聖大祭開幕
第48話 開、始。
『ただいまを持ちまして、開会式を終了とさせていただきます。
最初の競技は『滞空射撃』です。出場選手は6-4-4番地に集合してください』
およそ二時間にわたる開会式が遂に終わった。
二時間と言っても、街頭モニターやら各学校のテレビなどから視聴が可能なので、おそらく生徒らは各学校備え付けテレビから、その他の人間は自宅のテレビやらラジオ、街頭モニターから見ていることだろう。
聖大祭開催期間中は国の施設も一般企業も午前休又は午後休となり、観戦・観光の推奨をされる。
主役は生徒……もとい、子ども。大人は祭を静観し、見守ることが慣例になっている。
街にいる人間のおよそ半分がどこかの学校の生徒で、残りは警備中の軍人やら出店の店員やらの大人。
普通の祭りとは違って飲酒する人間もいない。
他の国の人間からすれば少し異質な光景が帝国を包んでいた。
「遂に始まったわね!シグ!」
「そうだな」
隣で、今朝合流してからずっと、俺の腕に抱きついているシルヴィが開会式が終わると同時に俺の腕を振り回した。
痛い。というよりもそもそも聖大祭自体、割とどうでもいいのだが。
「そうだな、じゃないわ!早速その『滞空射撃』っていうのを見てみたいわ!」
「あの競技、見てても面白いもんじゃないぞ?」
初日の競技は四つ。
一つは今放送されていた『滞空射撃』。
これは至って単純な競技で、地上からおよそ三十メートルから五十メートルの高さまで魔法や錬金術などを使って上昇し、そのまま滞空を続けながら三百秒間、不規則に絶え間なく高速で発射される的に対してなんらかの方法でそれを撃ち落とし、時間切れまでにどれほど壊せるかを競うモノだ。なお、地面に着地又は落下で失格となる。
この競技で問われるのは、滞空と射撃に使うリソースの配分と、純粋なセンスだ。
飛びながら的に当たるのは割と難しいのだが、それに焦って地面に落ちたら怪我するし失格になる。
かといって飛ぶことを意識して的に当てられないというのも競技として成り立たなくなる可能性がある。
当てつつ、落ちず。このバランスを高いレベルで実現できる人間はそうそう多くなく、一学校に十人いるかどうかだ。
なお、現在までの最高記録は俺が五年前に立てた五百点だ。的が射出される数はおよそ一秒に二個。結構良い命中率なのではないかと思っている。
「それよりも、それとほぼ同じ時間に始まるヤツに杏里が出場するからそっちを見にいきたい」
「杏里ちゃん、何の競技に出るの?」
「エリアブレイク」
エリアブレイクとは三十メートル×三十メートルの正方形内に設置された三つのモノリスを防衛する、若しくは相手陣地のモノリスを破壊する、という競技だ。
一対一のサシで行われ、制限時間は六百秒。
手段方法を問わず、相手陣地とモノリスを攻撃、防御しあい、十分経った時点で陣の中にあるモノリスの数が多い方が勝者になる。
「あら。あの子そんなに好戦的なイメージがなかったのだけれど」
「俺が無理やり出させた。俺の下部組織の暫定リーダーが戦闘経験ないってのはダメだからな」
その理由に加え、この競技は軍内で教わる拠点防衛の基本思考が必要なのだが、純粋な頭の良さのある杏里なら学ばずともそこそこいい線をつくと思ったからでもある。
「会場はここから近いし、食べ歩きでもしながら行くか」
「えぇ!」
エリアブレイクの競技開始まであと三十分程度。
エリアは第六区画から第三区画に移動ということで割と時間は危ないのだが、俺の尉官権限を使ってやや強引に第零区画の環状電車を使うことにしよう。
その道中で、軽く軽食が欲しいのだが……。
「腕を組むな。歩きにくい」
「いいじゃなーい!たまには!」
「さっき合流してからずっと組んでるだろうが」
