第7話 人を選ぶ能力

 俺は単純、という理由で剣や拳、足での近接攻撃を望むが、この世界には魔法というモノがある。

 魔石、と呼ばれる希少な媒体を使うか、生まれ持った才能のみで扱うことができる、人を選ぶ能力。

 俺も使えるが、操作が面倒なので使わない。

 もし使う時があるなら、その時は剣や拳などでは戦闘の土俵にすら立つことすら敵うことのない相手のような、異常事態の時だけだ。

 

 今回はそれとは別件だが、十分にダメージを負わせたはずのコイツ……名前はコカ、とかいったか。そいつが動ける原理がいまいち分からないが、先ほどの飲み込んだもののことを考えれば、すぐに分かる。


「……麻薬か」


 麻薬は元々、医療用に作れたものだ。

 痛みを押さえ、精神を高揚させ、『自分は健康』だと体に誤認させるための物。

 それを今ここで使うのはなるほど、理に適っている。


「そうだよォ!テメェが斬ってくれたお陰でよォ?ヤクの回りが早いのなんのォ!」


 男は、焦点の合わない目つきをしながら、乱暴に魔石を振り回し、赤い炎を吐き出させつつ、暴れていた。


「それぃッ!」


 炎自体は剣を振ればその勢いでいなすことが出来る。


「少しは驚いたよ」

「キヒヒィ!」


 驚いた、という俺の発言に、わかりやすく調子に乗ったコカは魔法を使う範囲を広げた。

 自分たちの足元にある、麻薬ごと燃やしていた。


「驚いたか?お?お?」

「……少しな」

「!……じゃ、そのまま死ねやこの餓……」


 このままその勢いで押し切れると思ったのだろう。

 コカが力を込め、特大の炎の塊を発射した。

 それに対して、俺は……


「いや、魔法に対してじゃない」


 発射した炎を、俺は真正面から剣を振り、真っ二つに斬った。

 そう。こんな魔法、一般人ならとにかく、俺を燃やすには大分火力が足りないのだ。


「お前、弱すぎ」

「ッ!やめッ……!」

「もう斬った」

「て」


 コカが手を前に、わずかながら行った抵抗を無視し、中指のほぼ真ん中から肘にかけてを裂くように斬った。


「げはっ……」

「あ……あ、兄、貴ィ……」


 胸と腕を大きく斬られたコカは、麻薬が切れたのかその場に倒れ伏した。

 そして、ポチと呼ばれた一番下っ端と思しき男は、足をガタガタ揺らしながら漏らしていた。


「……魔石使うんなら俺の腕くらい細胞一つ残らず焼ききれ。甘い」



 俺はその二人を無視し、言い放った。

 魔石はあくまでも、魔法を使うにあたっての補助道具でしかない。

 火力を上乗せし、なんらかの追加効果を付与するために用いる物だ。

もしくは、魔法が使えない才能ゼロの人間の才能を一に持っていく物だ。

 そんなものを使っても煙草の火にしか使えないような火力しか出せないのであれば、それは誰でも驚くだろう。

 絶望し、倒れ伏した三人を視界に置きつつ俺は向こう側を見た。


「……さて、こっちは終わったけど……カレンさんの方はどうだろ」


◾️


「南北部隊はその場にて重装隊を軸に広く展開!東西部隊は騎馬兵を先頭にそのまま前進ッ!」

 

