくりして赤面を浮かべる。
「ええと」
「まあ、妥当だネ」
「そうだよ」
「むむむ。分かった。わたし頑張る!」
ドキドキする気持ちを抑えてタケルくんに向かって歩きだす。
でも――。
すぐに引き返す。
ドキドキして顔を見られない。
「しっかりしなさいよ」
「ま、まだ時間はあるじゃない」
まだ五限の休み時間だ。
あと放課後がある。
って……、
「あと放課後しかないじゃん!?」
「今更気がついたの?」
「も、もう……」
わたしはできないかもしれない。
授業を受けている間もそわそわして落ち着かない。
このままじゃ、勉強がおろそかになっちゃう!
「そ、その……一緒に帰りません?」
「え。ああ……」
わたしは勇気を出してタケルくんに声をかける。
やっぱり偽でも恋人の威力はすさまじいらしい。
乗り気ではないタケルくんだけど、OKしてくれた。
やった。わたし、嬉しい!
翌日。
「やあ、紗倉。昨日はどうだったの?」
澪がニヤニヤしながら聞いてくる。
あまり深くは言わない方がいいよね。
「うん。やっぱり、わたしタケルくんが好き」
「ほほう。のろけ話ってわけね」
「そ、そんなじゃないって!」
「まあ、気持ちは分かるよ。恋人だものネ」
楓も乗っかってくる。
「もう。そんなんじゃないってー」
照れくさくなり、そう呟くわたし。
「じゃあ、あたしが盗っちゃおうかな?」
「やめて!」
「えー。でも赤井タケルくん、けっこうなハイスペックなのよね~」
澪が舌をちろりと出して熱っぽい顔を浮かべる。
「もう、ダメ! 澪は特にダメ!!」
澪もスペック高いもの。
わたしにとってはそれくらい強い相手なんだもの。
成績は三位。スポーツはだいたいのことをしている。
わたしが努力型なら彼女は天才肌。
毎日のランニングも、復讐予習もかかさないわたしとは違うもの。
そんな澪に盗られるのは嫌。
「もう、澪のバカ!」
「あはは。さすがだね。二人とも」
香織がクスクスと笑む。
☆★☆
俺の隣には彼女がいる。
彼女はどこまでも一緒にいてくれた。
高校生のときから。
今の俺がいるのは紗倉に出会えたから。
就活のときも、仕事で忙しいときも。
みんな彼女がいたからやってこれた。
料理店で働き、俺は料理のスキルを身につけてきた。
そろそろ自分の店を持てるだろう。
そのために彼女も頑張っている。
紗倉、義妹の
様々な人と出会い、いろんな体験をした。
俺は間違いなく青春を謳歌していた。
八股に認定されたときはショックだったけど、やっぱり俺には彼女しか考えられなかった。
これからも彼女と一緒に優しくて暖かな世界を作っていこうと思う。
これから先も色々とあるかもしれないけど、彼女と一緒なら――。
そう。ここまできたんだ。
乗り越えてみせるさ。
恋人っていいぞ。
俺の世界を変えてくれた。
明日には結婚式を控えている。
この街で出会い、結婚する。
彼女も喜んで受け入れてくれた。
あのときの涙は忘れない。
「緊張するな」
俺が主役ではないと分かっていても、緊張してしまう。
結婚式。
そのあとも続く世界。
結婚生活。
そちらも大事にしたい。
でも、ここで一旦の区切りとしよう。
それまで、この物語は一旦の終わりを迎える。
みんな元気でいてくれ。
そうであれば、また物語の続きを知ることができるかもしれない。
生きていればいいこともあるさ。
また会う日までさようなら――。
~完~
学園アイドルヒロインを推して溺愛したら、なぜかハーレムになっていました。 夕日ゆうや @PT03wing
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