歩幅も身長も大きく違うので、歩きにくいことこの上ないんだが。
………が、護衛のことを考えると我慢する必要もある。
聖大祭期間くらいは許してやるか、仕方ない。
せっかくの祭りだ。少しくらい浮かれてても文句はないだろう。
―――――
天井が揺れ、歓声が振動となって地下に響き渡った。
「んっん~!上じゃ聖大祭、始まったねぇ~!」
「あぁ。うるせぇったらねぇよ」
第六区画、地下。別命【深層】。
この審査というのはあくまで便宜上そう呼んでいるだけで意味はない。
その深層内にて一人の男が心底楽しそうな声をあげて小躍りしていた。
それに噛み付くのは隻腕となった、ギュラと言う爆弾魔。
この二人は性格的、性質的に真逆の存在であり顔を合わせると小競り合いが起きる。
「喧嘩なんてすんじゃねーよ。見苦しい」
「……………………」
その光景にイラつく女が男二人を一喝した。
その女の隣におり、無言で佇む女も「うるさいぞ」という視線を男二人に送っていた。
「んで?ディルイ。アタシらはいつまでここでネズミとよろしくしてなきゃなんねーんだ?さっさと表出て殺して壊して、それで終わりじゃねぇか」
「まぁまぁ。そんなこと言わずに。次は僕の番だから我慢しておいてくれよ」
暗く、湿った場所が嫌いなのか女は不機嫌そうにするも、ディルイと呼ばれた男の方は女体型の機械を魔法で操作して立ち上がった。
「さて、行こうじゃないか。マリア」
マリアと呼ばれた機械は、およそ機械とは思えないほど人と同じ挙動をしながらディルイの後に付いて行った。
「僕はわざわざギュラやシトラスのバカのように、ウィシュカルテやマキナの少女を取り込もうとは思わない。完璧な計画をお見せしよう」
「”嗚呼、嗚呼。愛しき我が天使よ。影を喰い、命を啜り、終末の時へ近づかん――”!」
ディルイがそう詠唱すると、マリアを中心に魔法陣を展開された。
続けて魔力を流していく。
すると、マリアの周りに黒い、深い紫色の魔力が発生する。
そしてその魔力は、粘性の強い液体のような状態になりマリアの身体を隅々まで包み込んでいく。
しばらくして全身がドロドロに覆われたマリアが一度、聞き取れるかも分からない高音で鳴いた。
「Ahaaaaaa――――――!!」
「”
「相変わらず聴いていて不快感のある声だなソイツ」
「……………………ン」
マリアの歌声を聴き、ギュラは耳を塞ぎ身を瞑り、女の片方は不機嫌になり、無言で立ち尽くす女は小さく頷いた。
一方のディルイ。彼は今か今かと待ち続けていた絶好の機会が回ってきたことで最高に高まっていた。
「聖大祭に間に合うか分からなかったけど、『リ・ルーラ』のメンバーを取り込めたのが大きかった!!今までフィジカルしか調整できていなかったけど彼女らのおかげで頭脳もちゃんと補完された!」
紫色の魔力がこびり付いたマリアが頷いた。
機械であるその身体には意識が宿っており、マリア、という一人間が成立していたのだ。
百……否、千を超える魂や精神を取り込んだその存在は今、生命の頂点に王手をかけたと言っても無言ではない。
「ふふ。ふふふふふふふふふ!ンフフフフフフン〜!」
ディルイは興奮していた。
自分の手で、人を超えるモノを作り出したという高揚感、達成感、はたまた、それ以外の何か。
それらが彼を包み込み、全能にすらなったかのような錯覚を見せていた。
「ガチで気色悪ィな、アイツ」
「ゥン」
「俺らン中で一番イカれてるサイコ野郎はアイツだろうな」
三人は深層内で立ち尽くし、ディルイを見送った。
ルシウスには届かぬ実力の四者。
その狙いは如何なるものか。
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