三者三様

噛矛突カムツキ!」

「ぐぁあああ!!」


  サツキが刀を大きく振るい、参加者の塊を吹っ飛ばしていく。


「『虎炎灼こえんしゃく』!」

「ぐぅぅぅゔ!」


 その隣でダンダリオンが炎虎を創り出し周りの敵対参加者を一掃する。


「地脈励起『没』!」

「助げでぇぇぇ!!」


 その後ろでタスキが錬金術で地面を変形させ、地盤を沈下させて参加者を沈める。

 ルシウスと比べてしまえば霞んでしまうが、腐っても六氏族家の継承者たち。

 その光景を上の関係者専用席で眺めるルシウスとナノデバイスが居た。


「三者三様、よくやるもんだねー」

「そうかもな。……まだ粗があるがな」

「でもやっぱり、目を引くのは……」


 ルシウスからすれば大体の相手攻撃が児戯に等しい。

 勿論、ナノデバイスもそれを理解している。その上で目を引く、としたのは――。 


「”万堕螺まんだら”!」

「へぎッ!?」


 魔法や錬金術などのような、派手な攻撃をしないというのに目の惹かれる攻撃をしていない中でひときわ異彩を放つすみれの姿であった。


「すみれちゃんだね。彼女、君に小隊戦で足蹴にされてからは今まで以上のすっごい勢いで体技のキレが増してる。魔法も錬金術も使わないのによくやるねぇ」


 足蹴にされていた、という表現は些か違うことことに対してツッコミたくなる気持ちを抑え、ルシウスはフィジカルのみで他参加者を圧倒していくすみれを見た。

 基本的にすみれの得意武器は刀であるが、こういったイベントごとに関しては体術での攻撃が基盤になることをルシウスが知らないわけはない。


「アイツに小手先の技術は似合わん。力技で押して押して押して勝つ、それしかないだろ」


 すみれの生まれ持った異能――もとい、才能、或いは呪いだと思われるその副次的効果によって得られたその恐るべき全身の筋肉量が、今のルシウスの言葉を肯定するように躍動する。


