第26話:あの日から僕らはいつまでも
――魔法。それは魔術の到達点であり、本来は起こりえない奇跡の再現……というのが一般的な解釈だが、実際は違う、と教わった。
魔術の研鑽によって到達するという側面もあるにはあるが、魔法に届くために必要なのは、強い渇望。奇跡すらも呼び起こす――いや、むしろそれを掴みに行くような強い意思。別に魔術に限らない。剣士であろうが、絵描きであろうが、魔法に至る可能性はある。強い願いを持ったものは、世界に見いだされ、その声を聴くのだ。
――例えば、物語を愛し、その再現を願ったもの。
――例えば、死の淵で、さらなる力を願ったもの。
――例えば、四肢を失い、絶望の中で代替を願ったもの。
私を含む仲間たちは、訓練施設で魔法の再現実験も受けていた。――強い願いを持っていれば、魔法に至る可能性があるのでは、と。
だが、私たちのような造られた子供には、強い願いや想いは生まれなかった。――日々生きていくだけで、訓練をこなしていくだけで精いっぱいだったのだ。
そうして、魔法にも至れず、それ以外の才能も見いだされず、放逐された私たちだが――今私は、初めて、というくらいに強い想いを感じていた。
この、目の前にいる。狐の化身を倒し、狐の少女を守りたいと。
――世界よ、どうか、奇跡を私に――!
◆◇◆◇◆◇
――力を願うもの。あなたの声は届いた。
現実とも、夢とも取れない世界の中で、私はその声を聴いた。
――目の前の、障害を打倒したいという強い想いを受け取った。
世界との対話。これはつまり――魔法に至る、過程。これなら、きっとあの狐も。
――だが、足りない。
「…………え?」
――願いも、そのための研鑽も、そして才も。何もかも、足りない。
「……そんな……願ったものに、奇跡を――魔法を授けるんじゃないの?」
――魔法に至るものは皆、相応の才を持ち、弛まぬ努力をし、その末に渇望した。あなたは、すべてが、中途半端だ。それでは、魔法には至らない。至れない。
その言葉に、絶望した。――私では、魔法を使えない。誰にでも起こりうる奇跡なのかと。危機的状況で願えば、叶うものなのかと思っていたが…………よく考えたら、当たり前だ。皆がピンチで奇跡を願い、それが叶っていたら、世の中は魔法使いで溢れてしまう。
奇跡は、選ばれたものにしか、届かない。私のような、造られた半端ものに、魔法を使うことなんて、できない。
そうか。私は、何も成せないまま、死んでいくのか。――それでも、少しの残念な気持ちと、申し訳ない気持ちしか生まれなかった。
「――こんなだから、私は、魔法に届かなかったのかな」
意識が、現実へと引き戻されていく。
そうして、私は、あの炎に焼き尽くされて、終わる。
それが、運命。
――あぁ、これが、私の、最期か。あっけなかったな。せめて、全力の盾で、他の人たちを守ろう。
――スピネル、ルチル。そして、コハク。ばいばい。
「――だから、すぐに自分を犠牲にしようとする癖やめろって言ったろ!」
「――そうですよぅ、私たちのこと、すぐ忘れますねぇ、アレクさんは!」
現実に戻る途中で、声が聞こえた。その瞬間に、両手が、ぎゅっと、握られる。
右手にはスピネルが、左手にはルチルが。それぞれの手を、繋いでくれていた。――まだ、終わりじゃないんだと。
涙が溢れそうになった。両手の温もりを握り返し、私は再度世界に向けて言葉を発する。
「そうだよね。私たちは、三人でやっと一人前だから……だから――ねぇ! 三人の願いなら、想いなら。魔法に、届かないかな!?」
――私一人で、魔法に至れないのならば。二人の願いと、才と、努力を足したら。
もしかしたら、届くんじゃないだろうか。
不完全な、対して強くもない、私たちでも。――奇跡が。
――承認した。あなたたち四人の想いを受け、魔法へと、至ろう――。
「……四人?」
その呟きは、闇に消える。ただ、一つ、ぎゅっと、私に抱き着く温かい体温が。
――ずっと一緒だよ。
そう言ってくれた気がした。
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