第3話 放課後デート!

 放課後になり、大河と綾崎とだべっていると、龍王子さんが話しかけてくる。

「そ、その……一緒に帰りません?」

「え。ああ……」

 偽の恋人とはいえ、一緒に帰らないのも不自然か。

 なるほど。さすが龍王子さんだ。できる女~♪ ひゅーひゅー♪

 だから俺はどんな立場だよ。

「いいよ。じゃあな。大河、綾崎」

「てめー。マウントとりやがって!」

「文句はあとで聞くって」

 俺は龍王子さんを連れて下駄箱に向かう。

「良かったのですか? その、お友達との語らいを邪魔してしまって……」

 なんて奥ゆかしいんだ!!

「かー。目玉ほじくってくる!?」

「意味分かりません!?」

「じゃ、じゃあここで!」

「いや変わっていませんよ!?」

 耳をかっぽじるみたいな?

 うん。自分で言ってみて理解できなかったわ。

「まあ、今日は語らう必要もないよ。うん」

 まあ偽の恋人だからあまり実りある放課後ではないのかもだけど。

 でも偽ものでも大事にしたいな。この縁は大切にしたい。

 うん。まあ、俺の一方的な気持ちだけど。

「それにしてもタケルくんはモテモテですね」

「え。なんで?」

 さすがの龍王子さんでも、この言葉には腹が立った。

「いや、モテないから。なんだよ、急に」

「いえ。でも義妹いもうとさんや幼馴染みの美鈴さんとか」

「美鈴にはフラれたし、佐里はただの義妹だし……」

 俺、何か間違ったこと言っている? たぶん、間違っているのは龍王子さんだよね?

「あ……。すみません。浅慮でした」

「難しい言葉を使うね」

「そうですか?」

 龍王子さんは困ったように頬を掻く。

 まあ、可愛いけどさ。

 なんだか堅苦しいんだよね。

 もっと気楽に生きればいいのに。

 そんな風に会話しているとアパートに着いてしまった。

 もっと話したかったのに。

「じゃ、じゃあ……」

「あ、あの……!」

「はい」

「一緒に夕食、食べませんか?」

「ええ!! いいの!?」

 昨日食べたオムライスは絶品だった。まるで洋菓子店のフルコースみたいな!?

「な、なんで混乱しているのですか……。いいですよ。夕食くらい」

 クスクスと笑みを浮かべる龍王子さん。

「わ、分かった。いいというならお言葉に甘えよう」

 うんうん。嬉しいことは続くものだ。

「ふふ。まずは餌付け……ですね」

「ん。なに?」

「いえ。家訓を思い出していただけです」

「そっか」

 家訓か。そんなもの俺にはないからな。

 ガチャッと音を立てて解錠する龍王子さん。

「さあ、どうぞ」

 そう言って部屋を開ける。

「お、お邪魔しまーす」

 二回目の女の子の家だけど、ちょっと緊張する。

 だって俺たちの関係って、偽の恋人なのだから。

「そこのソファで待っていてください」

「お、おう!」

 俺は答えるとソファにちょこんと座る。

「テレビつけてもいいですよ」

「そ、そっか」

 机の上にあるリモコンを手に取る。

 これか?