「ルシウス的にはどうなのさ?あの子、強い?」


 他参加者二人を両手に掴み、豪快に振り回して投げ飛ばしたすみれを見ながら、ナノデバイスは自分の学校の生徒会長がいかほどに強いのか、尋ねた。

 が、ルシウスはそれをばっさり切り捨てた。


「弱い。今のままじゃサツキにも勝てん」

「え!?サッちゃんより弱いなんてあり得るの?!」

「単純なパワーだけならすみれに軍配が上がるが、いざ実践ともなればサツキの圧勝だ。すみれには勝つためのハングリーさがない」

「……あんなに殺気に溢れててハングリー精神に欠けてるって何?」

「殺意は戦闘力に直結しない、ということだ」


 そう言いながらルシウスは、鮮やかな剣技で他参加者を圧倒するサツキへとナノデバイスの視線を促した。

 サツキが姿勢を低くし、彼女の身長と同じ長さ愛刀……と同じ大きさの木刀を大きく振るい、二人の知り合いの腹に木刀を落ち込んだ。


「『如斬きさらぎ』!」


 サツキと同じく女学院生徒であるクローノとシロノワが木刀で殴られ、後ろに大きく押された。

 クローノの使用武器はメリケンサックを装着した拳。シロノワの武器はレイピア。

 近接を扱う者同士が、同時にサツキへと接近し、拳、レイピアを振るう。


「それッですわ!」

「喰らいやがれ!」


 2方向からの攻撃。それも並大抵の攻撃ではない。

 ましてや、サツキの木刀はかなりの長刀。相手からの攻撃からの防御がしにくい長さであり、小回りも利かない。

 普通の剣士であればどちらかの攻撃を受けることになり、今この一瞬で「どちらの攻撃を受けるか」の判断を強いられる。

 もちろんそれは「普通の剣士」であればだ。


「……ごめんね。私、負けられないのよ」


 ガゴン!とメリケンサックとレイピアが木刀と接触する。


「「うわっ!!」」

「アナタ達の癖はもう把握してる!普段みたいな力技は通用しないものと思って頂戴!」


 サツキの選択した答えは「避けず、受け止める」だ。

 長身の木刀で攻撃を受け止め、木刀を握る手の力を強めて押し返した。

 普段のサツキとの手合わせでは一度もなかったこの抵抗に、二人は目を見開いた。


「じゃあね。また学院で会いましょ」


 サツキはその一瞬の見逃さない。木刀で押し返し、そのまま木刀を掴んでいた手を離して体を捻って2回、それぞれに蹴りを入れた。


「ぐあぁ……!」

「んぎゃ!」


 地面に落ちて無様な姿をさらす二人の尻を眺めて、たまたま近くにいたタスキが一言。


「おーおー。容赦なさすぎやね」

「容赦はしていないもの。……それで?次はアナタ?」

「自分はそれでもええねんけどね。ちょっとこっちの相手が中々終わらんくて」


 サツキは放り投げた木刀を拾い上げ、剣先をタスキに向ける。

 が、タスキは飛んできた魔法を錬金術で分解し、面倒くさそうにダンダリオンを見た。


「俺を舐めすぎだろぁ!?」

「落ち着いて話せや。菓子にがっつくガキとちゃうんよ?」

「こンの……!言わせておけば!そのふざけた訛り口調、崩してやるよ!」

「ほーう?やってみぃ?」


 売り言葉に買い言葉。挑発されたダンダリオンは自身の家系に代々伝わる詠唱の型を取り、指揮棒を振るうように指を振って、詠唱した。


「”疾風怒涛”!」

「炎の柱ごときで自分倒そうなんて発想、甘すぎや。温度も質量も足りんわ」


 大型トラックを思わせる猛炎を前にし、冷静に錬金術を操作して炎を打ち消す。

 ダンダリオンはそれを当然だと予想し、続けて先ほどの攻撃よりも広範囲・高威力の、相伝の魔法を使用した。


「”貂火布武”!」


 ルシウスからすれば、この攻撃すら児戯だというこの攻撃。あくまでもルシウス目線。

 タスキはやや脂汗を浮かべながら、しかして見かけは余裕そうにして悠然と構えた。


「こうやって相伝の術式を前にするとちゃんとその脅威が分かるもんなんやね。

 ……けどまぁ、これ、言うても熱くて範囲が馬鹿デカいだけやね。威力はお粗末。扱いやすいわ」


 迫る大火を前に、両手を突き出して構える。

 そして――。


「”原子に希う、我が手は原初を操る導きの手である”」


 錬金術の吟唱を行い、炎を制御下に収めようとタスキはその両手を振るう。

 タスキ・シュンコウは二級錬金術師。現在17歳だ。実家……親族の軍内に於ける階級は中将と大佐。

 シュンコウ一家は、六氏族家の中でも比較的古参の家系であり、イシュトゥリア帝国内で起きた十年前のクーデターより以前にはその名声を帝国内に轟かせていた。

 その家系の中で、タスキは14歳の時に二級錬金術師となった彼は、シュンコウ一族、三代ぶりの天才だとされる。

