初心者パーティの子育て冒険譚
里予木一
OPENING
「うわあああああああああー!!!!」
洞窟の中を必死に逃げる。背後から、荒い息遣いの重い足音が響いてくるが、振り向いている余裕はない。先頭を行くシーフ兼レンジャーのスピネルが、真っ赤な髪を振り乱しながら口を開いた。
「アレク! こっちは全然出口とは方向ちげーぞ! 下手すると追い詰められる!」
「ええー! でも止まるわけにはいかないじゃん! 何とか案内してよ!」
「あたしマップ持ってねーんだよ! 逃げ回ったから方向もよくわからん!」
「……ま、待って、まってえええええー!」
私たちが揉めている一歩後ろから必死に追いかけてきているのは、ヒーラーのルチルだ。所々金の混じった、色素の薄い髪がキラキラと輝いているが、あいにく見ている暇はない。
「あはははははは! おもしろぃねぇ!」
私に背負われた、幼い少女が、ケラケラと笑う。あまり状況を理解していないらしい。――勘弁してよ。
「まずい! 行き止まりだ!」
うう……ついに行き止まりに着いてしまった……。洞窟の終端。部屋の中には岩がいくつか並んでいる。座って休憩くらいはできるだろうけど、魔物に追われている状況ではあまり意味はない。
「ど、どうするんですかぁ……」
ルチルがぜえぜえと荒い息を吐いている。
「――戦うしか、ない……?」
私は、背負っていた少女――コハクを地面におろした。
「コハク。私たちは、これから魔物と戦う。あなたは部屋の……端っこ、岩の影に隠れて静かにしていて。もし私たちが負けたら、頑張って隙間から逃げるか、隠れるかしてね」
五歳くらいの少女に理解してもらうのは厳しいかと思ったが、彼女は先ほどまでとは違う、真剣な顔で頷いた。
「あーくそ! たぶんオーガだぞ、アレ。勝てるとは思えないが……覚悟を決めるしかないか」
オーガというのは、角を生やした人型の魔物だ。体は大きく、筋骨隆々としていて、力と生命力が高い。知能はやや低いものの、こん棒などの簡単な道具は使える。――要するに、初心者冒険者には危険すぎる相手ってこと。
スピネルが弓を取り出し、矢をつがえた。全力で逃げたので多少距離は稼げているが、追い付いてくるまであまり時間はないだろう。
「全力で行こう。私が前衛に立つから……ルチル、強化と、回復をお願い」
私も剣を抜き、部屋の入り口を見つめた。手が震えそうになったけど、後ろで隠れているコハクのことを思い、唇を噛んで堪える。
「は、はいぃ……では、とりあえず強化をアレクさんとスピネルさんに……」
ルチルが手にした杖の先端から身体強化の魔術が私たちに放たれた。彼女が扱うのは神聖魔術と言われる、神の力を借りた術で、傷を癒す、病気を治す、に加えて肉体や武器を強化することもできる。
「やるか……よし、あとは虎の子のしびれ薬も使おう。当たりさえすれば動きを鈍らせられるはず……」
スピネルが、矢に薬を塗る。荒い息はもうすぐそこだ。覚悟を決める。
「みんな! 行くよ!」
震える脚を踏みしめて、敵を待つ。今までのことが走馬灯のように思い出された。そもそもなんで、こんなことになったんだっけ――。
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