第12話 スマホを忘れただけなのに……
果たし状の件で裏庭にきたが、そこに立ち会ったのは見覚えのある少女だった。
ただし、忍者の格好をしていた。
「どどど、どうした?
俺の幼馴染みにして初恋の女の子。
この間、告白してフラれたばかりの相手。
今更なんの用だろろう?
「あ、あんた。なんで私に話しかけてこないわけ!?」
「え。いや、フラれたし……」
「フラれたからって、しゃべっていけないわけじゃないんだからね!!」
「でも、傷ついたし……。トラウマになったし……」
「え。あ、ご、ごめん。でも私たち、幼馴染みじゃない」
「まさか、寂しいの?」
「え、いや。ま、まさか……! タケルがいなくても寂しくなんてないんだからね!」
なんだろう。どことなくツンデレ要素を感じるのは。
「それで?」
「それで、って……。久しぶりに会った幼馴染みに何か言うことないわけ?」
「久しぶりって言っても一週間くらいだし」
これ以上、何を話していいのかも分からない。
「じゃ、じゃあ……」
立ち去ろうとする俺を引き留めるように袖をつかむ美鈴。
「私のこと、嫌いになった訳じゃないよね?」
「うん。それは違う」
「なら、話してもいい? だめ……?」
可愛い女の子に弱いな~。
「まあ、少しくらいなら……」
「やった!」
「え」
「ううん。なんでもない。こっちの話」
この世の中には聞かなくてもいいこともあるんだよね。
下手に聞くと、責任問題になるし。
「じゃあね」
「うん。また」
俺は自分のアパートへ小走りで向かう。
玄関を開けると、中には童貞を殺す服をきている龍王子とはちあう。
「な、なんて格好しているんだ!?」
「ふふ。お帰りなさい。あなた」
「なんの冗談だ?」
「いいじゃない。これでもタケルくんのことを待っていたのです」
「別に待っていて欲しいとは言っていないんだがな」
「それで? 果たし状の件はどうなったのですか?」
「お前が気にかけるような話じゃない」
「……そうですか」
あくまでも偽の恋人である龍王子に話す意味もないだろう。
「なんだかのけ者にされた気分です」
「しかし、今日はまともだな」
「あれ以来反省したのです。少し積極的すぎた、と」
「積極的?」
いやそんな言葉で片付けられるような問題ではない気がするが。
「まあ、いいじゃないですか」
「よくないだろ。お前の奇行でみんな驚いていたぞ」
「みんな?」
「失礼、主に佐里だな」
「ですよね。知っていました」
はははと乾いた笑みを浮かべる龍王子。
「で。佐里は?」
「友達と遊ぶみたいですよ。合鍵、借りました」
「あいつ、友達いたんだな」
「失礼ですよ」
「別にいいだろ。妹なんだし」
「あのですね。妹をなんだと思っているのですか?」
「面倒くさい奴」
「これを佐里さんが聞いていなくて良かったです」
あいつのことだ。今頃、くしゃみでもしているだろう。
「それじゃあ、今日も夕食をお願いします!」
「それなんだが、食材が足りない。買い物に付き合ってくれ」
「……いいですよ。それくらい。あとお金はわたしが持ちます」
「どいう了見だ?」
「おいしいものにはそれなりの対価を、と思いまして」
働いたことへの対価と言いたいのか? 確かにその通りだ。
料理店に入ってお金を払わない人はいないだろう。
そう考えれば自然な発想か。
「では行きましょう?」
「ああ」
俺たちは身支度を調えるとさっそく近くのスーパーに向かう。
スーパーはやしは野菜が休めでよく利用している。
「今日は何が食べたい?」
俺は龍王子の要望を聞こうと尋ねてみる。
「なんでもいいですよ。おいしいなら」
「そうか。じゃあ、
いつもなら200円を超えるが今は120円ほどだ。買い時だろう。
キャベツ二玉を手にすると、ニンジン、長ネギ、豚肉などなどを買い求める。
買い物を終えると、両手にエコバッグを掲げて、アパートに戻る。
その途中でネコと戯れたのはまたの話。
「わくわく!」
俺が料理をしている間、暇になっていた龍王子はこちらを見てそう呟く。
実際にワクワクなんて言うやつ、初めてみた。
「ま、テレビでも見ていてくれ」
俺は適当につけた番組に視線をやる。
「はーい!」
元気よくテレビを見始める龍王子。
素直で可愛いな。
今日に限って、だけど。
まあ、本当に反省しているのならいいけど。
回鍋肉、レタス中心のサラダ、野菜炒め、コンソメスープ、白米を机の上に並べていく。
「わぁああ、おいしそう!」
テンションの上がる龍王子だ。
「だろう?」
「でもなんで紫色にしあげるのですか?」
「そっちの方がうまそうだろ?」
「え」
「え?」
龍王子のやつ、何を言っているんだ?
