第20話 地下へと

「ここは……」


 目を擦る。

 ……擦れません。というか、手が動かせません。

 足も……かなり不自由です。

 状況を思い出さないと……。


「確か私、杏里と話してる途中に…穴に落ちて……」

「お、気が付いたか」

「?!」


 ガチャン!と重い音を立てながら一人の男が来ました。

 ……私を縛ってここに放置したのもこの人……?


「おーおー、あねちゃんと同じ反応、さすが姉妹」


 面白そうに私を見下ろす男。

 ……姉ちゃん?杏里のことですか?


「あ、杏里は!杏里はどこです!」

「そしてここも同じ反応。見ててオモロいわ」


 ケタケタ笑いながら……いや、目が笑っていません。口だけ嗤っています。

 ……本当に、なんなんでしょうかこの人は。


「ま、どーでもいいけど」

「よくないです!ここはどこで、杏里はどうしたのか、そして、アナタは誰なんですか?」


 なぜこんなことになり、なぜ杏里は何もされずに、どう言った目的があってのことなんですか……!


「だから質問はイッコずつにしてくれっての……。あー、そうだな。ここは悪いオニーサンのアジトで、あんり?って子はオレが焼き殺して、オレは悪いオニーサン、だな」

「んな……!」


 杏里が、殺され、た?

 あの、杏里が?

 理解が追いつきません。私が気を失った直後に、焼き殺してからここに運んできたんですか?


「そンで、君は今からちょーっと怖い実験をした後に殺す。そだな。そンなとこだな」

「実、験……?」

「そ。お前さんの血筋ってのはオレらにとっちゃかなり貴重でな?その中でお前さんは特に貴重でよ?これを機に血液とか中身とか、全部貰っちゃおうって話でさ。あ、オレにロリペドの趣味はねェから安心してくんな」


 手をわきわきと気持ちの悪い動きをさせて、男が近づいてくる。

 ロリペドの趣味、がなんのことかは分かりませんが、とりあえず時間を稼いで殺されないようにしなくては……!


「そういう話じゃないです……!中身を全部抜くなんて無理でしょう……?!ここには出口以外ドアがありませんし、道具も見当たりません……!」

 

 なにか特殊な岩の素材なのは感触からわかりました。

 そして、この男がここに入ってくる時の光で部屋には私を縛る物以外何もないということ、ドアは一つしかないことがわかりました。

 そんな部屋で私をどうするつもりで?


「お?意外に冷静だな。感心感心。けど、前提がちげぇわ」

「?」


 今度こそ、本気でニヤついて笑う男の顔は……!


「オレが今から腕とか脚から喰ってくから、お前はそのまま噛まれて死ねや。後はオレが美味しく喰うからよ」

(何、を言っているんです……?!)


 口が裂け、およそ人ではあり得ないほどに開いていました。

 ……まるで、怪物。さながら鮫のようで。


(……助けてください、兄さん……!)


◾️


「………危な、かったです……」


 ぐらりぐらりと、焦点の合わない視界。

 ぽたぽたと、絶え間なく落ちる紅い雫。

 手をつきながら、私は誰もいない路地裏を歩いていました。

 危なかったです。……いや、今でも割と危険なんですけどね。

 間違いなく爆発には巻き込まれましたが、錬金術を応用……咄嗟に爆発の熱量を私を吹き飛ばす風へと変換して、わざと大きく後ろに飛ばしたので即死は回避できましたが……。

 想像以上にダメージを負ってしまいました……。

 まだ意識があるうちに。

 誰かに、このこと、を……!


「今は、と、りあ、えずお兄、さんにこの事をつた、えないと……!」


 震える指でメッセージを書く。

 ……ちゃんと、書けているでしょうか。

 誰か、私を見つけてくれるでしょうか?


「…………ぅぁ」


 私の意識は、そこで途絶えました。


◾️


「第六支部、残存兵数確認して!各部隊毎に点呼、報告!第三支部はスリーマンセル、スリーユニットの九名で行動!実行犯確保より被害拡大防止に努めなさい!なんらかの痕跡が残っているはずよ!」

「「「「「はッ!!!!」」」」」


 ……上空から現場を見下ろす。

 カレンさんの指揮に入った第六支部隊も落ち着きを取り戻したのか、住民と避難行動を取る者らと区画内の安全確認を行う者らに二分されていた。

 相変わらずのカリスマ性だと思う。

 こういった現場では誰しもが混乱している。

 その中で冷静に判断を下して指示を出し、それが全体に通り、しかも皆全てやり遂げるのだから。


「とりあえずこれで最低限の安全確認、確保が終わる!……次は」


 ひと段落着いたようなので、俺は通話をカレンさんの端末に入れる。


『姉さん』

「ルシウス!どうしたの?!」

『見つけた。多分、実行犯』

「え?!」

「もうすぐそっち着く。というか着いた」

「うわぁ?!」


 俺とて好きで空に対空していたわけではない。疲れるし、寒い。視るべき物を探しているだけだった。

 巧妙に隠されていたが、冷静に目を凝らせばわからない訳はない。


「で、どうなのよ?」

「爆発は魔法によるもの。魔力の残滓があるし、未発動のは見つければ、止められるはず」

「そっちもありがたいけど犯人は?!見つけたんでしょう?!」


 せっかちなのも相変わらずかな。

 偉い人は大体皆、報告は結論結果から話せと言う。

 それに対して理解は出来るが俺から言わせれば極端な思考になりかねないというのもあり、あまり好まない。


 とはいえ、聞かれたら答えなければ。

 俺はコツコツ、と地面を蹴った。


「あぁ。……この下だ」

「下って……地下?」

「正確には下水道。そこから穴を掘ってどこかに地下室を作ったらしい」

「じゃあ……」

「うん。俺はそっち行ってくる。カレンさんはこっちをお願い」

「あ、待ってルシウス!これ!待ってって!」


 カレンさんから何か投げられた。

 ……物を投げないで欲しい。

 キャッチしたものを確認する。……これは?!


「……瞬間移動の魔法道具……?!こんなのどこで……!?」

「作った」

「え?!」


 しれっと言うことではない。

 魔法道具。……魔法具の作成は誰でも作れるものの、かなりの費用と時間を要する。

 もしかして、カレンさんはこれを作っていたから金欠に……?


「とりあえず待って行きなさい!一人分しか使えないけどいざという時には私の背後に転送されるようになってるから!」

「ありがとう。じゃ、行ってくる」


 受け取った魔法具を大切にしまい、俺は地面を蹴って叩き壊した。


「っらァ!」


 下水道があるので、ある程度深くまで蹴り壊せば掘り進める必要はない。

 俺は暗い地面に降りていった。

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