 特筆すべきは圧倒的な情報処理能力……頭の回転の速さ。

 他六氏族家跡取り組と比べて、基礎的な知能に加え、IQがずば抜けて高く一般人が100である中、彼は14歳当時に150という数値をたたき出していた。

 ダンダリオンが努力によって大成する秀才であるなら、タスキは天才型。生まれ持ってきた物が大きく違う。

 その超的な頭脳は、鍛錬や修練、学習というプロセスを経ずにあらゆる錬金術の使用を可能にした。

 その頭脳からはじき出された最適な錬金が発動し、ダンダリオンの放った炎撃を中和、打ち消していく。

 とはいえ、完全無欠とは行かなかった。


「はっ!とか言いつつ指焦がしてやんのな!」


 じりじりとタスキの指先は焦げていった。


「アホ言え!これは……アレや!土やね!」


 炎の出力を上げるダンダリオンと、中和の効率を上げていくタスキ。

 周りの他参加者らのみが削れていった。


「…………お互いガキね」

「『剣豪』、その首取ったァ!」


 未就学児の喧嘩のような光景に侮蔑の目を向けるサツキに、いつの間にか彼女に周りに広がっていた参加者の一人が


「『牙刺げし』」

「へぶし!」


「ギェヤァァァァアア!!!」

「…………」


「一般参加枠ってこんなんばっかりなのね」

「六氏族家が強いだけ、じゃない!?」


「あら。貴方は……誰でしたっけ?」

「フミカよ!中央学院講師教師勢の中で一番若いって理由でここに駆り出されてるのよ!」


「いいじゃない。私のこの刀とアナタの薙刀。刃物同士戦いあうのも悪くはないでしょう!」


「『凩』」

「『大火焦おけしょう』」


(なるほど、これが……噂に聞くロゼッタ家の妖刀。厄介ね)

(これがルシウスの姉君。……ブロッセムの末の妹様。出来る)


(長期戦は不利。そもそも戦闘株じゃないし、武器のリーチ差もある。それに、そういう血生臭いのはルシウスの専売特許よね。じゃあ……)

(フミカ女史は絶対、短期決戦に持ち込んでくる。……カウンターで……)


 二人の思考と結論が一致し、両者が攻撃の構えを取る。

 そして――。


「ふっ!」

(来た……!)


 薙刀をビリヤードのキューを構えのような姿勢のまま突進を開始したフミカに反応し、サツキはこれに対抗すべく長刀を大振りする。

 と、思われた。


「なーんてね?そらぁ!!」


 フミカは薙刀の刃先を地面に刺し、棒高跳びの要領で跳躍。

 そのまま身体を捻り、薙刀の柄の真ん中を目掛けて蹴りを繰り出し、折った。


(薙刀を折った?!自分からリーチ不利の勝負にした?!)

「これあげる!」


 武器の破壊を自ら行ったフミカの行動に驚愕し、一瞬動きが止まるサツキを、フミカが見落とすわけがない。

 真っ二つになり、刃の付いていない持ち手だった方の木片をサツキに投げつけ、それよりもやや遅れて地面から刃の付いている方を引き抜いて接近を開始した。


「いらない、わよ!」


 先に到達した木片を先に振っていた長刀で払うも、武器が大ぶりなせいで返しの一振りまでにラグが発生する。

 フミカの狙った隙が発生した。


「どうせ、リーチ差と私と貴女の実力差、実践経験の量を考えて居合いでのカウンターを選択したんでしょう?わかるわかる。私でもそうするもん」


 長刀が振りなおされる前にフミカがサツキの腕と肩に拳を打ち込む。


(な、んて人!素手で、魔力も使わずこんなに重、い攻撃を出せるなんて……!)

「そんなセオリーに素直な攻撃は私には似合わないんだな、これが。……そら!」


 身体をぐらつかせているせいで連続で攻撃を受けそうなサツキであったが、逆にその揺れる身体を利用。咄嗟に姿勢を崩し、フミカの攻撃をしゃがんで避け、下から拳を蹴り上げた。


「おおっとと。手元が狂ったわね」

「ご冗談がお上手、で!」


 攻撃を弾かれたのにも関わらず、特に焦る様子もないフミカの表情にサツキは苦渋を飲んだ顔になる。


(待ちでの攻撃は無理!かと言って近接戦も経験値の差もある!やりにくい!)


 そんな苦渋の表情を見せるサツキと異なり、フミカは静かに言葉を紡ぎ出した。


「私はね?ルシウスみたいに常識外の能力もないし姉さんみたいな才能とか努力とか覚悟なんて一切ないの。……私は臆病だったからこそ、こうしてここに立ってるんだけどね」

「そんな物言いをしておいて、ここまでやれる人もそうそういないでしょう?」

「まね。これでも私は少尉アレなので。ってそれはさておいといて。とにかく、私が言いたいのは……」


「貴女、何で戦うの?」

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