第2話:旅のための準備はどう?

『レベル制?』


 冒険者協会内にある丸テーブル。先ほどもらったチラシをスピネルとルチルに見せての一言目がこれだ。まぁそうだよね。


「うん。今って冒険者は、Dランク、Cランク、とかのランク分けじゃん。ただ、幅が広すぎて冒険者の実力が分かりづらいし、本人もモチベーションが上がりづらいっていう問題があったみたい。で、その対策として入れようとしている制度なんだって」


 例えば、DランクからCランクに上がるのは、早い場合でも半年、普通は一年くらいかかる。その間ずっとDランクで同じようなクエストを受け続けていればさすがに飽きるし、Dランク成り立てとCランク直前では実力の差も大きい。だったらもっと細かく冒険者の実力を可視化して、クエストもそれに合わせて難易度を決めればいいのではないか、ということらしい。


「ふむ。で、お金あげるからそれのお試しをやってくれってことか」


「それ、いいじゃないですかぁ。なんで皆さんやらないんでしょう」


 そう、話を聞く限り全くデメリットはない。普通なら希望者が殺到するだろう。私もそう思う。


「なんか、条件がある程度決まってるらしくてさ。①駆け出しの冒険者であること。②パーティを組んでいること、③信頼できる人材であること。そして最後に――④成長が見込まれる冒険者であること、なんだって」


 その言葉を聞いて、スピネルとルチルは顔を見合わせた。


「…………成長、見込めます……?」


「身長くらいしか伸びないんじゃねーかな」


 二人の言葉に、思わず苦笑いをしてしまう。私たちはまだ十五、六なので背が伸びる可能性はもちろん高い。でもそれ以上に色々成長するかもしれないじゃん。言いたいことはわかるけど……。


「でも、受付のセーラさんとしては私たちに期待してるみたいだよ。冒険者になってから三カ月、まだまだ大したことはしてないけどさ」


 確かに元々訓練は受けていたから、武器の扱いは素人よりは随分マシだ。魔力も人並み以上にはある。でも何かすごい素質があるわけじゃない。ただ、期待されてるなら頑張らないとね。


「ま、いいんじゃないか。メリットしかないしやるでいいだろ。で、どうしたらいいんだ?」


「この今持ってる冒険者カードを預ければ、レベル制のに切り替えてくれるんだって。このカード、実は今まで倒した敵とか、達成したクエストとかの情報が記録されているすごい機能があって、それを元にレベルを算出してくれるんだってさ」


 冒険者カード、というのは冒険者に渡される身分証明証のようなもので、冒険者資格に合格した時点で渡され、ランクが上がるたびに新しいものに更新される。色々情報を蓄積しているから常に手放さないように、とは言われていたが、そこまで高機能だったとは驚きだ。


「すごいですねぇ。なんか冒険者協会の技術って、明らかにレベルが違うというか、ここだけ異質な気がします」


「私も前に気になって聞いてみたんだけど、コペルフェリアにいる異世界人が関わってるんだって。技術が進んだ世界から来たみたい」


 ここからずっと北にある魔術都市コペルフェリア。一応私たちの故郷で、魔術について日々研究が行われている。普通の町よりはるかに進んだ技術を持っていんだけど、街の状況は私たちもあまり詳しくはないんだよね、訓練ばかりしてたから。


「なるほど……ま、便利ならいいだろ。で、そのレベル制になったら受けたいクエストがあるんだ。さっきルチルと依頼見てたんだが、ほら」


 スピネルが一枚の紙を取り出す。冒険者協会にはクエスト掲示板があり、そこにクエスト内容の書かれた紙が掲示されている。気になったものがあったそれをはがして受付にもっていくと詳細を教えてくれ、気に入れば依頼を受けることができるんだ。――ちなみに、情報端末も置いてあってそれで調べることもできるらしいが、私達は使い方がよくわかっていない。


「『精霊の泉の水を取ってくること』。あ、これ人気の常設クエストじゃん。良く取れたね」


 常設クエスト、というのは、薬草や、何らかの材料など、常に需要があるものを報酬としたクエストで、定期的に依頼が張り出される。場所も手段も定型化されているので、初心者向けだ。


「さっき張り出されたばかりらしいぜ。精霊の泉は運が良ければ精霊にも会えるし、うまくいけば契約が結べるかも、と思ってさ」


 精霊とは、ありとあらゆるところにいる存在で、身近なところだと、火、水、風、土の精霊がいる。普段は目に見えないが、特定の条件下では見ることができて、さらに精霊に認められれば、契約を結べる。契約を結ぶと、魔力を代償に、その精霊の力を借りることができるようになる。ある程度以上の冒険者はほとんど精霊と契約をしているらしく、初心者脱出の一つの基準にもされる。


「いいですよねぇ精霊! 例えば水の精霊と契約できれば飲み水の心配が……まぁゼロではないですが、減らせますし」


 魔術や精霊のことが好きなルチルは珍しく力説している。


 でも便利なのは間違いない。たとえば水の精霊ウンディーネと契約を結べば、魔力を渡すことで水を出してもらえる。攻撃、防御にももちろん使えるけど、何より飲用として使えるのが大きい。時間のかかるクエストにおいてはほぼ必須とされている。――もちろん、周りの環境とか場所によっては精霊の力を借りられない場合もあるらしいが。


「それじゃ、受付に行ってレベル制のお試しと、このクエスト受注しよ。準備も色々あるし、久しぶりに忙しくなりそう!」


 言いながら立ち上がり、受付に向かう。自分でも頬が緩んでいるが分かる。だって、久しぶりの冒険だ。レベル制になってどう変わるのかはよくわからないが、少なくともお金がもらえれば、冒険の準備はできる。色々なアイテム、保存食、水、可能なら武器や防具も。こうしている時間はとても楽しくて、ワクワクする。


 ふと後ろを振り返ると、スピネルとルチルの二人もなんだかんだ楽しそうにしていた。――結局、二人とも冒険は好きなんだろう。それを再確認できただけでも収穫だ。さぁ、精一杯頑張ろう!




 

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