 私の号令を聞き、部下はそれぞれ動き出す。

 ひとまず今は、目標達を縦に伸ばすこと。

 だけど……。


「数だけはかなりいるわね……!」


 もしものことを考え、臨時に班を編成し、備えさせなきゃ。

 おそらく上等兵らが二等兵、新兵を率いる形になるだろうから、細かい指揮をしなくても良くなる。

 だから……。


「南北に命令ッ!今より四人一班を臨時編成!東西部隊が横から挟んでいるうちに各班ごとに上下から侵入し、叩けッ!」


 指示通り、四人班を組んだ、その塊が南北に点々と構え、備え始めた。


「……南北が薄くなれば、こいつらは自然と縦に伸びる!縦に伸びてくれれば……」


 千を超える人員を導入しても、ギリギリ頭数では負けていた。

 どれだけすごいの、この組織……。

 一つだけ、欲しい援護の手がある。

 おそらく、この陣形を魔法なり機械で上空から見ていれば……いや、ソリッド大尉であれば見なくてもそれをやってくれる。


「来た!」


 ズドドド、と空から鉄の雨が降り始めた。



「バリスタ第一、第二砲撃隊、撃てェッ!」


 ソリッド大尉はカレンが展開した陣形に合わせるように、最後方からバリスタによる砲撃支援を行っていた。

 陣形を見るのには機械を使う。

 このイシュトゥリア帝国は、科学と魔法が併用される、世界の国々でもかなり稀有な国だ。

 基本的に魔法か科学に方針を固めて使用、開発、研究が行われているが、この帝国は手を抜かない。

 使えるモノは使う、の精神で様々な分野に手を出している。

 今、使われているバリスタも、科学と魔法が手を組んだ結果だ。

 撃つものは物理法則に則っているが、その撃つまでの過程には魔法が使われている。


「やるなら徹底的に、だ!」


 ソリッドがドローンを上空に飛ばし、魔法で視点を複数にし、三百六十度、全方向から戦局を確認し、指示を飛ばす。


「最前線部隊のことは気にするな!カレン中尉であれば私がことを織り込んで隊列展開をしている!」


 バリスタ砲撃を一から四部隊に分け、一、二部隊が撃ち終え、残り舞部隊と交代するタイミングで大尉の手元にあった通信機が鳴った。


「カレン中尉!どうした!」

『もっと下……南に撃って欲しいのよー!ちょっと北で待機させてる重装隊が危ないかもなのよ!』

「了解!……バリスタ隊、南に下げろ!」


 三、四部隊のバリスタの照準が南方向に飛ぶよう、調整された。

 そして、そのまま弾が放たれ、着地点を南にずらしつつ、砲撃支援を継続した。

 連絡部隊が前線の様子を確認すると、ソリッドとカレン、お互いがお互いの思考を読んでいたかのような陣形が広がっていた。

 もちろん、それを見て誰しもが驚くのは言うまでもない。


「本当にそういう指揮、執ってるんだ……」

「冷静に考えろ、カレン『中尉』だぞ?今年にじ……」


 うっかり、その場にいた一人がカレンの実年齢を漏らしそうになると、彼らの背後にあるスピーカーからカレンの怒声が響き渡った。


『そこ!乙女の年齢は大っぴらに口にするもんじゃないのよ!というか私、まだ十九歳だし!イケイケのティーンエージャーなーのよー!』

「「十九歳!?!?」」


 会話が聞かれていたことよりも、カレンが自分で言い放った年齢が、連絡隊に大きな衝撃を呼んだ。


「……はぁ。彼女もまた、天才。どうなってんだ、イシュミール家の血は」


 スピーカーからの音量が大きい事もあり、ソリッドの周りにいた別の舞台にもカレンの実年齢事情が明かされ、その衝撃に皆、ため息をついていた。

 ソリッドのみ、色々知ってはいるので、何も驚かずに通信機で細かく連携を詰めていく。


「とりあえず、カレン中尉、そっちはどうだ?」

『はいはーい!こっちは現在順調!囲い込み漁の要領で一斉拿捕を目指して包囲範囲縮小中!東西方向から挟み込んでるから南北方向に目標は分散するはずだから、そこを南北に配置済みの重装隊で通せんぼよ!』

「了解!ではこちらは継続して射撃支援を行う!」


 もう一度、砲撃部隊を交代させ、絶え間なく砲撃を行う後方組。

 カレン率いる前線組は――。


「さあみんな!行くわよ!敵の大半はルシウスのおかげで戦闘不能!一気呵成に畳みかけるわよ!」

「「「応ッッ!!」」」


 ルシウスの暴れと、カレンの指揮。それらの相乗効果によって上がった士気で以て、最後の詰めに戦局を持っていくのであった。

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