第19話 爆破事件
「はぁ?!バレた!?」
翌日。
俺は昨日杏子が突き止めた、俺との関係について報告する為にカレンさんの居る第三支部・駐屯所まで来ていた。
一応だが、この帝国には第零から第八まで支部がある。
この帝国の区画として、
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超ざっくり分けると大まかにこの形で九個ある。
第一と二、七と八の区画は住民の居住区域で、大半の帝国民がここのいずれかに住んでいる。
カレンさんや俺が主に活動してる第三区画は軍事関係を中心に様々な建物があり、軍の本拠地とも言える。
第四は研究区画。軍事関係でも、民間の研究施設でもなんでも研究を行っている。
第五は一般企業の集合地。一般家庭の基本的な仕事先が多くある。
第六は学校等の教育機関が集合している場所。学園都市、なんて呼ばれていたりする。
第零区は、この国の文字通り中心地。
帝国軍本部を始めとして、国の最重要機関の多くがそこにある。基本的には軍曹階級以上でないと立ち入りが禁止されており、各企業のCEOですら立ち入りには許可と審査が必要とされている。
それよりも。
俺は立場を隠し生きていかなければならないのだが、俺のたった一つのミスと、彼女の努力のみでその答えに辿りついてしまったのだ。
「すみませんでした」
「いや、アナタが謝ったからってどうこうなる問題でもないし……」
カレンさんはほとほと呆れていた。
とはいえ、その呆れ顔でも少し諦観が見られる。
と、空気が重くなっていたところで背後の扉が開き女性が一人、入室した。
「いや、ルシウスには落ち度なんてなかったわ。それは私が保障する」
「フミカさん……」
フミカさんが珍しくここに顔を出していた。
フミカさんは少尉階級だがこういった軍関係施設が嫌いなのかあまり立ち入らない。
潜入といいつつ、学院の空気が気に入ってるらしい。
そのカレンさんがこちらに来た、ということはこの身バレはかなりマズいということを指していた。
「それで、なんでバレたのかしら?」
「……彼女の髪の毛と、俺の皮膚。あとは昔の写真とあの子の記憶」
「……すごいわね」
「…正直俺も驚いた。……血筋か?」
俺も、昔は宿願達成の為に手段を択ばずに行動を起こしたことが多々ある。
それを思えば今回の杏子の行動は納得のいくものであると言える。
「半分はね。どんな手段を以ってしても目的を遂げるその精神はそうね。……けど、やっぱり……」
「やっぱり?」
カレンさんの言葉をフミカさんが引き継いだ。
「家族だもん、分かるよ。そういうの」
うんうん、と頷きながらもカレンさんの顔は厳しいものだった。
「それで、どうするつもりしら?」
「……」
「過去を隠したまま家族として過ごすか。それとも、過去を明かし、人殺しの謗りを受けながらも生きるか。それとも」
確かに、まだ選べることがある。それも、誤魔化しのきく道だ。
昨日、二人は『家族のように』接して欲しいと言ってくれた。
それは、彼女たちが俺の過去を知らない、ということを表している。
そもそもだが、俺があんなことをしなければあの二人がこうして兄弟姉妹と離れて生きることにならなかったのだから。
……一番、今後にとってお互い丁度良い距離間を取る方法もある。
「……突き放すか」
俺は、決断をしかねていた。
◾️
るんるんるん、と子供っぽい鼻歌を歌いながら杏子がスキップをしながら駆けています。
ここまで楽しそうな顔を作っていたのはいつぶりでしょうか。
「なんだかご機嫌ですね、杏子。やっぱり、昨日のアレですか?」
「はい!」
昨日……杏子によるアグレッシブすぎる血縁関係証明によって、私たちはルシウス軍曹……兄さんとの兄妹関係が証明されました。
手段が些かマズいのでは、とも思いましたが、あの後結局杏子が何か言われることも無く、携帯の連絡先を交換するくらいには優しく接してもらいました。
本人は、まだ抵抗があるようで空気が硬いですが。
「今までのこととかは聞けなさそうで残念ですが、これからは一緒に居られるかもしれません。私たちの昔の話とかしたいんです!」
「杏子がいつまでおねしょしてた、とか?」
「あ!それをいうなら杏里だって未だにピーマン食べられないじゃないですか!」
「いいえー!私はピーマン食べられます!食べようとしないだけですー!」
「同じじゃないですか!」
やいのやいの、私たちは道端で軽い言い合いになりました。
普段は私がお姉ちゃんで、少し大人なので譲りますが今回ばかりは譲れません。なぜなら本当に私はしっかりピーマンは食べられるのですから。
食べる機会が無いだけで、食べられますから!
「大体ですね、杏子は子供っぽいところが……」
と、私がいつものようにお説教をしようとすると、辺りが急に静かになりました。
……先ほどまではすれ違う人もいたのに、どこかへ消えて行ってしまいました。
「あれ?杏子……?」
名前を呼んで、辺りを見回す。
ですが、返事もなければ気配もありません。
……どうしたのでしょうか!?
