第15話 シャワー

 ネコのことで少し機嫌が悪くなった龍王子。

 なんとかご機嫌をとりたいけど。

「よし。龍王子の好きな唐揚げを作ってやるよ!」

「わたし、別に唐揚げが好きな訳じゃないよ?」

「え」

 参った。

 龍王子の好みが分からない。

 こういったとき、何を作ればいいんだ?

「あ、餃子食べたいのです」

「餃子か。いいぞ。近くの無人販売所にある」

 帰りすがら寄ってみると、餃子が売ってあった。

 これにしよう。

 お金を入れると、俺たちは自宅へ向かう。

 玄関に入ると、すでに一人分の靴がそろっている。

「ん。本当はタケルくんの手料理が食べたかったのです」

「餃子はすぐには作れない。休みの日に作るから、今日はこれで我慢してくれ」

 餃子のパックを開けると、ニラの匂いが立ちこめる。

「ここのはおいしいんだぞ?」

「お兄ちゃんの餃子が一番だよ!」

 佐里がそう言って通路兼キッチンにやってくる。

「お兄ちゃんにまっかせなさい!」

 そう言うと、龍王子と佐里はなにも言わずに部屋に入っていく。

 いや、そんな反応されると、寂しいんだけど。

 手伝うよ! くらい言ってもいいじゃないか?

 餃子以外にも中華スープや中華丼を作る。

 それらを机の上にならべていく。

「相変わらず紫色ね」

 そう言いながら美味しそうに食べる二人。

 文句は色くらいなもので、他は何も言わない。

 食っているときが幸せそうで、俺も満足する。

 食事の後のマッサージの時間も忘れずにこなす。

 と見ていた佐里も、おねだりを始める。

「妹にも何かあってもいいじゃない?」

「何んだよ。急に」

「マッサージ、とか。して欲しいな~」

「おねだりするならさっさと言え。俺がそんな薄情ものに見えるか?」

「いや、そういうわけじゃないけどね。なんだね。ははは」

 乾いた笑みを浮かべる佐里。

 何か言いにくそうに呟く義妹。

 しかし、前までは邪険にあしらうことが多かった佐里だが、今は大人しい上に素直だ。どういった風の吹く回しなのか。

「ま、でも人は変わるか」

 若干ホラーに感じるほどに。

「ところで佐里。勉強の方はどうなんだ?」

「ギクッ!」

「あの、わたしの目からしてみればまだまだと」

「ギクッギクッ!」

 困ったように曖昧な笑みを浮かべる龍王子。

 龍王子に勉強を教わっているはずだが、佐里の頭の悪さにはため息が漏れる。

 同じ親から生まれた者とは思えない差だ。

「ま、恋バナとか、できたし? ただ遊んでいたわけじゃないし?」

 遊んでいたのか。

 俺がきっと龍王子を睨むと、口笛を吹いてそっぽを向く。

 口笛、下手だな。

「しかし、恋バナか」

 女の子らしいな。

「な、なによ! お兄ちゃんのことなんて何も話ていないだからね!」

「分かっているよ」

「分かっていないじゃない」

「?」

「なんでもない!」

 佐里は何を言っているのだ?

 俺には理解できない。

「じゃあ、お兄ちゃんが教えて♡ ね?」

「はいはい。今から勉強をするぞ」

「はい!」

「わたしも見ていていいですか?」

 龍王子が怖ず怖ずと訊ねてくる。

「いや、龍王子さんは学年一の才女じゃないか」

「その言葉嫌いです。努力を軽んじているように聞こえるのです」

「悪かった……」

 まさか龍王子さんがそんなことを気にしているなんて思わなかった。

 それに頭が良いことを失念していた。

 これでスポーツもできるのだから、すごい人だよな……。

 改めて、俺が偽の恋人でいいだろうか?

 なんだか、あり得ない体験をしている気がする。

 俺みたいなオタクで陰キャで、それでいてコミュ障なのに。

「お兄ちゃんてば卑屈だよね~」

「どういう意味だ?」

「さ。分からなーい♪」

 鞄から教科書やノートをめくる。

「龍王子さはどうしている?」

 やはり頭の良い人は参考になるだろう。

「丸暗記」

「え?」

「丸暗記だってば」

 ええ――。頭良いというよりもただバカなだけでは?

