幕間 十年振りにこの時期がやってきた!

「…………魔獣討伐、ですか」

「えぇ」


 カレンさんがセレスや杏子の入隊を認めるために課した条件。それは魔獣討伐であった。

 魔獣か。程度にもよるが確かに並みの戦闘力では太刀打ちできないだろうし、機会があれば討伐を強さを指標として扱うのも納得がいく。


「魔獣って………?」


 杏子が首を傾げた。流石に魔獣までの知識は備えてないか。


「大体十年に一度ペースで現れる、突然変異の獣の総称だ」


 突然変異とは言われつつも、原因事態はもう解明されている。

 魔力を感じ取る器官を持つ獣の異常発達によって生じる、ある種の災害、または現象とされる。

 異常発達の確率を人間で例えるならば……アルビノのようなものだ。アルビノはそこまで高頻度で発症しないと思うが、感覚としては間違っていない。

 魔獣の特筆すべき事項としては。同じ種の非魔獣個体と比べた際に非にならない強さになるくらいだろうか。

 ただの鶏が魔獣化すると、羽が鋼の如く硬化して羽ばたくだけで地面に斬りこみが入ったりする。


「前回の魔獣はどうなったんですか?やはり、軍を上げての討伐隊を出したりしたんですか?」


 杏里は魔獣に関しての知識は最低限会得しているようで、被害の規模を危惧している。

 ……だがまぁ、魔獣って発生に前兆があるのでそこまで恐々とする必要はないんだがな。

 前回……十年前か。懐かしいな。あの時は――。


「軍の記録ログをみたら前回はルシウスが討伐してたから今回も頼もうと思ったのよー」


 俺だ。魔獣なんて名前しか知らなかった五歳のころだが、森で遊んでいた際に運悪く遭遇し、処理した。

 今思うと、俺が初めて本格的に戦闘をしたのがあの時かもしれない。


「え、十年前……獣……もしかして!」


 シルヴィが何かを思い出したように俺の方を見た。

 そうだ。あの時はシルヴィも隣にいたな。

 ぱちん!と指を鳴らしてカレンさんウキウキしながら俺の胸を小突いた。


「殿下、正解なのよー!前回は十年前……リリシア殿下とルシウスが初めて出会ったと思しきタイミングで発生したのよー!」

「あの時の!紫色の猪さん!」


 俺とシルヴィが初めて出会った時の話だ。会話も無く、ただ時間を無駄にするのも惜しいと思って単身で果物でも採ってこようとしたらシルヴィが興味本心で俺についてきたんだ。

 その時、本当に偶然魔獣化した猪と遭遇した、ということだ。


「魔猪か。比較的小柄……だけど普通に小型のトラックくらいの大きさあるわよね?ルシウス、前回はどうしたの?」


 フミカさんとカレンさんはその当時は俺と出会ってすらいなかったので、俺が魔獣を討伐したことすら知らなかったようだな。

 仕方が無いか。本当に偶然だったし、一瞬で終わったことだったしな。


「あの時のシグは恰好良かったわよ!あ、今でもカッコイイんだけ……」

「ぶった斬りました」


 馬鹿正直に突進してきたので俺は植物の採集の為、手に持っていた小刀で真正面から斬った。慣れない刃物を扱ったせいか手首をねん挫したが。

その時のことを思い出しているのかやや興奮気味にシルヴィが語り始めた。……あの時は喧嘩もしていなかったし、皆もいたな。


「私たちを護りながら、こう、しゅば!ずばば!ってカッコよかったの!」


 ……シルヴィの語彙が大変なことになってきた。

 適当に話も逸らさなければ。踏んだらいけない地雷もかなりある時期の事だったからな。


「それでカレンさん。今回のターゲットは何になるんでしょうか。また猪、ということはないでしょう?」

「今回は猪ではないわ。詳しいことはまだリ・ルーラが調査中なのよ」


 『リ・ルーラ』。カレンさんの直下部隊。

 俺の方も戦闘に直接かかわらせないものにできればいいのだが、なにせサツキがいる。

 アイツ、対して経験ない癖にやたら前に出たがる。先の黒マネキンからも分かったのだが、未知の敵に対しての耐性がカスだった。

 それは置いておいて。


「………戦闘予定地は森ですか?」


 陸か、水上か、空中か。

 地中であることも資料上から分かっているのだが……どこになるのだろうか。

 出来れば地上、森林がいいが……。


「海よ」

「え?」


 ……海中?

 多分だが一番面倒なカードを引いたのでは?

 疑わしい……のだが、カレンさん…もとい、リ・ルーラの人達が嘘をつくとは考えにくい。

 と言うことは本当に……。


「……海?」

「海なのよ」


「五十年ぶりに海の生物ぽいのよ」


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