第8話:偶然の出会い連なり
コハクの話はたどたどしかった。子供に時系列の整理は難しいので、聞けることを聞いて私たちでくみ取る。途中からセーラさんも加わって、情報収集を進めていった。
「コハクは、寝てて、起きたらあの洞窟にいた、ってことかな?」
「うん。夜寝て、目が覚めたらあそこにいたの」
「寝てからお母さんにも会ってない?」
「わかんない。抱っこされた気もするけど、眠かったし」
「とりあえず、コハクの記憶が正しい前提だと、寝てる間に何かしらの方法で、洞窟の中に飛ばされた、って感じか」
スピネルの言葉に、私たちは頷く。
「そうだね。何かの魔術かな……?」
「でも、転移の魔術って相当高位で、そう簡単には使えませんよ。コペルフェリアだってほとんどいないと思いますぅ」
「お母さんって、魔術が得意だった? 魔術ってわかるかしら」
セーラさんは母親の正体を探ろうとしているらしい。確かにそのほうが情報は集めやすいかもしれない。
「んー。よくわからないけど、お母さんは火を出したり雷を出したり色々できたよ」
「……やっぱりこの子もお母さんも、獣人じゃない気がしますねぇ」
「そうね。ちょっと検査してみましょう。少し待ってて」
セーラさんは会議室を出て何やら荷物を持ってきた。
「コハクちゃん。あなたのお母さんを探すために、協力してほしいの。少しチクっとするけど、我慢できる?」
コハクは少し緊張した面持ちだったが、大きく頷いた。良い子だ。
「じゃあちょっと指先に、少し針を刺させてね。冷やすからほとんど痛みは感じないと思うけど……」
そう言って、セーラさんはコハクの指先を氷で冷やした後、針を刺した。これは、血液を採取して魔力を分析するつもりだろう。私たちが冒険者資格を取得する際もこの検査があった。これで大体の種族や魔力量などが分かるらしい。セーラさんは針を抜くと、コハクを一撫でして部屋を出て行った。血液を検査に出すのだろう。
「偉かったね、コハク」
私もコハクの頭を撫でる。この子の髪はさらさらで気持ちがいいな。
セーラさんはすぐに籠を持って帰ってきた。
「とりあえず血液検査には出してきたよ。少し時間かかるから、依頼分の受け取りをしちゃおうか。水の成分は問題なかったから、ボトル受け取るね」
私たちは汲んできた水のボトルをまとめてセーラさんが持ってきた籠に入れる。……重そうだ。
「はい、確かに。これで、受け取り完了……と。これ報酬ね」
セーラさんは手に持った小さな端末を操作した後、手のひらサイズの布袋を渡してくれた。中を開けると小金貨が三枚入っている。
「え! こんなに!? 多くないですか?」
小金貨三枚だと一般的な仕事の一月分の給与より少し多いくらいだ。半日で終わるような仕事でこんなにもらえることはまずない。
「ああ。レベル制の報酬と、高レベルモンスター遭遇の危険手当も入ってるから。あなたたち自分のカード見た? ちゃんと経験値加算されてるわよ」
え? 慌てて私たちは首から下げている冒険者カードを取り出した。肌身離さず持っているように、とのことなのでこの形なのだが、わざわざ見せびらかすものでもないので普段は服の下に入れているのだ。
「あ、やった! レベル4になってる!」
「お、あたしもだ」
「わ、私もですぅ、あんまり活躍してないですけど……」
「依頼達成の経験値と、オーガはみんなで協力して倒した扱いだからね。もちろん一番ダメージを与えたアレクちゃんが多くもらってるとは思うけど」
何はともあれレベルアップは嬉しい。この調子でいけばC級もそう遠くないかも。
「さて、じゃあ私は色々事務処理してくるね。血液検査の結果は一時間くらいで出ると思うから……そうだなぁ、どこかでご飯でも食べてきたら? もう夕飯の時間になるし。ついでに迷子のお知らせとか、この子に関係しそうな情報ないか調べてくるから」
夕飯。その言葉を聞いたとたんにお腹が空いてきた。