 ポチッとな。

「きゃぁあ!」

 エアコンが起動アップを始め、最大風量で龍王子のスカートをめくり上げる。

「ああ! すまん!」

 俺は慌ててリモコンを触る。

 スカートが余計にはだける。

 電源をオフにすると、エアコンは止まった。

 とはいえ、最近異常気象で暑い日が続く。

 今日も30℃を超えている。

「リモコン。見つかりましたか?」

 何ごともなかったかのようにこちらを見やる龍王子さん。

 いやちょっと顔が赤いかも。

「あ。ああ。こっちか?」

「それです」

「分かった」

 そう言ってテレビをつける。

《赤ちゃんは何人欲しいですか?》

 テレビのリポーターが街角でアンケートをとっているらしい。

「わたし、三人くらい欲しいです!」

 元気よく答える龍王子さん。

「へ? いや、これテレビのアンケート!」

「す、すみません……」

 またも顔を赤らめる。

 いやなんだか可愛いんだが。

 チャンネルを変えてニュースを見る。

 じわじわと暑くなっていく室温。

 よく見るとコンロの前に立つ龍王子さんが汗だくになっていた。

 制服の薄いブラウスではうっすらと下着が見えている。

「そう言えば、タケルくんはアレルギーありますか?」

「え。いや、ないよ」

 慌てて顔を背ける俺。

 小さな谷間に汗がしたたり落ちるのを見てはいけない気がした。

「好き嫌いはあるが」

「認めません。なんであれ美味しく食べるのがマナーです」

 有無を言わせずに料理を続ける龍王子さん。

「まあ、セロリとか、パセリ。あと酢の物が苦手だ――ぁあ!?」

 言っているそばでお酢をキュウリやわかめと混ぜる龍王子さん。

「いいではないですか。好きになってもらいます」

「うぅ、つくってもらっている手前、何も言えん……」

 しばらくニュースを見ていると、今度は動物園での赤ちゃん特集を見せてくる。

「動物園、行ってみたいですねー」

 そう言いながら机に料理を並べる龍王子さん。

 キュウリとわかめの酢の物、唐揚げ、生サラダ、味噌汁、白米に納豆と、味付け海苔。

 うまそうな匂いである。

「うまい!」

「まだ食べていないのに!?」

 目を見開く龍王子さん。

「いただきまーす!」

 俺は高らかに言うと、箸を持ち上げて、唐揚げを頂く。

「おいしい。スパイシーな味だね」

「そうなのです。うち自慢のスパイスです」

 パクパクと食べると、龍王子さんは嬉しそうに目を細める。

「ん。どうした?」

「いえ。美味しそうに食べるなーって思って……」

 少し曇った顔を見せる。

 何かあるのか?

 まあ、いいや。うまいし。

 パクパクと食べすすめると、今度は酢の物に箸を伸ばす。

 これだけおいしいんだ。きっと酢の物も。

 そう思い、食む。

「美味しいでしょう?」

「う、うーん?」

 いや正直、そこまで嫌うほどではないが、でもおいしい、か?

「いや、まあ……」

「不服そうですね。顔を見ていれば分かります」

 文句の一つも言いたげな顔をする龍王子さん。

「あー。気に入らないことがあったら言ってくれ。俺って疎いみたいだし」

「そう、ですね。そうかも……」

 たっぷりと時間をかけて口を開く龍王子さん。

「もっと美味しそうに食べてください」

「無理。舌があわない」

「ぷーっ!!」

 龍王子さんは頬を膨らませて子どものように拗ねる。

「いや、これは……」

 参ったな。こんな顔をされたら食べない訳にはいかないじゃないか。

 二度目を食べて、笑顔を見せる。

 そうすると、少し表情が和らぐ龍王子さん。

 ん。これは大変なことになったかもしれない。

 食事が終わり、俺は龍王子さんに感謝しているし、伝えもした。

 でもそれでも足りないと感じた。

「あー。龍王子さん」

「はい」

 暖かな声で応じる彼女。

「何かしてほしいこととか、ないか? お礼がしたい」

「ん。なら一緒にゲームしてくれませんか?」

「ゲーム? そんなんでいいのか?」

 こくりと頷く龍王子さん。

「はい。友達が少ないので」

 ニヘラと笑みを浮かべる龍王子さん。

「分かった。でも今日は遅いから明日、な」

 明日は土曜日で学校が休みだ。

「はい。待っています」

 やっぱり大和撫子やまとなでしこのような奥ゆかしさがある。

 美しく愛らしい。そんな言葉が似合うとても素敵な彼女だ。

 あわよくば、本物の彼女になってくれないかね。

 まあ、高望みは身を滅ぼすか。

 堪えて、俺は別れる。

 といってもアパートが一緒だけど。

 201号室に戻ると、俺は小汚い部屋を見渡す。

「掃除、するべきかな……」

 綺麗な龍王子さんの部屋と比べると酷い有様ありさまである。

 まあ、明日するか。

 そう思い歯磨きをし、シャワーを浴びて、すぐに寝床に入る。

 明日もいいこと、ありますように!

 いやあるんだよ。龍王子さんとのゲームがあるんだよ。

 ニヤニヤしてしばらくは眠れなかった。

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