でもあっちもそんな顔しているんだよなー。
不思議なこともあるもんだ。
「まあ、食べるか」
「はい」
箸を伸ばして口に運ぶ。
タレは自家製なので、口に合うか気になったが、龍王子はおいしそうに食べるではないか。その顔を見ると作ったかいがあるというもの。
嬉しそうにパクパクと食べる姿がなんとも気分がいい。
食事を終えて、皿洗いをしていると、そわそわし始める偽の恋人。
「どうした?」
「なんだか、悪い気がします」
「あー。気にするな。俺が好きでやっていることだ」
「そ、それならいいのですが……」
実際には片付けた時の皿の置き場とかに困るのだ。
配置が換わっていると、少し不便に思う。
それになれていない人だと皿を割ってしまうことが多い。
でも龍王子は普段から料理をするか。あのオムライスはうまかったしな。
となると、少々もったいないことをしたか?
皿洗いも終えて、俺もテレビを見始める。
今は世界でも驚きなニュースを取り扱っている番組だ。
「本当に臓器移植をして記憶が引き継がれるのだろうか?」
「でも、細胞ごとに記憶を持っているのなら、可能性としてはありえますよ」
「細胞?」
「はい。なにも記憶しているのが脳だけとは限らないじゃないですか」
「ふーん。そんなもんか」
今の科学では脳の海馬という部分が記憶に関する臓器とされているが……。
「……そろそろ、マッサージしてくれませんか?」
「あー。いいけど、変な声を上げるなよ?」
「はい。もうしません」
「ならいい」
俺はベッドに寝そべった龍王子の上にまたがり、背中をもみもみとほぐしていく。
ちなみに親の影響でマッサージは得意な方だ。
まあ、その両親が嫌いになったから一人暮らしをしているのだけど。
それにしても龍王子の奴も親の話はしないな。
俺が事情を抱えているように、龍王子もまた悩みを抱えているのかもしれない。
聞きたくないことを無理に聞く必要もないだろうし。
俺の出生の秘密とか、教えたくないものな。
「気持ちいい」
「おい」
「失礼。感想がもれてしまいました」
「今回だけだぞ」
そう言ってもみほぐす位置を少しずつ変えていく。
マッサージを終えると、龍王子は機嫌良さそうに帰っていった。
「まあ、いいけどさ……」
その背中がどこか寂しそうに見えたのは何故だろう。
あの学園アイドルである龍王子が見せた一瞬の寂しさ。
友達だってたくさんいるだろうに。
それでも俺に付き合ってくれているのは、本当に弾よけのためだろうか?
……いかん。
自分の良いように考えてしまえば、いくらでも疑念が湧いてくる。
それではダメなのだ。
彼女にも事情があり、俺にも事情がある。
正直、学年一の美少女とニセモノであっても恋人になれた幸運を喜ぶべきなんだろうな。
「ん? あいつのスマホか?」
机の上に置きっぱなしになっていたピンク色のスマホを見やる。
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