「あ、もうそんな時間か。どうする? 宿戻って食べる?」
「どうせまた戻ってくるんだろ? ここの食堂でいいよ」
「あ、あのぅ、私ちょっとシャワー浴びて着替えてきてもいいですかぁ。着替えは持ってるんで」
そういえばルチルは背中スライムだった。この冒険者協会は食堂だけでなく訓練施設もあり、冒険者であればシャワーや更衣室も自由に使える。
「オーケー。じゃあ食堂にいるから、着替えたらおいで。先食べてる。コハク、ご飯食べに行こ。何が好き?」
「コハク、お肉好き! あとたまごやき! やさいきらい!」
「えー、好き嫌いしちゃだめだよー。まぁ一緒にご飯選ぼう」
「お前なんか母親みたいだな」
「えー……せめて姉でしょ、私まだ十六だよ。コハク、おかあさんいくつかわかる?」
「わかんない! わかいって言ってた!」
「なかなか教育が行き届いてるな」
そんなことをしゃべりながら、食堂へ向かう。簡素ではあるが、白を基調とした大きなテーブルと椅子が並んでいて、結構広い。メニューも色々ある。料理はすぐにできるよう、特殊な魔道具で冷凍されたものをその場で解凍する方式だ。さすがにちゃんと作ったものに比べると味は劣るが、値段と速さを考えると十分満足できる。
私とコハクは鶏肉の揚げ物。スピネルは魚のムニエルだ。ルチルはまだ来ないがお腹が空いたのでさっさといただく。そこに。
「よ、スピネルにアレク。ルチルは……あれ? 縮んだ?」
「もーリタちゃん。そんなわけないじゃん。あ、この子かわいーね。どこの子? 誘拐?」
二人の獣人が話しかけてきた。彼女たちはリタとリズ。犬の耳としっぽが生えた、金髪の獣人がリタ。猫の耳としっぽの生えた、黒髪の猫型獣人がリズだ。コンビで冒険者をやりつつ、歌を披露するライブ活動もしているらしい。
「なんだよお前ら。暇なのかよ」
スピネルは二人と結構仲が良い。
「そうそう暇してた。で、まじめな話、この子どしたん?」
「ダンジョンで見つけたんだよ。迷子だ」
「へぇー。狐耳としっぽ、私たちと似てるねぇ。ん? でも……あれ? なんか違うかも?」
リズがふんふんと、コハクに鼻を寄せた。コハクは物珍しそうに二人を見ている。
「どれ、ちょっとどいてみ、リズ。んー……マジだ。この子獣人じゃないな」
リタも鼻をひくひくとさせて言った。このあたりの動作はさすがに獣人という感じだ。
「へー。匂いでわかるもんなのか」
「近い種族はすぐわかるよ。この子狐っぽいけど、狐の獣人とは明らかに違う匂いだ。何かはよくわからないけど」
「そうなんだ。じゃあやっぱ、手掛かりは検査の結果待つしかないね」
獣人じゃない、というお墨付きをもらえたのは良かったが、手掛かりが全くなくなってしまった。
「迷子ってことは、この子のおかあさんかおとうさん探してるの?」
リズの問いにスピネルが答える。
「ああ。ただ、全然手掛かりがないんだ。本人も気づいたら洞窟にいた、っていう感じでさ。こういう狐の種族、二人は心当たりないか?」
「うーん……この辺じゃ見ないな。そもそも獣人も私ら以外そんないないし」
リタは腕組みをして考えるが、特に思いつかないようだ。
「ガルセニアは基本人間の町だしねぇ。それこそ、東にあるメルトの町でも行ってみれば? あそこ色んな種族がたくさんいるから、手掛かりあるかも」
メルトは、ここからずっと東、アルベインという国にある港町だ。冒険者協会発祥の地で、様々な種族の人々を受け入れいていると聞いたことがある。
「この辺で見つからなそうなら、行ってみるのもありかもね」
「そうだな……確かにありかも。まぁ、その辺はあとで相談しよう」
リズとリタが手を振って離れて行ったあたりで、ルチルもこちらに合流した。とりあえず検査の結果次第ではあるけど、コハクのお母さんを探すのは、一筋縄ではいかなそうだ。
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