「杏子、返事をしてください!杏子!」
路地裏に引っ張られてしまったか?と思いそっちを見ますが、誰の人影もありません。
明らかに、おかしいです。
杏子だけじゃありません。誰も居ないなんて、おかしいです。
「………どこ、行ったんですか……?」
「安心しろォ?嬢ちゃん。ちょこーっとだけ楽しいクニに旅行に行っちまっただけだから」
「っ!?誰です?!」
「んー?オレ」
杏子を呼ぶ声に反応したのは、彼女ではなく謎の大男。
黒ずくめの、いかにも怪しい変な人。
「オレ、じゃないです……!アナタは一体どこの、誰なんですか?!」
「質問は一つずつにしてくンねェかな。オレちゃん、バカだからわかんなくてヨ。……えーっと。とりあえずオレちゃんはユーカイハンって奴。悪ニンね?」
「それで、なんで杏子を……!」
大事なのはそこです。
この人が怪しい人で、今までどんな犯罪を行ったかは別で重要なのは、杏子をどこにやったのか。それとなぜ杏子を攫ったのか。それだけです!
「アンタらがウィシュカルテだからよ」
「お金の為ですか……!」
「いや、それだけじゃないンだけどさ」
……ウィシュカルテ家は、自分で言うのもなんですが医者の一族なのでお金はあります。
なので、こうして誘拐まがいのことをされて金銭の要求があり得るというのは昔から言われていたので心構えや対処は教わってきました。
それなのに、お金が必要じゃない?
では、なんの為ですか?
「まぁとにかく、お
「私に伝わるように話をする気はないんですかね……!」
あの一族?再興?なんの話ですか?
阻止、ということは現状だとこの男含めて謎の集団にとって、状況は芳しくない方向に動いている、ということ?
「いや、ねェな。無能なお前は今から殺すし」
「……へ?」
私の思考を遮る様に、目の前が真っ白に染まった。
私の耳は、つんざく様な爆音と、熱波に包まれて――!
◾️
ルシウスとフミカちゃんと別れ、時刻は回って午後。
私は雑務をこなしながら寛いでいると、突如地面が揺れた。
と思ったら、大慌てでどっかの小隊長が執務室に流れ込んできた。
……忙しないわね。
爪の手入れをしながら、その人の報告を聞く。
どうせ、大したことじゃないでしょうけ、ど……。
…………………?!
「え?!もう一度報告してもらえるかしら?!」
「はっ!6-6-5通りにて大規模な爆発が発生しました!」
今この人、なんて言ったのよ!?
「そこは聞いたわ!そこの後よ!」
「……その衝撃により、第六支部と駐屯所が大破炎上し、現場の指揮が混乱!事態の収集にまで漕ぎ着けないと先程通信が!」
「なんで第三支部駐屯所のこっちに連絡寄越すのよ?!普通距離的に第五か七支部でしょ?!」
距離的にここ第三支部駐屯所に持ってくる案件ではないがするのだけれど!
第六で起きたなら、第五、七が一番スマートでクレバーなのよ?!
「それが、本部からは『第三支部で処理する方が都合がつく』とのことで……!」
都合が付くぅ?
待つのよ。私。
わざわざ本部が私にたらい回したということを考えれば……。
おおよそ、大体の見当は付くわね。
「………あーもう!分かったわ仕方ないわね!とりあえず第六支部の残存兵力は地域住民を護りつつ一緒に避難する準備をさせて!行き先は第四区画、第八区画に!上への話は私から通しておくわ!私たち第三支部は第一から第三小隊を残して三十分後に移動開始!」
「り、了解であります!!!」
ドタバタと駆け足で執務室から出ていく小隊長を見送り、私は秘匿回線でルシウスに電話を掛ける。
午後の予定はない、と聞いているから……。
「あー、ルシウス?!」
『…………………なんです?』
出た!珍しくスリーコールだけど、ちゃんと電話に出てくれた!流石!
……じゃない!さっさと状況を伝えて先行してもらわないと……!
「アナタ、今の聞こえてたりする?!」
『……方向的に第五、六区画でしょうか。揺れも結構、ありましたね』
どうなってるのよこの子の聴力!?
「六よ!支部と駐屯所ごと
『いや、もう着きます』
「……は?」
待って?
音を聞いて、あたりを付けて走ってもうすぐ到着?
……バケモンじゃないの?
◾️
『無茶は無しよ?!』
「分かっています。避難行動は指示済んでるんでしょう?なら、俺は適当に犯人を探します」
爆発からおよそ三分。
俺は第六区画高台に到着していた。
『縮地』を使ってちょっと本気を出せば、こんなものだろう。
だが。しかし。
「………なんで第六を?」
この区画は正直言ってテロをするにも何をするにも向いていない。
学園都市、と言われるくらいなのでほぼ学校しか無いのだ。
銀行の本店や何か最重要の軍事基地がある訳でもない。
「第零……リスクを恐れたか?一から三はほぼ意味なし。四、五ならまだ分かる。七と八でも理解が及ぶ」
金、人、物、権力。
いずれも第六区画には存在しないものだ。
「学校しかないぞ?第六区画は……」
謎が深まるばかりであった。
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