「あ。でも数学は違うよね。応用ができないと……!」

「数式と数尾上手いるかな。あとは計算四季に当てはめるだけ」

「……」

 なんとうか、ご愁傷様です。はい。

 俺は勉強のポイントを教えていくと佐里は理解していった。

 頭は悪くないらしい。

 それがちょっと嬉しい。

 さすが我が妹である。

 ……血つながっていないけど。

 勉強を教えている間に、シャワーを借りる龍王子。

 そんな彼女がワイシャツ一枚で風呂場から上がってくる。

 そのワイシャツは俺のものだ。

 髪をお団子にし、露わになった首筋や鎖骨、太もも。

「どうかな?」

「お兄ちゃん?」

「どう答えろと!!」

 大変エッチです、とでも言えばいいのか?

 それも義妹の前で。

 そんなの出来るわけがない。そんな度胸があるわけがない。

 俺、豆腐メンタルなので。

「さ、タケルくんも入って、入って」

「あ。ああ。そうだな」

 勉強を中断すると、俺は風呂場に入る。

 シャワーを浴びていると、後ろからガチャと音が鳴る。

「さ。一緒にはいろ?」

 義妹の佐里だ。

「な、何をやっているんだ! 佐里!」

「いいじゃない。兄妹なんだから」

「兄妹だから問題なんだよ!」

 柔らかそうな膨らみや細い四肢、綺麗な地肌。

 どれを見ても危険な匂いがする。

 俺は桶で大事なところだけは隠す。

「ちょっと! 佐里ちゃん!」

 怒ったような声音をあげる龍王子がやってきて佐里の首根っこを捕まえる。

「あら。ご立派!」

 龍王子がそれだけを残し、佐里と一緒にリビングへ向かう。

「何なんだよ。たくっ」

 おちおちシャワーも浴びてられない。

 そんなふざけた話があるものか。

 シャワーを浴びると佐里の番が回ってくる。

 佐里はパジャマを持って風呂場に向かう。

「で。いつまでワイシャツ姿のつもりだ? 龍王子」

「いいじゃない。わりと気に入っているのだけど?」

 呆れてため息を漏らす。

 こんなの義妹がいなければ理性が飛んでいたかもしれない。

 ふと気がつくと、龍王子はほてった身体が、妖艶に思える。

「ねぇ。お兄ちゃん?」

 そこにはもこもこパジャマを来た義妹・佐里がいた。

「どうした?」

「なんで覗き見してこないのよ!?」

「何言っているんだよ! お前!?」

「そんなに魅力がないのかな!」

「何言ってんだ。兄妹で、しかも付き合っていない相手の裸を見るのは問題があるだろ!」

「お兄ちゃんのそういう真面目なところ、好きだけどさ……」

 呆れたようにため息を吐く佐里。

 いやなんで呆れているのか、分からないけどな。

「もういいだろ。今日は帰れ」

 俺は二人を追い返すと、スマホが鳴る。

「誰だよ。こんな時間に」

 今は午後十一時だ。

 名前を見ると色恋さんだった。

『こんばんりんこ!』

「こんばんは」

『ノリが悪いぞ~』

「こんな時間にかけてくる方が悪い」

 スマホを耳元に当てていると突然、声が大きくなる。

『ごめん。ごめん』

 よく見るとスピーカーモードに切り替わったらしい。

 俺はスマホを話して通話することにした。

 だが、それだけではない。

 なんとビデオ通話にしてしまったのだ。

 そこには色恋さんの薄い青色のキャミソール姿が見える。

 風呂上がりなのか、赤く染まっている色恋さん。

『実は、さ。大変なことになっているんだ』

「大変な、こと?」

 訝しげな視線を向けると、色恋さんは困ったように指先をくっつける。

 俺は色恋さんの話を聞いてみると、ショックを受ける。

 このままでは色々と問題が発生し、俺の地位も下がるばかりか、龍王子にも迷惑をかける。

 なによりも、色恋さんがピンチになる。

 この状況を打開する方法が見つからない。

 これはマズい状況になった。

 この苦難を乗り越えるには一つ手はあるけど。

 だけど、それはしたくない。

 どうする? 俺!

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